健康食品の注目度が高まる中、消費者も正しい知識を身につけたい(写真:kotoru/PIXTA)

健康になりたい──。そんな現代人の欲望を背景に、健康食品・サプリメント市場が活況を呈している。市場はぐんぐん伸びて1.4兆円規模(2021年)にも到達しそうな勢いだ。

「特定保健用食品(トクホ)」「機能性表示食品」など国の制度に基づく健康食品の注目度が高まる一方、科学的根拠に乏しい健康食品も数多く流通し、国民生活センターに寄せられる健康被害の相談件数は年々増えている。

口に入れるものだからこそ、正しい知識を身につけたい。健康食品に詳しい日本臨床栄養協会で薬剤師の千葉一敏さんに話を聞いた。

意外と知らない、健康食品の超キホン

「最初にお伝えしたいのは、健康食品もサプリメントも食品であり、法令上の定義はないということです。つまり、『自分の健康の源はニンニク』だと思っている人が、ニンニクを“健康食品”と認識していても、あながち間違いではないのです」と千葉さん。

一般的に「健康によいとされる成分を添加している加工品」を健康食品そのうちカプセルや錠剤・顆粒のような形状をしているものをサプリメントと呼ぶ。これらは、薬機法により「血糖値を下げる」といった食品の機能性をパッケージなどに表示することは禁じられている。

一方、機能性の表示が認められているのは「特定保健用食品(以下、トクホ)」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3種だ。


出典:「機能性表示食品って何?」(消費者庁)

3つのなかで、最も信頼性が高いのが、食品ごとの有効性や安全性について国が審査しているトクホだ。「からだすこやか茶W」(コカ・コーラ)、「ヘルシア緑茶α」(花王)、「特濃調製豆乳 」(キッコーマン)などがある。

「血圧が高めの方に」「おなかの調子を良好に保つ」といった機能を表示するためには、同じ製品を用いた人での試験が必要で、品質確保のために製造工程についても審査が入る。安全性を確保するうえでも、機能性を期待するためにも、製品の品質は重要なポイントだが、そのぶん許可がおりるまでにコストや時間がかかる。制度が始まって20数年、現在の許可総数は1059件にとどまる(2022年9月16日現在)。

一方、栄養機能食品は、高齢者や、食生活の乱れなどでビタミンやミネラルが十分に摂れないなど、なんらかの不足した栄養を補うための食品のこと。20成分に限って国の基準を満たせば、栄養機能を表示できる。許可や届出は必要ない。「ビタミン野菜」(伊藤園)、「アルフェ」(大正製薬)などがある。

3つの中で最も新しいのが、2015年にスタートした機能性表示食品だ。これは何かの機能を期待して摂るもので、野菜やくだもの、肉や魚などの生鮮食品も対象となる。代表例は「iMUSE(プラズマ乳酸菌)」(キリン)、「えんきん」(ファンケル)、「やすらぐマスクメロン」(くだものの山長)などだ。

販売前に安全性や機能性の科学的根拠を消費者庁へ届け出て受理されれば、事業者の責任において機能性を表示することができる。消費者庁のウェブサイト「機能性表示食品の届出情報検索」 で、すべての機能性表示食品の資料を閲覧できる。

食べすぎの“免罪符”にはならない

繰り返しになるが、健康食品は、薬ではなく食品だ。病気を治すために利用するのではなく、健康を維持したり、より健康になったりするために利用するもの。そのためいくつか知っておきたいポイントがある。

例えば、血圧が高めの人が、トクホの血圧対策系商品を一定期間摂り続ければ、健康増進に役立つだろう。しかし、トクホを摂るのをやめれば血圧はもとに戻り、根本的な解決には結びつかない。

トクホの利用をきっかけに生活習慣を見直し、トクホなしで血圧が安定するよう努めることです。トクホだけで健康になろうというのは、誤った使い方です」(千葉さん)

