試合終了時のフィリーズバッテリー【写真:ロイター】

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CY賞候補筆頭のバーランダーが最高の立ち上がりも4回につかまった

■フィリーズ 6ー5 アストロズ(ワールドシリーズ・日本時間29日・ヒューストン)

 ワールドシリーズが28日(日本時間29日)、米テキサス州ヒューストンで開幕した。同地を本拠地とするア・リーグのアストロズと、ダルビッシュ有が所属するパドレスを破り勝ち上がったナ・リーグのフィリーズとの第1戦は、延長戦に突入。10回表にフィリーズの3番JT・リアルミュート捕手が右翼へ決勝のソロ本塁打を放ち先勝した。【ヒューストン=木崎英夫】

 ナ・リーグ最下位シード(第6シード)から快進撃するフィリーズを迎え撃つのはア・リーグ第1シードのアストロズ。4万2903人がスタンドを埋め尽くした本拠地のマウンドで、今季のサイ・ヤング賞候補筆頭の右腕ジャスティン・バーランダーが躍動。序盤の3回をパーフェクトに抑える。自身初のワールドシリーズ初勝利(通算0勝6敗)へまい進すると思われたが、4回2死二塁からフィリーズ打線に3連打を許し急転直下の3失点。5回には2点を奪われ同点とされ、6回からマウンドを譲った。

 試合後、フィリーズのロブ・トムソン監督は「3点を取って勢いがこちらに来たことでいけると思った」と振り返り、バーランダー攻略の糸口として、精度が落ちたカーブとスライダーに的を絞り3連打に結び付けた4回の攻撃を勝利への分岐点に挙げた。

 一方のアストロズは、2回と3回にカイル・タッカーの2打席連続本塁打などで計5点を奪ったものの、その後は相手の救援陣に抑え込まれた。

両軍主力が見せた全力疾走…ルールに抵触しそうな走塁も

 73歳の名将ダスティ・ベイカー監督率いるアストロズと、カナダ出身の監督として初めてワールドシリーズに進出した59歳のロブ・トムソン監督が指揮するフィリーズとの戦いは、随所に見ごたえのあるプレーにあふれていた。

 技術と、勝負への執念に満ちた4時間半の激闘――。

 タッカーの先制ソロが出た2回裏の攻撃。1死一塁の場面で右打席に立った8番チャス・マコーミックは、ゾーンを外れ内に食い込んでくる94マイル(約151キロ)速球を右前に運び、走者を三塁へ進め2点目を生む後続の安打を呼び込んだ。大谷翔平のチームメートで夏場のトレードでエンゼルスから移籍したフィリーズの9番ブランドン・マーシュも見せた。5回の第2打席で、ボールの内側にバットを入れるインサイドアウトの意識で内角低めの直球を捉えると、スライスした打球が見事に左翼線に切れ込み、5-5の同点に追いつく反撃の口火を切る二塁打とした。

 懸命に走る姿が両軍にあった。

 長打が売りのアストロズの2番ヨルダン・アルバレスが内野ゴロで一塁へ疾走。6番のユリ・グリエル(元DeNA)は投手左への当たり損ねの打球に全力で一塁ベースを駆け抜け内野安打を稼いだ。得点には結び付かなかったが、メジャー通算8年で22盗塁のフィリーズの1番カイル・シュワーバーは、終盤に入った7回に重圧をかける二塁盗塁を敢行し成功。アストロズの1番アルトゥーベは、9回にこの試合初安打で出塁すると、次打者の初球にスタート。得点圏へ足で突入した。

 さらに、この日2ホーマーのタッカーの走塁も見逃せない。10回裏、1死二塁の場面で空振り三振を食らうが、ボールがバウンドしたのを察知すると振り逃げを試み一塁へ猛ダッシュ。途中、一塁線の内側を走りリアルミュートの送球ミスを誘う動きに出た。ルールに抵触するが、みすみすアウトを献上する淡白な走りには、もろさのない「窮地に追い込まれても諦めない」気持ちが映っている。

フィリーズ指揮官「大した仕事はしていない。仕事をしているのは選手」

 試合前の会見で、ベイカー監督は、時々の状況で見て取れる各選手の意思を代弁するかのように、こう述べた。

「私がこれまで指揮を執ってきたチームの中で最も能力が高い選手の集団のうちの一つであるだろうが、今のチームはこれまでで最も勝利を期待できる。またそれを期待してプレーしているのが彼らなんだ」

 敵将のトムソン監督は味わったワールドシリーズ初勝利に率直な気持ちを表した。

「最高だね。気持ちは高ぶっている。逆転で勝ったのだからね」

 そして、こう続けた。

「コーチたちと大事な場面で意見交換をしては助けてもらっている。私がしたのは選手交代などの最終的な決断だ。大した仕事はしていない。仕事をしているのは選手たちだ」

 6月途中に解任されたジョー・ジラルディ監督の代行としてタクトを振ってきた同監督の謙虚な姿勢と穏やかな口調は大舞台でも変わらない。

 両軍の指揮官と選手が心で通じ合う今シリーズが面白くないはずがない。第2戦が間もなく始まる――。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)