MNO各社の低料金プランの契約状況について考えてみた!

みなさんはNTTドコモのahamo(アハモ)やKDDIのpovo2.0(ポヴォ・ニーテンゼロ)といった、移動体通信事業者(MNO)の新料金プラン(低料金プラン)を利用しているでしょうか。筆者は先日、世間一般のトレンドから2〜3周遅れるようにしてようやくahamoとpovo2.0の2つを契約しました。

いずれもメイン端末であるiPhone 14で契約し、主回線としてahamoを、副回線(緊急用回線)としてpovo2.0を運用しています。

オリンピックとコロナ禍のダブルパンチにより現地取材が激減していた筆者は、2020年以降ずっと自宅や取材先でのWi-Fi利用がメインで、NTTドコモのギガライトの契約のみでも十分となっていました。

しかしコロナ禍の落ち着きや企業による現地取材の復調、さらに展示会などの復活によってモバイル通信を使う機会がかなり増えてきたため、ようやく重い腰を上げて契約を変更・追加したのです。昨今NTTドコモやKDDIが起こした大規模障害の件も、2回線契約するきっかけとなっています(ほかにもMVNOを契約しているので現在は3回線持ちに)。

今年は筆者のように、仕事の増加や非常時用の副回線として安価な新料金プランに変更したり追加契約した人も多いのではないでしょうか。iPhoneやPixelなど、新型のスマートフォン(スマホ)も発売され、良い機会だと料金プランの見直しをした人もいるでしょう。

MNO各社の新料金プランは今どの程度使われているのでしょうか。そして人々はどの程度満足しているでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は新料金プランの内訳や通信各社の用意する低料金プランの利用状況について考察します。


敢えて最初から「サブ回線で」と公式に薦めてしまうpovo2.0の割り切り感は凄い


■2021年の「大戦争」によって生まれた新料金プラン
まずは言葉の定義から少し考えてみます。そもそも「新料金プラン」と一言で言っても、通信業界や通信契約に詳しい人でないと「新料金って何が新料金なの?」、「どの料金プランが新料金プランって呼ばれているの?」と分からないかもしれません。

通信業界における新料金プランとは、2020年12月にNTTドコモが「ahamo」を発表した、いわゆる「アハモショック」に端を発します。それまでの常識を打ち破るほどインパクトの強い低料金設定は各社を激震させ、それまで遅々として進まなかった通信料金の低廉化を一気に加速させます。

ahamo発表からわずか1ヶ月の間にKDDIの「povo」やソフトバンクの「LINEMO」が発表され(LINEMOは当時まだ名称が決まっていなかった)、その後も各社がお互いの出方を伺いながら料金やプラン内容を細かく変更し合う中、より低廉な料金でユーザーを獲得していた仮想移動体通信事業者(MVNO)もMNO各社に負けじとさらなる低料金を打ち出すなど、モバイル通信の歴史に残る「値下げ大戦争」が勃発したのです。


ahamoの登場はモバイル通信業界の大きなターニングポイントだった


この2021年に起きたモバイル通信料金の値下げ大戦争によって生まれた料金プラン(またその料金プランを改良したもの)を「新料金プラン」と呼んでいます。つまり、新料金プランとはMNOが用意する低料金プランのみならず、その後に登場した高額プランやMVNOが打ち出した新たな料金プランも含まれる表現なのです。

新料金プランという呼び方はahamoやpovoの登場時に業界関係者が勝手に名付け、いつの間にかそう呼ばれるようになっていたようにも思われますが、現在は総務省が新料金プランという呼称で統計を取っており、その統計データに含まれる料金プランを指す言葉として扱われることが一般的です。


新料金プランと言うとMNOの低料金プランを指しているように思われがちだが、実はそれ以外の料金プランのほうが圧倒的に多い(総務省資料より引用)


