ロッキーズ戦で16勝目を挙げたパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

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リーグトップの24度目QS「安定感があるという意味ではいいかな」

■パドレス 9ー3 ロッキーズ(日本時間25日・コロラド)

 パドレスのダルビッシュ有投手が24日(日本時間25日)、敵地・ロッキーズ戦に先発し、6回を5安打2失点8奪三振の内容で、2012年に並ぶ自己最多タイの16勝をマークした。クオリティスタート(QS=6回以上自責点3以下)をナ・リーグトップの24度目とし、チームの連敗を2で止める粘投。激化するプレーオフのワイルドカード争いの中、貴重な勝利を導いた。

 10年ぶりの自己ベストにどんな思いがあるのか。ダルビッシュは端的に表した。

「いまは三振というよりも、球数を見て調整をして長いイニングを投げるという形でまた違うタイプで投げられていると思います。」

 今季29試合目の登板を24度目のクオリティスタートで飾ったが、そこにも冷静な視線を据える。

「大体6イニングを2〜3失点でいっているので。それでうちの打線だと、やっぱり勝ちは付きやすいかなと思う。調子がいいというより、安定感があるという意味ではいいかなと思います」

独自のデータから作成した「傾向と対策」を生かした6回の1球

 白星に付加価値をつけたのが「打者天国」と称される高地デンバーでの粘投だった。

 クアーズ・フィールドでは過去4度先発し白星無しの1敗、防御率は5.95と苦戦してきた。この日も不穏な空気が漂った。初回の立ち上がりに、1番のマクマーンに甘く入るチェンジアップを打たれ、右翼越えの先頭打者本塁打を浴び、連続無失点は16イニングでストップ。しかし、喫した1発が危なげない投球へ道筋を付ける――。

 被弾したチェンジアップの感触から、落ちないと直感したスプリットを封印。数球投じたツーシームも本来の軌道は描けず、直球とスピン系のカッター、そしてスライダーを中心に組み立てていくが、収集した独自のデータから作成した「傾向と対策」を十分に生かしきった背景がある。

 6回のマイケル・トグリアから奪ったハーフスイングでの空振り三振には、それがはっきりと映る。ボールカウント0-2と追い込んでから選択したのは内角にワンバウンドする82マイル(約132キロ)のカットボールだった。

 ダルビッシュの声が少し弾んだ。

「最低限あそこでいいかなっていう感覚で。できればプレートの上に落としたい。でも、(ボールが)抜けて、ポンって(バットを)合わされると逆方向でも入っちゃうので。とにかくワンバウンドを意識しました」

「打者の傾向をしっかり分かっているというところは、絶対大きい」

 内寄りの球に手を出すトグリアの傾向をしっかりと把握し、それを誘う“意図的なワンバウンド”は、被弾のリスクヘッジも想定したものだった。ダルビッシュは言う、

「打者の傾向をしっかり分かっているというところは、絶対大きいと思いますね。大体99%の人(投手)は、感覚であったりだとか、スカウティングレポートを見て投げているだけなので。それよりもっと深いところにいくことで、より安定に近づくのかなと思います」

 チームのデータ班がそろえる資料にも限界がある。こわばった言い方をすれば、ダルビッシュの1球への準備には、陪審で下される評決にも重なる過程――判断のための情報集、比較衡量、討議、そして意思決定――をたどる。ノラ捕手、そしてゲームプランを担当するサマービル・コーチとの意見交換も大切にする。言い切った「99%の投手」は、その徹底度の裏返しでもある。

 数試合前から、右肘を下げ気味にして投げる外角へ伸び上がるスライダーを配球に組み入れている。技術の探求心も知の構えも10年前とは趣を異にする。36歳になったダルビッシュ有には今、「進化」の2文字が当てはまる。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)