Jリーグでも指揮を執ったギド・ブッフバルト氏【写真:Getty Images】

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【専門家の目|ギド・ブッフバルト】ドイツ人は「日本の実力を軽視はしていない」

 カタール・ワールドカップ(W杯)開幕が目前に迫っている。

 日本代表(FIFAランキング24位)がグループリーグで戦う相手はすでにドイツ代表(同11位)、コスタリカ代表(同31位)、スペイン代表(同7位)に決まっている。ドイツとスペインはW杯優勝経験のある文字通りの強豪で、コスタリカも2014年のブラジル大会でベスト8に進出した、一筋縄ではいかない相手だ。

 日本がグループリーグを勝ち抜くためにはいくつもの障害を乗り越えなければならないが、特に初戦となるドイツ戦の勝敗は重要なファクターになる。そこで今回、ドイツ代表として1990年のイタリア大会優勝に大貢献した名DF、そして2004〜06年まで浦和レッズを指揮してJ1リーグ制覇も果たしたギド・ブッフバルト氏を直撃。ドイツ戦の展望や注目する日本人選手、ドイツ人選手などについて語ってもらった。(取材・構成=島崎英純/全3回の2回目)

   ◇   ◇   ◇

――カタールW杯では日本とドイツはE組に入り、スペイン、コスタリカと同居することになりましたが、率直にどんな感想を抱きましたか?

ギド・ブッフバルト(以下、ギド)「まず、ドイツと日本が一緒の組になったのはとても嬉しかったです。私はドイツ人ですけども、私にとって日本は第2の故郷でもありますから。ドイツ代表は今、(ヨアヒム・レーブからハンジ・フリックに)監督が代わっていいチームを作り上げているところです。また、最近は日本も非常に安定した戦いをしているようですので、日本とドイツの試合を非常に楽しみにしています」

――ブッフバルトさんのドイツのお知り合いの方々は、ドイツと日本が同組に入ったことをどのように捉えているのでしょうか?

ギド「ドイツ人の多くは、日本人選手がブンデスリーガでプレーしていることを知っています。長谷部誠、鎌田大地、遠藤航、伊藤洋輝、堂安律、浅野拓磨、吉田麻也、板倉滉、それから原口元気もいますね。それ以外にもヨーロッパで多くの日本人選手がいい活躍をしているということで、私の周りのドイツ人は日本の実力を軽視してはいません。日本を恐れているとまでは言いませんが、リスペクトをしていると思います。日本は選手個人だけではなく、チームとしても統一された戦い方をしているので、その点も評価されています」

――ドイツ人であるブッフバルトさんから見て、W杯初戦で対戦するドイツと日本のゲームはどんな勝敗になると予測していますか? 日本代表がドイツに勝てる可能性はあるのでしょうか?

ギド「個人的な意見になりますが、ドイツ対日本はいい試合になるだろうと思っています。というのは、日本人も対人プレーが非常に強くなってきていますからね。ただ総合的に見ると、やはりドイツが少し日本よりも勝っているかなと。今のドイツはすべてのポジションで世界クラスの選手がいますから、僅差ながらもドイツが勝つというのが私の予想です。ただし、今回は開催地であるカタールという土地の問題もあります。現地の気候、母国から当地までのフライト時間、時差などの影響も実際にはあるでしょう。その状況は今の段階では分からないので、どちらが優位かははっきりしませんが、個人的にはやはりドイツが少し勝っていると思っています」

ミュラー、キミッヒ、ゴレツカのベテラン、中堅サネ、若手ムシアラらに言及

――ドイツは実績のあるスターも多いですが、若手選手も非常に成長している感があります。例えば、ボルシア・ドルトムント所属の22歳DFニコ・シュロッターベックなどは実力のある選手だと思いますが、ブッフバルトさんから日本のサッカーファンに向けて紹介したいドイツ人選手、また警戒すべき選手はいますか?

ギド「シュロッターベックはディフェンスの選手ですが、守備だけではなくセットプレーの時に相手ゴール前へ上がってくるので、日本は気を付けなければなりません。また、そもそもドイツ代表は若手選手だけでなく、トーマス・ミュラー、ジョシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカなどといったベテラン選手たちがリーダーシップを発揮しています。また、レロイ・サネは1人で試合を決定付けられる攻撃的な選手なので警戒しなければならないと思います。また、若手選手では攻撃的ポジションに入るジャマル・ムシアラの存在も忘れてはなりません」

――今、挙げていただいた選手はほとんど王者バイエルン・ミュンヘンの選手ですね。そうなると、カタールでの日本代表はほぼバイエルンと戦うような感覚になるのでしょうか?

ギド「そうですね。バイエルンはドイツ国内で最強ですし、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも優勝を狙える、ヨーロッパでも屈指のクラブだと思います。また、ドルトムントも常時国内で優勝を争っていますが、ドルトムントはチーム内にドイツ人が少ない状況があります。一方でバイエルンは、主力がドイツ人選手で構成されていますから、必然的にバイエルンのメンバーを主体にした代表チームが形成されます。また、今のドイツ代表監督であるハンジ・フリックはバイエルンを率いていた指導者でもありますから、日本代表がバイエルンと戦うという見立てはおおむね正しいですよね」

鎌田大地を高く評価「W杯でも当然活躍できる」

――ブッフバルトさんは鎌田大地選手をかなり評価されている印象受けました。改めて、彼のプレー面での感想を聞かせください。

ギド「鎌田のいいところは、ディフェンスが予測できない動きをするということ。左からも右からも突破できる。さらに、彼のゴール前でのパスは質が高いですね。FWへのパスが非常に効果的なうえに、彼自身も決定的なエリアに飛び込んでゴールも挙げられます。その意味では、対峙するDFにとって非常に厄介な選手です。そして昨季、彼の在籍するアイントラハト・フランクフルトはUEFAヨーロッパリーグ(EL)で優勝しましたよね。そのような経験も携えたので、彼はW杯でも当然活躍できると、どんな相手に対しても活躍できると思っています」

――例えば、遠藤航がプレーする中盤の脇のスペースは警戒しなければならないなど、日本代表の改善しなければならない課題・弱点などはありますか?

ギド「指摘しているボランチの脇は私もたしかに気になっていた部分で、チーム全体でコンパクトにしなければならない部分ですが、最近の日本代表は失点が減っていますので、その点は改善されていると思います。攻撃に関しては、先ほどから言っているようにヨーロッパで活躍している攻撃的な選手がいるので、そこはあまり心配していないですね。ただ、やはり守備に関しては統一意識をしっかり持った方がいいと思います」

[プロフィール]
ギド・ブッフバルト/1961年1月24日生まれ、西ドイツ出身。シュツットガルト(ドイツ)―浦和―カールスルーエ(ドイツ)。ドイツ代表通算76試合4得点。鉄壁のディフェンスで西ドイツ代表の1990年イタリアW杯制覇に大きく貢献したレジェンド。1994〜97年には選手として、2004〜06年には監督として浦和に在籍し、06年にはJ1優勝、天皇杯優勝へと導いた。(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)