羽根田卓也が語った「カヌーと環境問題」【写真:荒川祐史】

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「THE ANSWER スペシャリスト論」カヌー・羽根田卓也

 スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。カヌーのリオ五輪銅メダリスト・羽根田卓也(ミキハウス)は18歳で単身、カヌーの強豪スロバキアに渡り、日本で自らスポンサー営業も行うなど、競技の第一人者として道を切り開いてきた経験や価値観を次世代に伝える。

 今回のテーマは「カヌーと環境問題」後編。自然を舞台にした“ネイチャースポーツ”であるカヌー。「SDGs」に象徴される環境問題が社会課題となっている今、幼い頃から地元の愛知・豊田の川で汗を流し、海外生活が長かった羽根田も関心を持っているという。後編では、自然と共生するカヌーという競技について魅力を明かし、一人のアスリートとして問題改善に向けた想いも語った。(聞き手=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

――前編では環境問題について聞いてきましたが、自然と共生するカヌーならではの面白さをお聞きしたいです。

「そうですね。楽しいし、気持ち良い。やっぱり自然の中で体を動かすのは、格別な気持ち良さがありますよ。皆さんもスポーツじゃなくても自然に行って、山に登ったり、森のカフェに行ったりすると、気持ち良いですよね? さらに、カヌーというネイチャースポーツになると、その中で体を動かし、競い合う喜びがある。スポーツならではの要素も広がっていくので。だから、カヌーは素晴らしいスポーツだと思います」

――当然、同じ川の流れは二度とないし、競技は天気や風などあらゆる条件に左右される。その難しさは裏返せば、楽しさにも繋がりますね。

「だから、自然から凄く学ばせてもらいました。自然ってある種、危険と隣り合わせ。もちろん、カヌーはしっかりとした対策をしていれば危ないこともないし、楽しく安全に競技もできるし、遊ぶこともできる。ただ、水というフィールドである以上、危険を感じやすい。例えば、最初は(カヌーで転覆した時に)溺れていなくても、溺れていると思ってしまう。実際はライフジャケットも着ているし、落ち着けば大丈夫ですけど。

 でも、そういうフィールドだから、転んだ時にどう対処するか、どう落ち着いて自分をセルフレスキューするかをまず身につける競技です。その分、自然との向き合い方、あるいはもし自然が牙を剥いてきた場合、どう対処するかは凄く大きな学びになる。そして、それは自然だけでなく、何か起きた時にどう落ち着きを保つかという対処法やメンタルの強さに繋がるので。自然はいろんな学びをくれる素晴らしいフィールドです」

――コンビニの袋をもわらないなど、ちょっとしたことから環境問題改善へのアクションが起きています。羽根田選手が普段の生活で心がけていることはありますか? 

「コンビニの袋もそうですし、無駄な物は使わないこと。(カフェでコーヒーなどの)蓋は要らないとか。どうしても、自然に対する罪悪感が生まれるので。自分ができるところからですね。それぞれできることの積み重ねが大事なのかなと思っています」

日本の国民性に誇り「世界に発信し、日本が環境問題のリーダーシップを」

――日本人も環境保護の意識が浸透しきっているわけではありません。海外生活の経験も豊富な羽根田選手ですが、実際に暮らしたスロバキアなどヨーロッパと比べると、どうでしょうか?

「世界の方が(環境汚染は)進んでいるんじゃないですか。スロバキアとでは川の規模も流れ方も違うので、比べることは難しいかもしれないけど、(日本のように)こんなにゴミが少ない国はない。分別もしっかりしているし、ポイ捨ても少ない。(前編で)日本の川は汚いと言いましたが、ゴミはそんなに落ちているわけでもない。

 環境への配慮でいえば、日本人の方が圧倒的に強いですよ。そういうモラルへの意識は、もともと日本は凄く高いので、誇りに思っていい。こういうムーブメントが起こると、みんな真面目に取り組む国民性がある。それを誇って世界に発信して、むしろ日本が環境問題についてリーダーシップを取っていいくらいだと思っています」

――影響力のある人が発信することで意識が上がり、諸外国の現状も知って日本がリーダーシップを担っていく論調になっていけば理想的ですね。羽根田選手はこれからアスリートの立場でできる範囲でできることを……と言っていますが、どんなビジョンを持っていますか?

「発信すること自体に意味があると思います。それぞれにできる範囲、気づける範囲は違うと思うので“あれをしましょう”“これをしましょう”というのは正直、言うつもりはありません。ただ、僕のような立場が発信することで、それを目にして、環境問題を少しでも考えたり気づいたりしてもらうのが、何よりも大事。それはこういう風に取り上げていただく身として、役目を担っていかなければいけません」

――アスリート同士でこういう話題になることはありますか?

「なかなか、ないですね。例えば、スキーやスノーボードなど、自然を相手にしている冬の競技は(積雪によるコース環境で)地球温暖化もおそらく関係してくる。なので、アスリートとして良い共有になるかもしれない。そういった機会はこれから大切になってくるかもしれないですね」

――個人の今後のライフワークとして将来、実現したいことはありますか?

「水に関して、もっともっと自分で勉強し、掘り下げて、いろんな人に伝えたり、一緒に活動したりしたいと思っています。あとは、やっぱり子どもたち。子どもたちに対して、水の楽しさ、素晴らしさを伝えるとともに、これから環境を変えなければいけない社会になってくるので、一緒に学ぶ場を作れたらいいなと思っています」

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)