安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件の背景には、「宗教」の影があった。10月3日発売の週刊東洋経済は「宗教 カネと政治」を特集。「信教の自由」という厚いベールに閉ざされた裏側をあらゆる角度から解剖した。


「東洋経済オンライン」では宗教2世に関するアンケートを実施した。宗教2世とは、特定の信仰や信念をもつ親・家族の元で育った世代のこと。アンケートでは853人(10月4日時点)から回答を得た。そのうち774人は2世本人からの回答だ。

親・家族の信仰によって、社会生活での支障や苦痛を感じたことがあるかという質問に対して、78%の2世があると回答。アンケート回答者のうち、という条件はつくが、教団内の同調圧力により声を上げにくい位置に置かれた2世信者の実態が浮かんだ。

具体的に苦痛を感じたこととして、最も多い回答が「信仰を強制される」だった。「親が布教活動をする。自分が布教活動をさせられる」が次に多かった。


2世への虐待につながる行為としては、むちで暴力を与えるといった身体的な虐待もあれば、親が信仰に入れ込むことによって育児放棄(ネグレクト)が起こることもある。また幼少期から脱会したり信仰心がなかったりすると「地獄行きだよ」などと恐怖を刷り込み、精神と行動を縛ることは「霊的虐待」にあたると捉えられる。

今回のアンケートでは、2世が虐待と感じることについては「精神的・霊的な虐待」が多数を占めた。こうした外側からは見えにくい精神的苦痛に対して支援を求める声が上がった。

「自発的に信じていると思っているため『信仰の自由がない』という言葉の意味すら理解できない」
「信仰行為を強制され続ける苦痛は筆舌に尽くしがたい。法的な虐待の定義に宗教的虐待を追加し、支援の手を差し伸べてほしい
「子どもにも信仰を選ぶ権利がある。2世を守る法律を作ってほしい」

7万筆の署名は政府に届くのか

宗教2世への支援を求める動きがある。自身も旧統一教会の2世信者である高橋みゆきさん(活動名)は、2世の救済を求める署名活動をしている。2世への虐待防止のための法律や制度整備を求めたオンライン署名「#宗教2世に信教の自由を」は、71930人(10月6日時点)の署名が集まっている。

高橋さんは9月28日、約7万筆の署名簿を厚生労働省と文部科学省、こども家庭庁設立準備室に提出。虐待が信仰に起因するものであっても、通常の虐待と同様に被害児童を救済することを求めた。

さらに高橋さんは、宗教活動の強制や幼少期からの継続的な恐怖の刷り込みも、児童虐待防止法で定義される虐待の一つ「心理的虐待」として扱うことを要望した。

「親の信教の自由は守られる一方で、子どもの信教の自由は脅かされている。法改正はハードルが高いかもしれないが、虐待被害が野放しにされる現状を変え、子どもが一人で孤立しないための制度やしくみが必要だ」

そう高橋さんは力を込める。2世当事者からは、子どもの信教の自由が侵害されているという切実な声が上がる一方、親が子どもを教育する権利も保障されている。九州大学の南野森教授(憲法学)は「そこが一番の難題だ」と話す。

「家庭の中に公権力がどれくらい踏み込めるのかという問題になる。児童虐待と同様に、虐待が疑われる、学校に行かせないなど外形的に見える部分にしか介入できないだろう」

しかし、「外形的に見える部分」へすらも介入できていないケースがあるのが現状だ。当事者や支援者らによると、2世が公的機関に被害を相談しても「宗教の問題には対応できない」「家族に相談するように」と門前払いをされる例があるからだ。

「2世の人たちが、育児放棄に遭ったり、経済困窮に陥ったりしていても、行政や警察は『宗教の問題だから』と立ち入ろうとしない。だが、児童相談所の仕事は家庭の中に入ることだから、信教の自由があるからといって、ひるむ必要はない。宗教に対する知識不足や誤解が、さまざまな不幸を生んでいる」(南野森教授 インタビューはこちら)

宗教法人や親からすると、信仰の継承は重要だ。ただ、信仰に基づく教育が子どもの信仰への強制や人生の選択を制限するものになっていないかという点を議論する必要がある。

相談できる窓口が必須

本誌のアンケートでも、2世が感じる苦悩を解消するために必要なこととしては「社会的な支援・相談窓口の設置」が最も多かった。「教団・組織内部の改革」を求める声も次に多い。

2世支援に取り組む社会福祉士の松田彩絵氏は「2世は生まれながらに、教団以外の社会に頼るという選択肢がない」と指摘する。実際、アンケートでは、2世であることや、その悩みを相談できる人はいるかという質問に対しては53%がいないと答えた。

2世問題の解消のために必要なことは、教団内部の改革や社会的支援だけでない。「信者以外の周囲の宗教に対する理解」という回答も多かった。

「教団からは『不信仰な堕落した子』だとさげすまれ、外部の人からは『カルト宗教の一員』だと危険視される。自分の居場所がどこにもない」
「宗教に属しているというだけでマイナスイメージを周囲に持たれることに、強い疑問と疎外感を覚える」

「宗教とは無関係」と考える周囲こそが、宗教や当人を理解することが2世の生きやすさにつながる。2世が相談できる窓口を早急に設置し、信仰に関連した虐待被害であってもひるまず介入する行政の徹底した姿勢が求められている。


(井艸 恵美 : 東洋経済 記者)