日本人の「マスク依存」は世界でも異常、その理由は?(写真:takeuchi masato/PIXTA)

一部上場企業の社長・企業幹部、政治家など「トップエリートの話し方」を1000人以上変えてきた岡本純子氏。

たった2時間の指導で「棒読み・棒立ち」を「会場を総立ちにさせるほどの堂々とした話し方」に変える「劇的な改善ぶりと実績」から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏が、全メソッドを初公開し、15万部を超えるベストセラーとなった『世界最高の話し方』に続き、このたび『世界最高の雑談力―― 「人生最強の武器」を手に入れる! 「伝説の家庭教師」がこっそり教える一生、会話に困らない超簡単50のルール』を上梓した。同書は発売3日で3万部を突破するなど、話題を呼んでいる。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「日本人が『マスクを外す日』が永遠に来そうにない根深い6大理由」について解説する。

「マスクの着用は今後どうなるのか」問題

国内のコロナ感染者も減少の一途をたどり、WHOのテドロス事務局長も「終わりが見えている」と発言をするなど、いよいよ長いトンネルの先の光が見えてきました


そこで気になってくるのが、感染対策として普及した「マスクの着用」は今後どうなるかという問題です。

故安倍晋三元首相の国葬には、海外の要人も数多く参加が見込まれますが、政府は「マスクの着用」を求めるとのことです。

さらに10月からは、海外からの観光客も、規制が緩和され、訪日が可能になります。

そういった人たちにも「マスクの着用」をお願いすることになるのでしょうか。

はたして、私たち日本人が「マスクを外せる日」は来るのか

これから、間違いなく大きな論議を呼ぶと思われる「日本人とマスク問題」について掘り下げてみましょう。

イギリスのエリザベス女王の国葬で、日本人の多くがその厳かさに胸を打たれると同時に、誰ひとりマスクをしている人がいないことに、改めて衝撃を受けたのではないでしょうか。

実際、海外では「ほぼノーマスク」という国がほとんど。一方の日本では、感染リスクがほとんどないと思われる屋外でも「マスクをしたまま」という人が大多数で、この「一億総マスク」の状況は、世界的にも極めて異例です。

「外したくても、周囲の目が気になって外せない」という人も、逆に「つけているほうがラクだし安心」という人もいるでしょう。

「マスクなし会話に抵抗がある」と答えた人は…

私の会社で、日本全国の1200人に独自調査を行ったところ、コロナの感染リスクがないとしても、「マスクなし会話に抵抗がある」という人がなんと、53.3%にも上りました。10代女性に至っては、66.0%が「抵抗あり」という高い割合です。

その理由として、

「マスクは他の病気の感染リスクを減らせるから」が51.5%
「顔を見られたくないから」が23.2%
「恥ずかしいから」が21%
「自信がないから」が17.1%


という結果でした。「マスクなし会話に抵抗がある」と回答した人のうち、

31.7%の人が「人と会話する、会うときには、着用しつづけたい​」
31.2%の人が「多くの人がしなくなったら外したい」
22.8%の人が「マスクをつけずに話す機会を避けたい」


