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夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第16回は「男女トラブルにおける『示談』とは?」です。最近、俳優の香川照之さんやプロ野球の坂本勇人選手の女性トラブルが話題となりました。どちらも「示談済み」と報道されていましたが、示談とはどういうもので、どのような効力があるのでしょうか。

中村弁護士は「示談を交わし、口外禁止条項を盛り込んだにもかかわらず、後から事実が明らかになってしまうというリスクは常にある」とも話します。一体どういうことなのか、詳しく解説してもらいます。

●そもそも示談とは?

最近、俳優の香川照之さん、プロ野球の坂本勇人選手の女性関係の記事が相次いで出されました。その結果、香川照之さんは活動自粛にまで追い込まれています。

2人に共通している点は、報道を見る限り、「既に相手の女性とは示談が成立している」という点です。香川さんにしろ、坂本選手にしろ、既に示談が成立したということは、いくらか金銭を支払っているものと思われます。にもかかわらず、今回、数年前のことが明るみに出てしまいました。

示談とは、訴訟などの裁判手続にはのせず、話し合いで解決することです。これは、ある種の「契約」であり、双方は、合意した内容に法律上拘束されます。

示談の結果、双方が合意すれば、通常、書面にします。書面の標題は、「示談書」「合意書」「念書」などさまざまですが、標題によって効果が変わるわけではありませんので、どれも同じものとお考えいただいて結構です。

書面は、パソコンで打ち込んだものを印刷したものでも、手書きのものでも、また、コピー用紙に印刷したものでも、チラシの裏に手書きしたものでも、基本的に違いはありません(チラシの裏だと、「本当にこのような重要な内容を合意する意思だったのか」と疑念を持たれる可能性があるのでお勧めはしません)。

双方の署名または記名捺印(できれば日付も)があれば、その書面の内容で合意をしたことを示す証拠となります。

また、場合によっては、「公正証書」にすることもあります。公正証書とは、公証役場にいる公証人の前で、当事者双方が合意した内容を伝え、書面化するものです。

証拠価値が高いだけでなく、公正証書に記載された金銭の支払義務を定めている条項は、裁判を経なくても、いきなり強制執行が可能であるという、強力なものになります。一定の費用と手間はかかりますが、分割払いで支払がある程度長期にわたる可能性がある場合などではお勧めです。

ただし、公正証書を作成する場合は、身分証の提示などが求められ、公正証書にも記載されますので、「相手に自分の住所を知られたくない」という時には使えません。

●示談書でよく盛り込まれる内容は?

示談は、ここで解説する男女問題だけでなく、交通事故などでも行われますが、ここでは、主に男女問題における示談の内容の特徴を述べたいと思います。

不貞行為をした、あるいは、性的な暴力を行ったなどで示談をする場合、通常、慰謝料額を一方が支払うことになります。いつまでに、いくら、どの口座に支払う、ということまで記載するのが一般的です。

例えば、「甲は、乙に対し、令和4年●月末日限り、金300万円を、▲▲銀行××支店の乙名義の普通預金口座(口座番号1234567)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。」などです。場合によっては、期限に遅れたら、遅延損害金を支払う旨の条項を設けることもあります(何も条項を設けなければ、現在は年3%の法定利率になります)。

また、これとは別に、「口外禁止条項」が設けられることがあります。「当事者双方は、本件について、みだりに第三者に口外しない。」などです。交通事故などではつけませんが、男女問題や、労働事件ではよく見かけます。

今回の香川さんや坂本選手のケースでも、この口外禁止条項がつけられていたものと思われます。禁止の条項としては、上記の例のように、「みだりに第三者に口外しない」というものや、「正当な理由なく口外しない」とするもの、そのような留保なく「口外しない」とだけ定めるものもあります。

さらに、最後に「精算条項」を設けるのが一般的です。「当事者双方は、本件に関し、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを確認する。」というような内容です。

これにより、示談書で問題になっている件については、名目の如何を問わず、解決済みであることを示すものです。特に、金銭を支払う側にとっては、これがないと後から慰謝料以外の名目で追加請求される恐れがあるため、必ず盛り込みたい条項になります。

その他、物の貸し借りがあれば、それを返還する合意をする条項、今後お互いに連絡を取り合わない・近づかないという条項、犯罪行為に該当する場合には、被害届や告訴を取り下げる条項など、様々な条項が設けられることがあります。

●示談書にはどのような効力がある?

