自動車用シートのメーカーが、「車酔いしにくいシート」を開発しました。背景には、将来おとずれる高度な自動運転の普及があるそうです。同乗者だけでなく、ドライバーにも深刻化する可能性がある車酔い問題、どう対策するのでしょうか。

自動運転社会の到来で深刻化? 車酔い問題

 いま、「車酔いしにくい自動車シート」の開発が進んでいます。進めているのは自動車用シートの製造などで有名な自動車部品メーカーのニッパツ(日本発条)。なぜ、このタイミングで車酔い対策なのか、担当者に話を伺ったところ、開発の背景には2030年ごろから本格的な普及が見込まれる"高度な自動運転"があるとのことでした。


ソニーが開発するEVのイメージ。車内でのエンターテインメント体験に主眼が置かれている(画像:ソニー)。

 子供の頃は車酔いしたものの、成長とともに酔わなくなってきた、という人も多いことでしょう。そのため従来は、車酔いの低減は大きなニーズにはならなかったそうです。ところが、車載ディスプレイやスマホの普及とともに成人でもこれらを車中で使用し、酔ってしまう人が増えているのだとか。車内で本を読んでいると車酔いするのと同じ原理だそうです。

 こういった行為は基本、同乗者によるものですが、高度な自動運転になると、ドライバーも同乗者と同条件になるため、車酔いが今以上に増えるのではないかと懸念されています。そこで、シートを製造している当社で何かできることがないかと開発を始めたそうです。

 そもそも同乗者は車酔いしても、ドライバーは酔いにくいもの。それは常に路面や周囲の状況を確認し、自身で車両の進路や加減速をコントロールしているので、自身が空間上でどのように動いているのかを知覚することができるためだそうです。ところが、自動運転中は同乗者としてビデオやスマホを見たり読書をしたりして、自身の空間上での動きを正しく認識し難くなるため、車酔いが増加すると考えられているのだそう。

 ちなみに、世界的な自動車部品サプライヤーのZFは、車酔いを起こす人の比率は、自動運転になることで現在の30%から90%に跳ね上がるのではないかとの予測を出しています。

どう車酔いを低減させるの?

 では、どのようにして車酔いを低減させるのか、今回開発された新型シートの機能についてニッパツに伺いました。

 車酔いは、視覚と動きのセンサーである耳の奥の前庭器官(三半規管、耳石器)などからの情報に矛盾が生じることで発生すると考えられているそうです。

 目から入ってくる情報と耳の奥にあるセンサーからの情報に整合性がとれていれば、脳の中でその情報が合成され自分がどういう動きをしているのか知覚、理解することができます。ところが、目からの情報と耳の奥のセンサーからの情報の非一致、ズレが生じると、自分の動きが理解できない、平衡感覚が保てなくなり、危険信号として酔いの症状が発生するのだとか。


将来の車内の過ごし方イメージ(画像:日本発条)。

 そのふたつの情報のズレをなくそうというのが、今回開発されているシートの最大の特徴です。簡単に説明すると、運転中に頭が揺れることで、その信号が前庭器官から脳に入ってきますが、揺れを減らし、目から入ってくる情報とのズレをなくそうというもの。今回の新型シートでは、ヘッドレスト部分に後頭部を支えるパーツを設け、耳の後ろにある後頭骨を左右から支え揺れを抑えられるようになっています。ちなみに、この新型シートの検証では、車酔いに至るまでの時間が約3倍、長くなったそう。

 検証はすでに終了していて、現在、実用化に向けて各国の法規対応の確認などを行っているといいます。あと数年もすると、この車酔い防止シートがデフォルトになっているかもしれませんね。