と答えました。つまり、

全体の2割弱の人は「人と会話するときや会うときにはマスクを着用しつづけたい」
約1割の人は「マスクをつけずに話す機会自体を避ける」


と考えているということのようです。

なぜ、ここまで、マスクを外すことに抵抗感を覚えるのでしょうか。

もちろん、「新型コロナやインフルエンザ等の感染拡大を防止するという効果がある」ということが、まず大きな要因ですが、「マスク着用」にはデメリットも少なくありません

【デメリット1】円滑なコミュニケーションが阻害されやすい

最も大きいデメリットが、「円滑なコミュニケーションが阻害されやすい」ことです。

シドニー大学音声研究所の研究によると、マスクをすると、とくに1000Hz(ヘルツ)以上の高い周波数を持つ音、つまり、子音が伝わりづらくなることがわかりました。

【デメリット2】「怒り」「悲しみ」「恐れ」などの感情を認識しづらい

また、スペインの大西洋ヨーロッパ大学の研究によれば、マスク装着時には、「怒り」「悲しみ」「恐れ」などの感情を認識しづらくなることが明らかになりました。

「声が聞き取りづらくなる」「表情が見えなくなり、感情が伝わりにくくなる」わけで、コミュニケーション自体が難しくなります。

「マスク依存症」という深刻な問題

【デメリット3】マスクを外して、顔を見せること自体が不安になる

そして、さらに心配されるのが「マスク依存症」です。

「マスクを外して、顔を見せること自体ができない、不安になる」等の症状を覚える人が多くなっています。

最近では、とくに小さいころからマスクをつけつづけてきたこともあって、外すことに抵抗感を覚えるという子どもが激増しています。

冒頭の調査結果にもあるように、顔を見せて話す場を極力避けるという人も少なくなく、「親密な関係」が築きづらくなる、対人関係に支障をきたす可能性も大いにあります。 

こうした「深刻な副作用」がある一方で、日本では、今後、コロナの感染が落ち着いたとしても、いっせいにマスクを外すという状態には戻りにくいかもしれません。

というのも、日本人を「マスク信仰」に駆り立てる「6つの要因」があるからです。

【要因1】日本人の徹底したリスク回避志向

まず1つめに、日本人の徹底したリスク回避志向です。

転職よりも終身雇用や投資よりも貯蓄といったように、日本人のリスクを極端に恐れる「ゼロリスク」志向は、とみに知られています。

新型コロナに対しても、15カ国を対象にした国際調査で、「心配」と答えた人の割合はどの国よりも高く、60%に上りました。

【要因2】日本人は「目」で、欧米人は「口」で表情を判断する

2つめが、日本人と欧米人のコミュニケーションのスタイルの違いです。「日本人は『目』で、欧米人は『口』で表情を判断する」という興味深い研究結果があります。

北海道大学の結城雅樹教授は、他人の感情を表情から読み取ろうとするとき、「日本人は『相手の目』を見るが、アメリカ人は『相手の口』を見る」ということを世界で初めて実証しました。

「欧米の絵文字」と「日本の絵文字」の違い

実際、笑顔は、「欧米の絵文字」では「口」が笑っていますが、「日本の絵文字」では「目の表情」で表現されています。

そして、この「目を見る」傾向は、幼少期から始まっていることも研究で明らかになっています。

ですから、口をマスクで覆われたとしても、欧米人ほど支障はない可能性があるわけです。

【要因3】日本語の「周波数」により、英語ほどには発声も聞き取りも難しくない

3つめが、同じくコミュニケーションに与える影響です。

先ほど、マスクをすると、とくに高周波の子音が聞き取りにくくなるというシドニー大学の研究がありましたが、英語の多くが「p」「t」「k」「f」「s」「sh」といった高周波の子音で構成されているのに対し、日本語は子音と低周波の「あいうえお」の母音の組み合わせです。

結果的に、日本語の周波数は、主に125〜1500Hz(ヘルツ)に対し、英語の周波数は、750〜1万2000Hzで、英語は日本語よりはるかに高周波、つまり、マスクによって遮られやすいということになります。

マスクをすると発声もしづらいし、聞き取りづらいわけですが、英語ほどはひどくはない、ということなのかもしれません。

アメリカでは、マスクは「自由への抑圧の象徴」

【要因4】アメリカと日本での「マスクの象徴」の違い

4つめが、マスクというものの「シンボリックなとらえ方」です。

アメリカでは、とくに保守派を中心に、「マスクをつける人は権威に盲従する『羊』であり、マスクはイスラムの女性が着用する『ブルカ』のようなもの」ととらえられています。

秘密主義、不信感、貴族的な変装を連想させ、「自由への抑圧の象徴」と考えられているのです。

一方で、日本では、「マスクは、目に見えない脅威や不確実性をコントロールできるという感覚を着用者に与える」(堀井光俊・秀明大学教授の論文「なぜ、日本人は仮面をつけるのか」より引用)もので、「ライナスの毛布」のような「心理的安全性を覚えさせるアイテム」ということになります。

実際に、20世紀初頭のスペイン風邪の流行の際に、アメリカでは、抵抗が大きかったものの、「日本の一般市民は抵抗なくマスク着用を受け入れた」(同)のだそうです。

【要因5】花粉症や感染症対策における「慣れ」と「信頼感」

5つめが、「慣れ」「信頼感」です。

日本人の国民病ともいわれる「花粉症」ですが、この防止に効果があるとして、マスクはもともと広く使われてきました。新型コロナの感染防止にも効果を発揮し、世界と比べても、死者の数は大きく抑えることができたわけです。

こうした「慣れ」と「信頼感」は、もはや日本人のDNAに刷り込まれていると言ってもいいでしょう。

【要因6】「過剰な自意識」が働く、日本の“お家芸”「ザ・同調圧力」

そして、6つめが、日本の“お家芸”である「ザ・同調圧力」です。

マスクは必要ないはずの屋外でもなかなか外せないのは、「マスクをしなければどう思われるだろう」「白い目で見られるのでは」という「過剰な自意識」が働いてしまうことも一因でしょう。

どうしても、ほかの人の行動に自分を合わせてしまう。この日本独特の「見えない圧力」に逆らうのは容易なことではありません

どうやって日常生活を取り戻していくのか

これらの複層的な理由から、日本人が「マスク信仰」から解き放たれることは容易ではなそうです。

「メリットとデメリット」「リスクとベネフィット」を勘案したうえで、「外す自由」と「つける自由」をどのように担保し、どうやって、日常生活を取り戻していくのか。これから議論が必要になってくることでしょう。

(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)