日本では販売されない「CX-50」に試乗した(筆者撮影)

「CX-50」というクルマをご存じだろうか。メーカーはマツダである。定番の「CX-5」や先日デビューした「CX-60」とは別のモデルだ。

CX-50を知っているという人は、相当のクルマ通かマツダファンに違いないだろう。日本での知名度が低いのは仕方がない。なぜなら、日本では販売していない北米市場専用モデルだからだ。


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クルマの概要を説明すると、車体サイズやポジショニングは“CX-5以上CX-60未満”となる。メカニズムは同社の「マツダ3」や「CX-30」と基本的に共通。いわゆる「スモールアーキテクチャー」と呼ばれる技術で構成されており、マツダ3やCX-30の兄弟にあたる。

ただし、スタイリングは独自のもので、見ての通り武骨なオフロードテイストが濃い。これは、昨今の北米のトレンドを反映したものといっていいだろう。

SUVなのに縦横比を間違えたのかと思うほど“ワイド&ロー”なプロポーションは、「日本では大きすぎる」とさえ言われるCX-60の1890mmを超えた1920mmの全幅(CX-5は1845mm)と、CX-5より約6cmも低い1613mmの全高が生み出すデザインの賜物。ちなみに全長は4740mmで、これはCX-5より145mm長く、CX-60と同じだ。


全高の低さもあり、全長の短さはあまり感じられない(筆者撮影)

パワートレインに、ディーゼルやマツダ独自の燃焼方式を持つ「スカイアクティブX」ガソリンエンジンはなく、一般的なガソリン自然吸気エンジン(最高出力190ps/最大トルク252Nm)と、そこにターボを組み合わせた高出力仕様(最高出力260ps/最大トルク434Nm)の2タイプがラインナップされる。

理由は後述するが、排気量はマツダ3やCX-30といった“兄弟”が日本で展開しているもの(1.5もしくは2.0リッター)よりひとまわり以上大きな2.5リッターとなっている。駆動方式は、全車4WDだ。

トヨタとジョイント工場で生産

このクルマには純粋な商品性以外に注目すべきポイントがある。それは生産拠点だ。生産を担うのは日本ではなく、アメリカ合衆国のアラバマ州。2021年に工場を新設し、そこで生産されているのである。

生産されるアラバマ州の工場は、マツダ単独ではなくトヨタとのジョイントプロジェクトとして造られたもの。トヨタはそこで「カローラクロス」の北米仕様を生産する。2021年の終わりに、先行して生産が立ち上げられたばかりだ。

2022年7月はじめに開所式が行われたばかりの現時点ではまだフル操業ではないが、徐々にペースを上げ、2022年末には生産キャパシティであるトヨタ:15万台/年、マツダ:15万台/年のフル生産を目指している。

マツダとトヨタのジョイント工場とはいえ、両社のクルマが同じラインに混流するわけではなく、それぞれの生産ラインが並走する形とされた。しかし、塗装など一部の工程では同じ設備を用いて、合理化が図られている。

何を隠そう、この工場はトランプ元大統領と無関係ではない。トランプ氏が大統領に就任し「製品はアメリカ国内で作れ」とメーカーへ繰り返し迫った。トヨタとマツダのアメリカ新工場計画が発表されたタイミングは、トランプ政権が誕生した1年後。その検討段階において、トランプ氏の意向が反映されたと考えるのは当然だろう。


「CX-50」のインテリア。縦に設置された吹き出し口が印象的だ(筆者撮影)

アメリカ国内に工場を持つトヨタはともかく、マツダは当時、アメリカ内での自動車生産から撤退しており、日本からの輸出のほか2014年にメキシコに建設した工場から北米自由貿易協定(NAFTA)を活用して、北米へクルマを輸出していた。メキシコからの工業製品の輸入を快く思わないトランプ氏に対し、何らかのアクションを起こす必要があったことは想像にかたくない。

