中国・蘇州市を拠点とする、ロボット掃除機メーカーのECOVACS(エコバックス)。創業は1998年、中国では2006年からロボット掃除機の製品開発を開始。2014年に日本法人を設立して以来、日本市場でも本格展開している。

中国のECOVACSが2022年春に投入した「DEEBOT X1」ファミリー。3製品をラインナップしたフラッグシップシリーズで、最上位機種のOMNIは充電ドックに自動ゴミ収集機能と自動モップ洗浄機能まで備えた

そんなECOVACSが2022年4月に日本で発売した「DEEBOT X1」ファミリーは、同社におけるフラッグシップシリーズ。ロボット掃除機本体は、吸引掃除に加えて水拭き掃除をする機能を持つ。機能や付属品の異なる3モデルを展開するが、中でもフルスペックモデルである「DEEBOT X1 OMNI(ディーボット・エックスワン・オムニ)」は、自動モップ洗浄機能を備えたロボット掃除機として注目を集めている。

今回はECOVACSの製品開発者に、本体の外観デザインを有名デザイナーに依頼した経緯など、DEEBOT X1 OMNIの開発秘話を聞いた。

○モップ洗浄の自動化には隠れた試行錯誤

DEEBOT X1 OMNIの充電台「ドッキングステーション」は、自動ゴミ収集機能に加え、床拭き用のモップを自動で洗浄する機能も備えている。

ダストボックスの中身を自動で外付けの紙パックに回収する自動ゴミ収集機能は、日本でも普及しつつある。だが、すでに中国では水タンクの給水からモップの洗浄、乾燥まで自動で行える水拭きロボット掃除機が一般的になっているという。

開発担当者は、ハードウェアの開発プロセスで最も苦労した点について、「自動ゴミ収集と自動モップ洗浄の融合」と明かす。

「X1 OMNIのロボット掃除機本体はシリーズで共通ですが、ドッキングステーションに自動ゴミ収集と自動水回り清掃機能を搭載したことが特長です。これらを1つのステーションで実現するには、抜本的なハードウェアの再設計と制御システムの再構築が必要でした。

構想自体はシンプルですが、実現までに長期的な研究と無数におよぶ実験を重ね、ようやく完成したものです。研究ラボから工場までをすべて自社で保有しているECOVACSだからこそ実現できたと自負しています」(開発担当者)

X1 OMNIは、5000Paのパワーを持つ吸引部と、圧力6N・1分間に180回転する加圧回転式のデュアルポップを搭載

OMNIの充電ステーション。下方に自動ゴミ収集用の機構、上部に自動モップ洗浄用のタンクの機構を備えている

OMNIの充電ステーションの内部構造イメージ

ソフトウェア制御の面でもアップデートを図っていて、なかでもユニークなのは、「YIKO(イコ)」と呼ぶ独自の音声アシスタント機能。音声操作に対応した他社のロボット掃除機の場合、スマートスピーカーを介して応答するが、YIKOはロボット掃除機本体に呼びかけると反応するのが特徴だ。これもロボット掃除機に高性能なチップを搭載したことにより、なし得た技術のひとつだ。

独自の音声アシスタント機能「YIKO」を搭載。スマートスピーカーを介さず、本体が直接音声コマンドに応答する

しかし、新製品を日本市場に投入するにあたっては、この日本語化が最大の難関だった。

「YIKOはもともと中国語をベースに設計されていました。音声識別の精度を左右するのはAIシステムのプログラムだけでなく、機械学習させるデータの量に依存しますが、日本語は中国語や英語に比べてとても変化の多い言語です。

例えば、『掃除開始』の指令を出したい場合、『掃除して』、『床を掃除』、『清掃』、『クリーニング』などいろいろなパターンの話し方があります。社内開発チームでインプットするデータ以外に、日本国内でたくさんのβ版テストユーザーを起用し、半年以上をかけてYIKOに日本語を教えていきました。今でもAI学習が継続していて、YIKOはどんどん進化しています」(開発担当者)

シリーズ共通の仕様として、3モデルともに本体には高性能なAIチップとHDRカメラを搭載

○「北欧デザインの巨匠」の設計が実現した静音性

ブランド史上最高峰の性能・機能を標榜する製品とあって、デザインにも多大なリソースが注がれている。あの世界的なデザインオフィス「JACOB JENSEN(ヤコブ イェンセン)」にデザインを依頼したことでも注目を集めたが、その意図と狙いを次のように語った。

「近年、丸い形のロボット掃除機が数多く発売されることにより、外観デザインの混同が進み、ビジュアルだけでは区別が困難になってきました。そこであえて家電製品のデザイナーではなく、時計から家屋まで幅広く手掛けているにも関わらず、それぞれのジャンルで代表的なデザイン作品を出されている北欧デザインの巨匠・ヤコブ イェンセン氏の事務所を選びました」(開発担当者)

世界的なプロダクトデザイナー・ヤコブ イェンセン氏によるデザインイメージ。パーツ単位で一からデザインを依頼した

ロボット掃除機のような高機能な製品の場合、パーツの数はそのぶん多くなり、配線・配置も複雑になるもの。ヤコブ イェンセン氏と言えば時計のデザイナーとして特に知られているが、限られたスペースに複雑なパーツを収めていくのは得意とするところでもある。

DEEBOT Xシリーズをデザインするにあたっては、ネジ1本単位からの設計を依頼したそうだ。DEEBOT Xシリーズは動作音が静かなことも特長だが、無駄なすき間や噛み合わせの悪い部分をなくし、各パーツがロボット掃除機本体内に整然と収まっているため、余計な振動が発生せず静音化にもつながっているという。

デザインを依頼するにあたって、エコバックス側から提示したのは『ユーザーエクスペリエンスを重視すること』、『グローバルにおけるロボット掃除機のデザイン的な流行りとトレンドを参考にすること』、『これまでのDEEBOT製品と差別化しつつも、ブランドイメージから離脱しないこと』の3点。「この3つの指針をもとに、市場に対してどのように革新的な商品を展開するかが、今回のコラボレーションにおける一番のチャレンジでした」と開発担当者は振り返る。

他のDEEBOT製品との具体的な差別化のポイントとして、「プレミアム感を醸成する黒とシルバーの色で構成されたデザイン」と「ツヤ感とマットな素材感を織り合わせたストライプ状のデコレーション」を挙げる。一方、総合的な検討と判断の結果、ロボット掃除機本体の形状に、市場に多く存在するラウンドシェイプ(円形)が採用されたのは次のような理由だ。

「X1ファミリーのデザインを検討しているとき、丸型が(ロボット掃除機において)最も多く取り入れられているデザインであることは明らかでした。丸型は複雑な環境下でも立ち往生をしない一方で、他の形状と比較すると、部屋のスミの掃除力は劣るケースもあります。それぞれのデザインでポジティブ・ネガティブがあるため、より大局的な検討をしました」(開発担当者)

そうして誕生したのが、高級感あふれる北欧モダンなデザイン。見た目だけでなくメンテナンスのしやすさなど、使用シーンも考慮。本体の表面にはネジ1本すら使われておらず、複雑な機能を最大限シンプルに表現した『究極のデザイン』を目指したものだ。









本体の外側にはネジ1本すら使わず、内部の余計な隙間を極力なくすことで静音化を図った