「ハイドロリリース」って効果あるの? 腰痛や肩こり改善の最前線に迫る

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水分を表す「ハイドロ」と“解き放す”などと訳される「リリース」。この2つの言葉が組み合わさった「ハイドロリリース」が今回のテーマです。はたして、水分を何に使うのか、どのような効果が期待できるのか。「ぜんしん整形外科」の守重先生が詳しく解説します。

ハイドロリリースとは?

編集部

今回のテーマは「ハイドロリリース」ですが、あまり聞き慣れないです。

守重先生

最近になって確立された方法なので、周知が広がっていないかもしれませんね。ハイドロリリースは、「エコーガイドで筋膜や周辺組織を確認しながら、液体の注射でリリースすること」と定義されています。一般的には、生理食塩水や重炭酸リンゲル液を主成分とした注射になります。適応があるのは、肩こりや腰痛といった「筋肉や神経組織の痛み」です。

編集部

「薬や麻酔」ではない物質を注射するのですか?

守重先生

はい。注射の目的は、麻酔薬などではなく「水分そのもの」を患部に届けることです。かつては、水分で筋膜と筋肉などの“癒着を緩める”と動きがスムーズになると考えられていました。しかし昨今、様々な研究がなされるようになり、「どうやら、水分を届けること自体に効果がある」という考え方も出てきています。

編集部

術式の名称からすると、水分に対して「潤滑油」的なイメージを抱いてしまいます。

守重先生

最近になって確立された方法ですから、今後、色々と明らかになっていくのでしょう。ただ、神経の働きを阻害する物質が洗い流される効果もあると思います。患部にたまった老廃物が炎症を起こしている場合なども、洗い流し効果が期待できます。要するに、「癒着を緩める効果だけではなさそうだね」ということです。

編集部

なるほど。筋肉に限らず神経の状態も見ていくのですね?

守重先生

はい。筋肉組織などへの潤滑油的な効果もあるでしょうし、神経周りの掃除にも一役買いそうですし、炎症を緩和する効果も考えられそうです。ただし、ハイドロリリース自体、ここ数年になって言われてきた用語なので、未だその全てを見極められてはいないのが現状です。

ハイドロリリースの施術の流れ

編集部

ハイドロリリースは、どうやって施術していくのでしょうか?

守重先生

まずは適応ですが、患者さんからの問診などで判断しています。癒着が問題である場合、エコーで判断できるケースも存在します。しかし、判断が難しい場合も多いですね。先ほどお話ししたようなお掃除効果や消炎効果の必要性も見ていきます。また、「痛む場所 = 施術する場所」とは限りません。とくに神経の場合、途中の通り道に施術することで、患部のしびれが改善することもあります。

編集部

エコー検査で全てわかるわけではないということですか?

守重先生

そうですね。エコーだけではなく、問診や触診を組み合わせて痛みの原因を探ることが必要です。ただ、処置時にはエコーの併用が大前提になってきます。なぜかというと、エコー検査の画面に、リアルタイムで注射の針先と周囲の筋肉・神経・血管などが映し出されるからです。モニターを見ていれば、狙った箇所に針先が届いているかどうかはわかりますよね。処置している場所が緩んでいく様子を観察できることもあります。

編集部

筋肉や神経はわかりますが、そもそも「筋膜」とはなんでしょうか?

守重先生

「fascia(ファシア)」の日本語訳が「筋膜」なのですが、もともとのファシアは広義で「筋肉を覆う膜」という意味に限りません。膜は神経、血管、各内臓にもあって、全身でつながったネットワークのような状態がファシアです。そして、痛んだファシアに水分を入れると、異常が改善されることがあるのです。

編集部

ファシアが全身のネットワークだとすれば、「痛む場所 = 施術する場所ではない」という理屈もわかります。

守重先生

癒着の症状がわかりやすいかと思います。どこかで癒着を起こしていると、部分的な動きが全体に広がってしまいますよね。患部周辺の組織も影響を受けるでしょう。ただし、ハイドロリリースの適応は癒着に限りません。

ハイドロリリースは安全なの?

編集部

改めて、ハイドロリリースの向き・不向きについて教えてください。

守重先生

対象になる症状は、「筋肉や神経組織の痛み」全般です。具体的に言うと、肩こりはもちろん、寝違えや血行不良による炎症など様々です。ただし、絶対に効果のある施術とは言いきれません。当院でも、あくまでご提案にとどめています。また、費用については各施設に問合わせてみてください。

編集部

症状によっては、術後の再発もあり得ますよね?

守重先生

あり得ます。例えば、肩こりなどは普段の姿勢が問われます。場合によっては「姿勢の改善や運動習慣」の方が大事です。痛みや凝りは“結果”なので、できれば原因を取り除きたいですよね。ハイドロリリースの最も好ましい適応は、「原因は改善されたものの、結果だけが残っている症状」でしょうか。仕事や部活などで“患部を痛める行為”が続いていたけど、今は環境が変わったようなケースが例に挙げられます。

編集部

「部活」で気づきましたが、ハイドロリリースに年齢制限はありますか?

守重先生

ありません。血管内に投与しても問題ない生理食塩水などを使うので、年齢問わず安全な方法と言えます。実際、リハビリの効果を加速させるきっかけづくりにしている学生さんもいらっしゃいますよ。ただし、ハイドロリリースで全てを解決しようとは思わず、原因とセットで見ていくべきだと考えます。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

守重先生

痛み止めを使っていないのに痛みが緩和されるハイドロリリースの機序は“興味深い”ですよね。薬の一部にある耐性や副反応リスクの問題も、ほぼ、考えなくていいでしょう。また、今後の研究により、ハイドロリリースの新たな解釈や適応が見出されてくるでしょう。ぜひ、期待しておいてほしいと思います。

編集部まとめ

ハイドロリリースは、まさに「夜明けの時代」を迎えようとしているようです。ですから、その評価に諸説あるのですが、水分を届けると「筋肉や神経組織の痛みが緩和される」ケースのあることは事実なのでしょう。評価が固まるまで待つか、安全な方法でリスクが低いから積極的に取り入れてみるのかは、みなさんの選択だと思われます。

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