「潜水病」の後遺症・症状はご存知ですか?医師が監修!

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潜水病とは、海中から陸に浮上する際に起こる病気のことであり、減圧症ともいわれる病です。

仕事で潜水を伴う方や、アウトドアでスキューバダイビングをする方は、押さえておいた方が良い知識です。

そこで、この記事では潜水病について、原因・症状・治療方法・予防方法・後遺症などを詳しく解説します。

詳しい症状を知らないという方も、詳細な原因や症状などを把握するのに役立ててください。

潜水病の原因と症状

潜水病とはどのような病気ですか?

減圧症とも呼ばれるこの病気は、深く潜水した際に起こる可能性が高い病気です。

そのため、ダイバーの方や海上自衛隊の方など、潜函作業を行う方に起こりやすい病気といわれています。

スキューバダイビングなどで深く潜水したときには、人は高い気圧を受けた状態となります。そして、そこから地上に戻る際に、環境圧が平常気圧へと急激に低下するため起こるのです。

この病気を引き起こさないためには、あらかじめ予防方法や治療方法を備えておくことが非常に大切になります。

予防方法さえ押さえておければ、発症率を大きく下げることができるのです。

潜水病を発症するメカニズムについて教えてください。

この病気を発症するメカニズムは、スキューバタンク環境圧が大きくかかわっています。

一般的に、深く潜水する際には、スキューバタンクと呼ばれる酸素の入ったタンクを背負います。

そのタンク内には、呼吸に不可欠な酸素が入っていますが、実は酸素だけではありません。

タンクの中には窒素も含まれており、この窒素が原因物質となっているのです。タンク内の酸素と窒素の割合は、酸素2割・窒素8割となっており、潜水をしていると徐々に血液中や細胞の中に窒素がたまっていきます。

窒素が体内にたまること自体は、問題ありません。しかし、一定以上の窒素が体内にたまった状態で、陸上に上がろうとするとこの病気を発症します。

通常、深く潜ると、圧力は高くなります。この状態では、発症しません。しかし、陸上に上がろうとすると、徐々に圧力が低くなります。すると、身体にたまった窒素が、血液や細胞の中で気泡を形成するのです。

体内では、キャップを開けた炭酸飲料のように泡を発生させている状態となります。これが病気発症の仕組みです。

原因は何ですか?

この病気は、先述したようなタンク内の窒素や潜水による圧力の低下が原因となります。

しかし、症状発症のリスクを高めたり、悪化させたりする原因としては次のようなものも関係しています。

肥満

高齢者

飲酒

脱水

疲労

BMIが25以上ある方の場合、発症のリスクが高くなる傾向です。また、40歳以上の方は、未満の方よりも発症リスクが高いといわれています。

飲酒は、脱水症状を引き起こす原因となります。その他、下痢や嘔吐による脱水・水分摂取が少なく脱水症状を起こしている場合、発症リスクを高める傾向です。

身体が疲れている時や、体調不良を起こしている時も、発症しやすくなります。

また、複数回潜水を行うと、1回の潜水よりも発症リスクを高めるといわれています。これは、身体に窒素が溶け残ったままになっているためです。

どのような症状がありますか?

この病気の具体的な初期症状としては、潜水中の息切れ・疲労感・筋肉や関節の痛みなどが代表的です。

しかし、症状が悪化すると損傷した部位に応じて次のような減圧症に分類され、異なった症状を示します。

Ⅰ型減圧症

Ⅱ型減圧症

Ⅰ型減圧症は、比較的軽傷のタイプであり、典型的な痛みが伴うタイプです。痛みの生じる場所としては、腕や足の関節・背中・筋肉などです。最初は、軽度の断続的な痛みですが、徐々に痛みが激しくなります。

痛みは、骨に穴をあけられているような痛みと表現される程であり、動かしていると悪化する可能性があります。

痛みの他には、かゆみ・皮膚の斑・リンパ節の腫れ・発疹・極度の疲労なども起きる場合がありますが、比較的稀です。

一方で、Ⅱ型減圧症の場合は重症の部類となります。腕や足のしびれ・痛み・筋力低下などが、個別で発症する場合や複合して現れる場合があります。

また、排尿・排便がコントロールできなくなる症状や、腹痛・背部痛なども良く現れる症状です。さらに、重度の頭痛・錯乱・複視・めまい・意識喪失なども起こす可能性があります。

肺にも気泡が運ばれるようなことがあれば、咳や胸痛を引き起こし、呼吸困難を発症する場合もあるでしょう。

潜水病の診断基準と治療方法

診断基準を教えてください。

さまざまな症状が生じることをご紹介しましたが、診断基準は自覚症状の有無問診などによって判断します。

専門の医療機関にかかると、まずは問診と自覚症状のチェックを行います。その症状の内容や度合いの確認を行うのです。

主な自覚症状としては、頭痛や皮膚の痛み、息が詰まる感覚などが挙げられます。自覚症状として認識しにくい症状もありますが、これらの症状が初期症状として現れやすい傾向です。

そして、自覚症状と診断所見の結果をもとに、その後どのような検査が必要かを判断します。

痛覚や温度の感覚が低下している場合もあるため、ルレット知覚計や氷を用いてこれらの感覚検査を行った上で、詳細な検査内容を決めます。

どのような検査を行いますか?

