フィリーズ戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:ロイター】

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7回途中2失点の粘投も8回に逆転され、メジャー10年目シーズンが終了

■フィリーズ 4ー3 パドレス(リーグ優勝決定シリーズ・日本時間24日・フィラデルフィア)

 パドレスとフィリーズのリーグ優勝決定シリーズ第5戦が23日(日本時間24日)行われ、パドレスの先発・ダルビッシュ有投手が6回0/3を投げ、4安打2失点と粘投。勝機をもたらしたが、2番手のロベルト・スアレス(元阪神)が8回に相手の主砲ブライス・ハーパーに逆転2ランを被弾。パドレスは9回の攻撃で2死二、三塁の好機を作ったが得点できず、同シリーズ1勝4敗で敗退が決まった。【フィラデルフィア=木崎英夫】

 背水の陣で敵地シチズンズ・バンク・パークのマウンドに立った。雨が降る悪条件のなかで今季を象徴する粘りの投球を続けた。1、2回は先頭打者を出したが、いずれも右打者をシンカーで併殺打に仕留めた。3回、2死二塁からリース・ホスキンスに先制2ランを被弾したが、以降は無失点の投球を続けた。味方打線が右腕の粘投にこたえたのは4回。フアン・ソトのソロ本塁打が出て1点差に迫ると、7回には2連打と2つの暴投が絡んで2点を挙げ勝ち越し点を奪った。

 1点リードの7回、先頭打者に二塁打を許したところでスアレスにマウンドを譲ると、ダルビッシュは三塁側のダグアウトから戦況を見守っていたが、スアレスの被弾で形勢は一転。9回の攻撃も無得点に終わり、28年ぶりのリーグ優勝決定シリーズ進出も1勝1敗から敵地で3連敗。メジャー10年目のダルビッシュのシーズンは終わった。

 静まり返るクラブハウスで、ダルビッシュは落ち着いた声で敗戦を振り返った。

「(チームの全員が)悔しいと思いますよ。でも、悔しいと同時に、自分たちはここまで来たんだという満足感というものが……。ファンの方からすると、『何を言ってんだ!』と思うかもしれないですけど、(レギュラーシーズン)80何勝(89勝)というところで、ここまで来たので。そういうところは、すごくあると思いますね」

フォーム映像など収めたiPadを常に携帯「しっかり考えるようになった」

 ワイルドカードでプレーオフ進出を果たした今季のチームの躍進を安定した投球で支え続けた。30試合に登板し自己最多に並ぶ16勝を挙げ(8敗)、クオリティスタート(6回以上自責3以下)はリーグ1位の25度を数えた。その安定の裏には、自身のフォーム映像などを収めた「虎の巻」とも言うべき“iPad”が大きく寄与している。

 愛妻との外食の際にも携帯する宝物。今シリーズ第1戦の前日会見では「基本的に(シーズン中は)ずっとオン。それをしないと相手のことを本当の意味で理解するということは多分できないと思います」と明かしたダルビッシュは、改めて言葉を重ねた。

「いつも言うように、相手打者の研究であったりとか、前回の反省からどういうふうに自分はやっていけばいいかとか。次の対戦相手を見て、登板間のブルペンであったり、キャッチボールでどういうことをやればいいかっていうのをしっかり考えるようになりました」

 その一端を見たのが、2日前のブルペンでの投球練習だった。プレートの踏み位置がシーズン序盤と同じほぼ中央になっていた。ところが、崖っぷちに立たされたこの日の試合開始直後で数球を投げると、ダルビッシュは、右打者へのシンカーをより効果的な軌道にするため、わずかに三塁側へと移した。これが奏功し2併殺を記録。逆に、今シリーズ第1戦では、プレートの三塁側に置いていた右足を“数センチ”中央寄りへと動かし、内角への切れ込み過ぎを修正した。

「頭を使うピッチャーになってきていると思います」

 己も相手も知って戦いに臨んでいる。

「今、自分はどっちかというと、ピッチングをしているという形ですね。自分のスタッフ(持ち球)で抑える、切れとかエグさとかっていうよりかは、1試合の中でしっかり組み立てを考える、頭を使うピッチャーになってきていると思います」

 36歳の今、“知力の最大出力”を上げることへ快感を覚える新たな領域の中にいる。しかし、7年前の思いは明らかに違っていた――。

 右肘の靭帯を損傷し、修復手術を受け単調なリハビリを繰り返していた2016年の春のことだった。ダルビッシュはこう言った。

「同じ球速の球でも、全力で投げてその数字と余力を残して投げてその数字が出るのでは、意味合いが違う」

「エンジンという部分ではちょっと持たなかった」

 日増しに饒舌さを増していき、こうも言った。

「自動車に例えるなら、軽自動車が高速道でアクセル全開で100キロ以上の走行を続ければ、エンジンに負担がかかりダメージは大きい。それが、フェラーリがアクセル抑え目で100キロ走行を続けても、エンジン機関への負荷はほとんどかからない」

 強い日差しが照り付けるアリゾナのキャンプ地で、筋力トレーニングに励み肉体改造に取り組んだ。復帰した2017年のシーズンからは球速も球威も増した。が、あの頃の思いを完全に頭の中から切り離したわけではない。ダルビッシュは、今後の目標を匂わせるように言葉を紡いだ。

「今シーズンはより試合で結果を出すというところで、いろいろトレーニングであったりとか、犠牲にする部分も結構あった。その分、エンジンという部分ではちょっと(身が)持たなかったというところは正直あるので。まだまだってところですね」

 今プレーオフ4登板を含め、今季に投げたのは3357球――。滋味あふれる“ピッチング”を賞味するダルビッシュ有のメジャー10年目のオフは、能力の余白を埋めるためのオンの始まりでもある。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)