■総務省が「仕組んだ」新料金プランのカラクリ
そのため、よく勘違いされるのが「MNOの低料金プラン」のユーザー数です。

例えば総務省は菅政権時代より新料金プランへのユーザー移行状況を公表しており、菅政権時代だけでも約2500万契約が移行し、2022年5月末現在では約4000万契約が新料金プランに移行したと発表しています。



この数字の大きさを見て、「ほとんどの人がahamoやpovo2.0などに替えたんだ」と思われがちですが、実は人々が想像しているよりもかなり規模が小さい可能性があります。

前述のように新料金プランの定義は非常に広く、その多くはMNOの高額プランかMVNOの料金プランです。

しかも、MVNOの現在の業界シェアは約9.9%で(MMD研究所調べ・2022年3月現在)、総務省の統計資料にもあるように一般利用者向けの携帯電話契約数は約1億4790万であることを考えると、MVNO契約者数は1400万人前後となります。

MM総研が2022年6月に発表した「国内MVNO市場調査」でも独自サービス型SIMの回線契約数は1259.4万回線としており、1250万〜1400万という数字に信憑性があります。

MVNOを契約している人がどれだけ新料金プランへ移行しているのかは不明ですが、通信キャリアによってはほぼすべての料金プランが対象となっている点や、価格に敏感で少しでも安いプランへの移行を厭わないMVNOユーザーの傾向を考えると、新料金プランのうち1000万契約近くはMVNOである可能性は十分にあります。


2021年3月にユーザー数が275万人も減っているのはアハモショックによるものだ


さらに前述したように、新料金プランにはNTTドコモの「5Gギガホプレミア」やKDDI(au)の「使い放題MX5G/4G」、ソフトバンクの「メリハリ無制限」など、MNO各社の個人向け主力高額プランも含まれています。

つまり、いわゆる低廉な料金を武器としたahamoやpovo2.0、LINEMOと、楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」(現在はRakutem UN-LIMIT VII)といった、ユーザーが最も求めていた「MNOの低価格帯の料金プラン」のユーザー数とはまったく関係のない数字が大量に含まれていることになります。


MNO各社の高額プランを「新料金プラン」として統計に含めるのはミスリードを招かないだろうか


また、一般利用者向け携帯電話契約数というものにもカラクリがあります。

上記のように1億4790万という数字は日本の総人口を超えており、1人1契約以上の契約があることが示唆されますが、2021年10月現在の日本の人口は約1億2550万人、そのうち15〜64歳の人口は約7455万人です。この年齢帯はスマホ契約者の中心でもあることを考慮すると、実は1人1契約どころか1人2契約の時代に入っていることが分かります。

さらに、MVNOをメイン回線としている人が少ない点や、通信回線を複数契約する人の中には3契約以上持っている人もいることを考慮すると、約4000万契約という数字の裏側では、人々はMNOの低料金プランにはあまり移行していない可能性が非常に高くなります。


月額0円スタートのpovo2.0で果敢にチャレンジし続けるKDDI・橋誠社長


これらを踏まえた上で、MNO各社が公表している(あるいは推察される)低料金プランの契約者数を見てみると、ahamoの契約数は250万(2022年2月時点)、povoは120万(2022年5月時点)、LINEMOは50万未満(2021年11月時推定)、楽天モバイルは477万(2022年6月時点)となっており、合計してユーザー増加数を考慮しても、2022年6月時点では1000万契約前後ではないかと類推されるのです。

しかも1人2契約以上している人の割合やそういった「通信料金に敏感で積極的に料金プランを変更する人々」の少なさ、その少ない人々による複数契約の実態を鑑みると、実際には500〜600万人前後しかMNOの低料金プランへ移行していないのではないかと推察するところです。


総務省にしてみれば、2021年以降に登場した料金プランをすべて「新料金プラン」だとしているのだろうが……


■月額3,000円以下でモバイル通信を謳歌しよう
もちろん、総務省としては「ギガホプレミアにしてもメリハリ無制限にしてもそれまでの通信料金よりも若干安く、しかも通信量も大幅に増えているのだから十分貢献している」という自負があるでしょうし、その点については筆者も認めるところです。