検査方法は、次のような方法です。

問診

血液検査

超音波ドップラー検査

画像検査

まずは、問診により自覚症状の有無や病状の経過・潜水時の状況・急速な減圧があったかなどを確認します。それと同時に、これまでの病歴なども問診を行います。

身体の診察も行われ、主に皮膚の状態や神経学的な所見を確認することになるでしょう。

血液検査では、ヘモグロビン値・ヘマトクリック値・凝固能などの調査を行います。超音波ドップラー検査では、心臓の静脈内の気泡を確認します。

画像検査では、CT検査MRI検査によって脳や脊髄の異常を確認する内容です。

治療方法を教えてください。

治療方法は、再圧治療を行います。再圧治療とは、1気圧以上のチャンバー内で100%の酸素を数時間吸入する方法です。身体の中の酸素濃度を増やすとともに、窒素濃度を減らす効果があります。

また、一酸化炭素濃度を減らす効果や、気泡の大きさを小さくする効果もあります。軽度の場合でも、受ける治療方法です。

しかし、この治療方法を受けるには、専用の装置がなければ受けられません。そのため、この治療方法が受けられない場合は、受けられる医療機関に移動する必要があります。

その際には、100%濃度の酸素を吸入しながら、再圧治療が可能な施設へと移動することとなるでしょう。

潜水病の予防とリスク

潜水病の予防方法を教えてください。

予防方法は、次のような方法があります。

ゆっくりと浮上する

潜水の深さにより、ディープストップを行う

ダイビング後に飛行機には乗らない

高血圧の方はダイビング前に診断を受ける

ダイブコンピューターを活用する

予防するにあたり、ゆっくりと浮上する方法は効果的です。深く潜水するほど、水圧は高くなります。

浮上をゆっくりにすることで、水圧の急激な変化を防ぐことができ、効果的に発症リスクを下げることが可能です。目安としては、1分間に18m以上の上昇は避けるべきといわれています。

しかし、遅すぎても気泡は増えてしまう可能性が高いです。そのため、気泡を減らせる1分間に10m程度を目安に上昇すると良いでしょう。

ディープストップとは、潜水した深さの半分の深さの時点で、一旦停止するというものです。これにより、窒素の気泡が発生しないように、身体を慣らすことができます。

ただし、潜水の深さによってディープストップをすべき深さやタイミングは異なるため、インストラクターの指示や事前に情報を把握しておく必要があるでしょう。

この病気は、ダイビング後の飛行機での移動をする際に、発症する場合があります。そのため、ダイビング後の飛行機移動を避けることも、予防方法に挙げられます。

ダイビングにより身体に溶け込んだ窒素は、18時間以上立たなければ抜けません。また、窒素が抜ける時間は、潜水の深さによっても異なります。潜水の深さによっては、24時間以上体内に残る場合もあります。そのため、ダイビング当日に飛行機移動は避けましょう。

高血圧の方は、発症のリスクが高いです。ダイビングをするのであれば、最低血圧90以上・最高血圧140以下の適正範囲内であるかを確認し、心配な方は診断を受けましょう。

ダイブコンピューターの活用も有効な予防方法です。これを使えば、水深・潜水時間・浮上速度・停止時間などを測定してくれます。

わかりやすく把握できるため、安全潜水・浮上を行え、予防につながるのです。

後遺症はありますか?

この病気は、症状により後遺症が残る場合があります。

特にⅡ型減圧症の場合、脳や脊髄に深刻な損傷が生じることがあり、これにより後遺症を残すケースがあるのです。

脳の損傷の場合は、軽度のけいれんや麻痺から、重度のものまであります。また、脊髄の損傷であれば、神経系を傷つけ車いす生活を余儀なくされることもあります。

このように、損傷個所によっては重度の後遺症が残るかもしれないため、注意が必要です。

死に至るリスクはありますか?

この病気は、後遺症が残る場合があることをご紹介しましたが、最悪の場合は死に至ることもあります。

血液中に気泡が生じることで、この気泡が肺に到達することがあります。肺の症状は、胸痛や咳などの軽度の症状から窒息までさまざまです。

そして、稀ではありますが、これらの症状が重度になると死に至ることがあります。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

この病気は、身体の中の窒素により気泡が生じ、さまざまな症状が生じる恐ろしい病気です。稀ではありますが、最悪死に至る可能性もあるため、必ず予防するようにしましょう。

予防方法を実行できれば、軽度な症状でもリスクを減らせます。

ダイビングをこれからしたいと考えている方や、潜水作業を伴う方は、正しい知識を備えて潜水できるようにしましょう。

編集部まとめ


潜水病は、誰しも発症するリスクのある、身近で恐ろしい病気です。最悪の場合、死に至ることもあります。

しかし、正しい知識を備えて予防できれば、発症リスクは大きく下げることが可能です。

後遺症などを残さないためにも、予防方法や治療方法などをしっかりと押さえましょう。また、万が一異変を感じた場合は、専門の医療機関に相談しましょう。

参考文献

減圧症|Medical Note

潜水病とは?減圧症の違いや具体的な症状について|BIGHOLIDAY

潜水病|HOSPITA.JP

たったこれだけ!ダイビング後におこる「減圧症」の予防法を解説|Diving School MAREA

ダイバーなら知っておきたい減圧症にかかりやすい条件|oceana

減圧症|MSD マニュアル 家庭版

潜水病(減圧症・減圧病)の原因・症状・治療法|AllAbout 健康・医療

再圧治療|MSD マニュアル 家庭版

潜水による障害,再圧治療