ユニクロとしまむらの出店場所はなぜ違うのか?

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「地方都市の百貨店や商店街はなぜ衰退したのか」「イオンはなぜ水田の広がる農村地帯に出店したのか」「コンビニはなぜ集中出店するのか」など、ふだん街やお店、買い物で感じている疑問を地理学の手法を使い、解説したのが、本書「地理学で読み解く 流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか」(ベレ出版)である。コンビニ、スーパーなどの出店・販売戦略と変化を解き明かし、一気に読める本だ。

「地理学で読み解く 流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか」(土屋純著)ベレ出版

著者の土屋純さんは、関西大学文学部教授。専門は経済地理学、都市地理学。日本における流通システムと都市構造の再編成について研究するとともに、インドなどアジア諸国での流通や消費についても調査・分析している。

ユニクロの出店戦略はどう変化したのか?

日本は3大都市圏(東京圏、名古屋圏、京阪神圏)とそれ以外の地方圏に分かれる。また、日本の都市は都心部、既成市街地、郊外地域の3層構造になっている。この分類が役に立つ。

一例として、ユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリングの出店戦略を見ていくことで、日本の都市構造における流通・消費の状況が理解できるという。

ファーストリテイリングの出店地域と店舗タイプについて、本書に示されている、年代別のまとめた表が参考になる。1984年に広島市の都心部に1号店を出店した後、翌年には山口県下関市に郊外店を設けた。郊外店のほうが来店客の購入率が高いことや、ベーシックなカジュアル衣料の売れ行きが良いことを発見して、方向性がはっきりしたという。

この時期は、大規模小売店舗法の規制対象外の小型店が中心で、店舗網は広島県、山口県、岡山県、愛知県、福岡県に限られていた。

1990年代になると、自ら商品を企画し、卸売業を介さずに自社商品のみを自社店舗で販売する「SPA」(Speciality store retailer of Private label Apparel)の体制を確立。地方圏と3大都市圏の郊外地域に積極的に中型店を展開する。

2000年代に入ると、郊外地域の小型店をスクラップし、3大都市圏の都心部だけでなく、地方圏のショッピングセンターなどに中型店と大型店を出店する。また、駅ナカが小型店の新たな出店場所に加わった。

そして、2010年代。世界的に有名なデザイナーとコラボして商品開発し、都心にある大型店の集客力を高めた。東京・新宿のビックロなどの「グローバル?盛店」、また東京・銀座と大阪・梅田に「グローバル旗艦店」を出店し、3大都市圏の都心部に超大型店を増やした。

このような?盛店、旗艦店は、アジアからの観光客も誘引しており、ユニクロのブランドイメージを高めた。

店舗のスクラップ・アンド・ビルドを進めつつ、SPAの基盤を生かして積極的に商品開発していくことで、日本の都市市場の変動に対応してきた、と説明している。

地方に多い、しまむらの独自の物流体制

ファーストリテイリングとしまむらとの比較が興味深い。地方圏への出店は、ファーストリテイリングが39.0%なのに対し、しまむらは50.5%と、島村は地方圏に店舗が多くなっている。

しまむらは、単独店が中心で、およそ12000世帯を1商圏として店舗を配置。幹線道路だけでなく生活道路沿いにも出店している。低価格販売が最大の武器で、SPAではなく、さまざまなアパレルの商品(プライベートブランドを含めて)を販売している。

しまむらは商品をすべて買い切りで安く仕入れている。買い切った多様な商品をすべて売り切るため、独自の物流体制を構築していることを地図で説明している。

北から順に、盛岡、福島、埼玉県桶川、愛知県犬山、岡山、北九州の6カ所に物流センターがあり、物流センター間で商品輸送を行う。冬物の定番商品は、北海道から販売しはじめ、徐々に本州、四国、九州、沖縄の順に販売していく。

店舗で売れ残った商品は、商品配送時に回収され、他の店舗に移送される。ファッション性の高い商品は、4週間で売り切ることを目指し、売れ残り商品は、売れている店舗に移送される。こうして店頭には常に新しい商品が陳列され、リピート利用を促進しているという。

コンビニが集中出店するのは米飯のため

さて、サブタイトルの「コンビニはなぜ集中出店するのか」についてだが、コンビニは「集中出店」「密度の高い店舗網」を構築しながら地域展開していく。なぜなら、集中出店すると配送効率がいいからだ。

本書によると、セブン-イレブンの場合、商品の温度帯によって、商品を集約して配送している。書籍・雑誌を除き、4つの温度帯があり、売上に大きな割合を占める米飯類は、20度に管理され、1日3回納品される。

コンビニが集中出店するのは、米飯類を中心に、多頻度小口配送を全店舗で実現するためだ。東北地方への出店は、1980年代に福島県で始まり、同時に宮城県へも広げられた。さらに1990年代は山形県、2000年代には岩手県、2010年代前半は秋田県、2010年代後半は青森県へと、地域単位で展開された。

このほか、3大都市圏の郊外市場の形成、東京の都心回帰がもたらす流通・消費の変化、人口減少時代の流通など、日本の流通と消費の歴史と将来について、幅広いテーマを扱っている。

すでに仕事や旅行を通じて得た地理の知識が意外と流通・消費を理解するうえで役に立つことに気がつくだろう。

(渡辺淳悦)

「地理学で読み解く 流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか」土屋純著ベレ出版1980円(税込)