しかしながら、2018年8月に当時の官房長官を務めていた菅義偉氏が「4割程度下げる余地がある」とモバイル通信の料金体系に意見をした根拠となったのは、当時割引前価格で7,000円前後もした料金を批判したものであり、ほぼ同価格帯のままであるギガホプレミアなどをその統計に含めるのは主旨にそぐわないようにも感じます。

そしてその統計を元にした数字をユーザーが見て想像することもまた、低料金プランであるahamoやpovo2.0、LINEMO、Rakuten UN-LIMIT VII、そしてMVNO各社の料金プランのユーザー数が4000万人以上にも増えているという「勘違い」が多いのではないでしょうか。


2020年以前、確かに日本のスマホ向け料金プランは高かった(2020年7月・ICT総研資料より引用)


筆者が概算した500〜600万人というMNO各社の低料金プランの契約者数を多いと見るか少ないと見るか、はたまた「いやいやもっと多くの人が契約しているだろう」と否定するのかは、読者のみなさんの判断にお任せしたいと思います。

重要なのは、総務省が当初目指していた「月額4,000円以下の通信料金」の恩恵を得られたユーザーがどれだけ増えたのか、という点です(現在の月額3,000円以下という水準は当時の総務省の想定をさらに超えるものだった)。

筆者はこれまでも当連載コラムやその他の記事で通信料金の値下げ戦争について何度も取り上げ、その問題点や課題、そして期待する展望などを書き綴ってきましたが、結果として通信各社は通信品質を大きく落とすことなく料金の値下げを成功させました。

その弊害は経済圏の強化を遠因としたユーザーの流動性の固着というところに現れつつあるようにも思えますが、それでも通信料金が下がり、一時的とは言え人々が通信料金に関心を示し、通信キャリアを乗り換えたり同じ通信キャリア内でも料金プランの見直しをしようと重い腰を上げたことには大きな意義があったと感じています。


リスクを上手く回避しつつ、大きな成果を得られた施策だったと感じる


筆者もahamoやpovo2.0を1週間ほど使用し、取材先で東京の渋谷に赴いた際などに通信速度のテストや実際の使用感を確かめてみましたが、いずれの回線も非常に快適で不満は一切ありませんでした。

通信各社としても、すべてのユーザーが低料金プランへ乗り換えることは想定していないでしょうし、そうなってもらっては困るという現実的な事情もあります。

そのため総務省が発表する「総量としての」新料金プランのユーザー数の公表はむしろ都合の良い部分も多く、料金低廉化の成功を消費者に印象付けつつ、実際は高額プランメインでしっかりと稼ぐという流れを作っているようにも思えます。


MNOの低料金プランの中では苦戦していると言われるLINEMO。ソフトバンクは巻き返しのためのテコ入れをするだろうか


筆者がahamoやpovo2.0のオンライン手続きを行ってみた感想は「若干手間だけど思ったよりはずっと簡単」という印象でした。自宅に居ながらできるのがとても手軽で、2つの契約を行うのにかかった時間はわずかに1時間程度でした。

そして何より、契約を完了した瞬間からすぐに使い始められたことも感動でした。これはユーザーの環境にもよりますが、筆者の場合はNTTドコモのギガライトからahamoへの契約変更だったためにSIMの交換が不要で、さらにpovo2.0はeSIMで契約したために契約後に即利用可能となったのです。

もしMNO各社の低料金プランが気になりつつも契約の変更や通信キャリアの乗り換えに躊躇している人がいるなら、ぜひまた検討の時間を作ってみてはどうでしょうか。

料金が安くなっただけではなく、自宅に居ながら手元のスマホだけで簡単に通信契約ができる時代となったことにもまた、大きな感謝をしたいと思います。


MNO回線を2つ契約しても月額3,000円以下。本当に良い時代になった


記事執筆:秋吉 健


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