示談書として書面にしたものは、法律上、契約書などと同様に、基本的には法的拘束力を持つ合意を示す証拠として、意味を持ちます。

特に、金銭を支払う旨の条項について、仮に、相手が合意に反して支払わなかった場合は、示談書に基づき、訴訟により請求することになります。公正証書を作成している場合は、訴訟を経ることなく、いきなり強制執行ができます。

ただ、金銭の支払いに関する条項以外については、訴訟において請求できるか否かについて、悩ましい問題があります。訴訟では、基本的には金銭に換算して請求するものが多く、金銭請求以外では、訴訟において請求できるものは意外と限られてきます。

例えば、上記の口外禁止条項に違反した場合、口外禁止条項に違反したことで被った損害の金銭賠償を求める請求を行うことはできますが、今後口外しないことを法的に強制することができるわけではありません。あくまでも、違反した場合に損害賠償義務を負う可能性があるのみです。

そして、この金銭に換算する、というのが結構難しい問題を引き起こすことになります。例えば、「1回話したら10万円」みたいに明確に定められている場合であればいいのですが、通常、そのような細かく明確な取り決めなどできませんので、果たして口外されたことにより、いくらの損害が生じたのかを請求側が立証しなければなりません。

そこで、口外されたのは事実だけど、損害がない(あるとしてもごくわずかである)とされてしまったら、示談書に反した行為が行われたにもかかわらず、何も請求が認められない(あるいはわずかな額の損害しか認められない)ということになってしまいます。

また、示談書は、あくまでも合意した当事者を拘束するのみであって、第三者を拘束することはできません。今回の香川さんにしろ、坂本選手にしろ、報道を見る限り、示談書を交わした当事者ではなく、第三者から明らかにされているようです。この場合、示談の当事者は何も違反していない(ように思える)ため、請求が認められない可能性があります。

このように、示談書で合意した内容は、「法的拘束力」はありますが、「違反した場合にどこまでペナルティを科すことができるかに難しい問題がある」という実態があります。

しかし、だからと言って、金銭賠償以外の条項が無意味というわけではありません。裁判で請求することは難しくても、通常、人は自分が納得して合意した内容は守る傾向にあると感じます。そのため、仮に法律上請求ができなくても、相手が任意に守ってくれるという期待ができることが多くあります。

●厳格な条項を設ければいい?

上記のようなお話をすると、示談書に明確な基準を設けることを希望される方が一定数います。例えば、「違反1回につき10万円」などです。

確かに、このような条項が設けられた方が訴訟を行う上ではベターなのですが、逆に言うと、支払う側はそのような条項を設けられてしまったら不利益が大きいので、通常、そのように明確すぎる条項は受け入れてくれません。

そもそも、合意が成立しなければ、中心となる金銭賠償も得られないことになってしまうので、画に描いた餅になってしまいます。緩すぎる条項にすると実効性がなくなってしまう一方、厳格な条項だとそもそも相手が合意してくれないので、そのさじ加減が重要なのです。

確かに、今回の香川さんや坂本選手のケースでも、被害を受けた側に「合意に反し、第三者が知ることとなった場合、口外禁止条項に反したものとみなし、乙は、甲に対し、金●万円を支払う」のような条項を設ければ、相手方に対するプレッシャーにはなります。

しかし、被害を受けた側に、そのような高圧的な文言を提示すると、そもそも受け入れてもらえず、示談が成立しないという本末転倒な状況になってしまいます。そのため、実効性の確保と、合意成立の可能性の両者のバランスを取りながら、どのあたりが落し所かを探っていくことになるのです。

●口外禁止条項が無意味というわけではないが…

今回のように、示談を交わし、口外禁止条項を盛り込んだにもかかわらず、後から事実が明らかになってしまうというリスクは常にあります。口外禁止条項といえども、万能ではありません。ただ、今回のように、有名人などでなければ、口外禁止条項が無意味というわけではなく、実際、任意に秘密が守られるケースも多々あります。

そのため、口外禁止条項などは万能ではないということを念頭に置きつつ、うまく着地させることが弁護士の腕の見せ所になります。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/