その結果、トヨタとの共同という形ではあるが、両社合計で23億ドル(約3300億円)という巨額を投じて、新工場をアメリカ国内に作ったというわけだ。マツダは2012年に生産を撤退して以来、10年ぶりのアメリカ国内工場となる。

同工場は4000人ほどの雇用を予定しているが、コロナ禍を経て半導体不足と人手不足が深刻となったことは、予想外だったに違いない。

いずれにせよ、CX-50はクルマとしても興味深く、マツダにとっても大きな意味を持つモデルだ。そんなCX-50に触れ、自分でハンドルを握って運転するため、筆者はアメリカへ出かけてきた。

北米専用車らしい3つのポイント

実車に触れて感じた、北米専用車らしい点は3つあった。まずは、そのサイズだ。

前出のように、1920mmという車幅は日本向けでは考えられない、北米らしいおおらかなパッケージングだ。日本では間違いなく持て余す大きさだが、現地ではまったく気にならなかった。


ナンバープレートが小さく見えることからも、車体のサイズ感がわかる(筆者撮影)

2つめのポイントは、エンジン排気量にある。日本の“兄弟”より大きいのは、現地で力強いトルクを求められるからに他ならない。たとえば、信号が青になったときのダッシュは日本よりも勢いがいいし、高速道路(フリーウェイ)の合流では一気に本線の速度まで加速する力が求められる。

現地の人が納得する加速を実現するには、少なくとも2.5リッターの排気量が必要で、できればターボもほしいというわけだ。

3つめは、ハンドリングと乗り味。現地ではオールシーズンタイヤを新車装着されるため、それに合わせて味付けされている。日本向けのマツダ車に比べると、ハンドリングはおおらかな印象だ。一方で、フリーウェイを時速70マイル(時速112キロ)程度でクルーズしていると、乗り心地の良さを実感する。それが北米向けの味付けなのだ。


アメリカの道に合わせた味付けとされていることがよくわかった(筆者撮影)

クルマ好きの筆者としてなにより印象的だったのは、とにもかくにもデザインの魅力。文句なしにストライクだった。

「色の白いは七難隠す」ではないが、ワイド&ローのプロポーションの良さが見た目に与える影響は大きく、さらにキャビンの幅に対してフェンダーがグッと張り出していて安定感あるスタイルを実現。ワイドな全幅を活用したフェンダーの張り出しが、CX-50のカッコよさを完成させている。


ボリューム感のあるフェンダーの造形(筆者撮影)

マツダ車だけどアメリカナイズされたクルマ。そんなCX-50にマツダが課した役割は、北米においてCX-5に代わる人気車種となることだ

いま、CX-5は北米市場でマツダの代表車種となっており、販売台数でも同社のナンバーワンを誇る。2021年には約17万台を販売したが、これはマツダの北米販売の約5割にも相当するほどだ。

しかしながら、CX-5は当分モデルチェンジの予定がない。しばらくはCX-5とCX-50を併売しつつ、少しずつ販売の軸足をCX-50に向けていく戦略と思われる。

もしも、日本に導入したら

そんなCX-50を日本で売ったらどうだろうか。

見た目の良さゆえに、ある程度の販売は見込めそうに思えるが、最大のネックはやはり全幅だろう。CX-60の1890mmでも「車幅が広すぎる」と言われ、その全幅のせいで「自宅の駐車場環境を選ぶクルマ」とまで言われているのに、それを超える1920mmは日本では厳しすぎるだろう。

とはいえ、都市部でそれなりに見かけるポルシェ「マカン」とほぼ同じ車体サイズと考えれば、爆発的なヒットとはいかなくても、ある程度受け入れられる可能性は考えられる。

マツダ自身が「弊社のクルマ作りは万人ウケではなく、こだわりを持つ少数の人に『これがいい』と選んでもらえるような立ち位置」といっているのだから、ワイドな全幅が一般的な日本人には受け入れられないであろうCX-50も、ある意味マツダらしいクルマになりうるのかもしれない。いずれにせよ、CX-50は「全幅」がキーワードとなるクルマである。

(工藤 貴宏 : 自動車ライター)