7回1失点の好投で勝利投手となったパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

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右足親指から出血も、7回1失点でWCシリーズ初戦勝利もたらす

■パドレス 7ー1 メッツ(ワイルドカード・日本時間8日・ニューヨーク)

 パドレスのダルビッシュ有投手が7日(日本時間8日)、メッツとのワイルドカード(WC)シリーズ初戦に先発し、7回1失点と好投。相手先発のサイ・ヤング右腕シャーザーとの投げ合いを制してポストシーズンで5年ぶりの白星を挙げ、3試合制のWCSでチームの先勝に貢献した。

 味方打線がシャーザーを攻略。4本塁打を含む7安打7得点と打ち込み、好投手を5回途中でマウンドから引きずり下ろした。ダルビッシュは好投の要因を「あれだけ点を取ってくれたので、変に考え過ぎずにというか。それで楽に投げられたんだと思います」と挙げたが、実は、2回からスパイクの右足親指辺りの側面が擦れて、ストッキングに血が滲む状態で投げ続けていた。

「親指がちょっとあって。思い切って最後のリリースに向かえないというところがあったので。試合中に靴下を脱いでという時間があまりないから、我慢して投げるしかないかなというところでしたね」

 シーズン途中に、強い日差しを受け硬くなったデーゲームの本拠地で同じ部位を痛めている。その古傷がえぐられた。「基本的にナイターでは起こらないので。完全に、考えてなかった」。それでも、これまでと変わらぬ粘り強い投球を見せたダルビッシュは、体調面でも多少の不安を抱えていたと明かす。緊張感から、寝起きは呼吸が浅く、今季に取り入れているマインドフルネス(瞑想)を行い切り替えができたものの、食欲は減退。少なめのうどんとバナナ1本を口にしただけだったが、最後はこう吹っ切ったと言う。

「試合前になって自分と妻でここまで来ているので。2人でやってきたことを見せるだけだっていうふうに思ったことですごく落ち着きました」

ピンチで“真ん中勝負”…メッツ打線を翻弄した配球

 この日の101球を支えたのは、独自のデータと感性から導いた組み立てだった。

 今季に言い続ける“勉強”という名の、独自収集したデータを元にした配球を生かして、4万1621人が埋め尽くした敵地のシティ・フィールドで相手打者を翻弄していった。その好例が、初回、2死一、三塁の場面で迎えた4番アロンソとの対決だった。カウント0-2から大胆に真ん中低めの91マイル(約146キロ)のカットボールで3球勝負を挑んだ。結果は見逃し三振。

 明確な意図があった。

「ちょっと危ないかなと思いましたけれども、最初にツーシームも投げました。(決め球は)多分スライダーを狙っているだろうと思ってたので、あのぐらいの速さで来ると、ツーシームなのかそれともスライダーなのかって一瞬迷ったところだったと思うので」

 前日の会見でアロンソは「彼はビッグネーム投手。我々に対していい投球をしてきた。だが僕らみんな、ビデオで研究し、十分すぎるくらい準備をしている」と自信をみなぎらせていたが、絶好機でダルビッシュの“知脳”に完敗した。

大一番も「普段と同じと思えば大丈夫」

“真ん中に投げても打てない”という配球をこれまでにも見せてきたが、緊張感に包まれるプレーオフのピンチの場面でも躊躇なく使い、難局を切り抜けた。

 そして、5回。2死三塁の場面では2番リンドーアを真ん中低めのストレートで三飛に打ち取っている。これには「前回対決でのスプリットが頭にあると思うので、その分、真ん中でも全然大丈夫だろう」と勝負球に選択している。

 天候も味方にした。試合開始前から吹き出した風の影響で、曲がりが大きくなったスライダーと縦軌道のカッターも配球に組み入れ飛球でのアウトを増やした。

 この日を迎えるにあたり、「いつも通り投げるのが難しくなる理由は、いつもと違うという認識があるから。普段と同じと思えば大丈夫」と臨んだダルビッシュは、予期せぬアクシデントに見舞われながらも、その言葉通りの投球を続けた。

 今季から3試合制となったWCSは2勝したチームが地区シリーズに進出する。短期決戦の初戦を普段通りの投球で乗り越えたダルビッシュ有の好投と、打線が噛み合ったパドレスが、宿敵ドジャースとの地区シリーズに向けて王手をかけた。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)