トクホは一般の食品に比べると価格が高めだ。飲み続けることを思えば、塩分控えめの食生活と運動のみで血圧をコントロールするほうがお財布にもやさしい。

また、食事会で食べすぎてしまった人が「内臓脂肪を減らすのを助ける」トクホを摂取すれば“食べすぎの免罪符”になるかというと、そう甘くもないようだ。

「大切なのはトクホも摂るし、運動もするし、食べすぎにも注意すること。トクホと運動と食事の相乗効果で体質改善が実現すれば、トクホの活用法としては二重丸です」(千葉さん)

健康食品は、東洋医学でいう“未病”の人が利用するものだ。健康の維持・増進のためには、バランスの良い食事、適度な運動、十分な休息が基本であることは言うまでもない。


トクホや機能性表示食品(写真撮影:両角晴香)

オモテ面ではなくウラ面を見る

買うときのポイントについても、千葉さんに聞いた。

スーパーやドラッグストアで健康食品を手に取ると、シズル感たっぷりのパッケージのオモテ面に目が行きがちだ。しかし、健康食品選びを失敗しないために大切なのは、「ウラ面(側面)」をチェックすること

そこには、1日当たりの摂取目安量や期待される機能性、摂取するうえでの注意事項や「医薬品を服用している人は医師・薬剤師に相談したうえで摂取すべき」点などの注意喚起の文言が印字されている。

これを機に、「購入する前にウラ面をよく読む」という習慣を身につけたい。

サプリメントや健康食品も一般の加工食品と同様、製品に使用されたすべての原材料と添加物を原材料名欄に記載するよう義務づけられている。記載のルールは、原材料の重量の多いものから上から順に記載され、次に添加物へと続く

大切なのは、原材料の種類の「多さ」より、成分の「量」だ。例えば、美肌を期待したいのであれば、コラーゲンやヒアルロン酸などの成分量が多く含まれているものを選んだほうがいい。

過剰摂取の心配もあるのが、サプリメントの落とし穴ともいえる。

「たくさん摂れば健康になれるかというと決してそうではありません。お米を食べすぎたらお腹が痛くなるのと同じで、健康食品やサプリメントもたくさん摂れば健康被害は出やすいものとお考えください。摂取目安量を守るようにしましょう」(千葉さん)

例えば、「レタス●個分の食物繊維」などのキャッチコピー。実際にはレタスを何個も食べられないが、小さい粒に凝縮しているサプリメントであれば容易に摂れてしまう。その結果、量が増えてしまいがちだ。

複数の種類のサプリメントを使用すれば、特定成分を必要以上に摂ってしまうおそれもある。よく利用されるビタミン系のサプリメントでも、摂りすぎることで過剰症を起こしてしまうことが知られている

また、製造工程において、品質が担保されているかもチェックしておきたい。

目印になるのは「GMPマーク」。GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、原材料の受け入れから製造、出荷まですべての過程において製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるかをみた製造工程管理基準のこと。機能性を期待するうえでも、安全性を担保するうえでも、製品の品質が約束されていることが絶対条件だ。

千葉さんが最も注意をよびかけるのが「海外からの個人輸入品」だ。

今年も、SNSによる個人販売を通じて販売されていたダイエットをうたう輸入製品(チョコレート、ゼリー)で、健康被害(食欲不振、倦怠感、息苦しさ、貧血など)が複数報告されている。「いずれにしろ、健康食品を摂取して何かしらの不調を感じたら、直ちに摂取をやめてください」と千葉さんは言う。

健康のためにはSNSより行政のHP

では、健康食品やサプリメントで不安に思ったら、どこに相談すればいいのだろうか。

「まず、病気の治療で医薬品を服用している人は、『健康食品と薬を一緒に飲んでいいか』をかかりつけの医師や薬剤師に聞きましょう」と千葉さん。

健康食品の情報提供のスペシャリストである「アドバイザリースタッフ」に相談するのも1つの方法。どこにいるのかなどの情報は「アドバイザリースタッフ研究会 」で検索可能だ。

ネットで検索する場合は、SNSやネットの口コミより公的機関の情報サイトを。正確かつ最新の情報を得ることができる。

(文/ライター・両角晴香)

(山内 リカ : 東洋経済オンライン 編集者)