中絶トラブル問題が尾を引く巨人の坂本勇人選手。マスコミは報道自粛し、球団も“不問”にする中、ウェブ上での逆風は日に日に増している。スポーツライターの酒井政人さんは「坂本選手自らが引き起こしたトラブルなのに弁護士任せという態度でイメージはがた落ちでしょう。また、スポーツの現場で取材をしていると、坂本選手と同学年で、プロ野球選手として開花できなかったものの、セカンドキャリアが順調すぎる斎藤佑樹さんに違和感を覚える人も少なくない」という――。
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ベンチで試合を見る巨人の坂本勇人=2022年9月20日、東京ドーム - 写真=時事通信フォト

■「おろすならおろすで早い方がいいやろ?」にドン引き

「文春オンライン」が巨人・坂本勇人(33歳)の「中絶トラブル」を報じて約2週間。すでに示談は成立しているというが、球団からの公式発表や処分はまだない。テレビや新聞もほぼスルーしている状況に、「忖度(そんたく)している」の声が飛び交っている。また“坂本擁護”のコメントを出した著名人や元プロ野球選手にも非難の声が上がっている。坂本への“逆風”はやまないどころか、日に日に強くなっている印象だ。

かねて夜遊びを報じられてきた坂本だが、NPBでは圧倒的な存在感を示している。甲子園で活躍(青森・光星学院)すると、巨人にドラフト1位で入団。守備の負担が大きいショートでベストナインを7度、ゴールデングラブ賞を5度受賞した。2016年にセ・リーグのショートとしては史上初となる首位打者を獲得すると、2019年には最優秀選手(MVP)に輝いた。2020年には右打者として最年少の31歳10カ月で通算2000本安打を達成している。

5年契約の4年目となる今季はNPBの内野手で最高額となる年俸6億円(推定)で契約。NPBで“頂点”にいる選手の一人と言っていいだろう。

しかし、すでに多くの方が指摘している通り、今回の中絶報道はこれまでの女性トラブルとは次元が異なる。交際していた女性の妊娠がわかるや否や「おろすならおろすで早い方がいいやろ?」「中出しし放題だもんな」といった人としていかがなものかと思える言動をしたとされ、まず、プロ・アスリートとして猛省する必要がある。

「スポーツ選手は結果で見返せばよい」という坂本擁護派の声も聞こえてくるが、「見返す」のは、ある試合で3三振だったから、次の試合は打てばいいといった文脈で使うべき言葉である。しかも、近年の坂本は年俸5億〜6億円の“働き”をしていない。

2019年(当時30歳)には143試合に出場して、キャリア最多タイの173安打(打率.312)、キャリア最多の40本塁打をマーク。MVPに輝くなど、本当に素晴らしかった。

しかし、その後は徐々に成績が低下。打者を評価する指標のひとつであるOPS(出塁率と長打率を足し合わせた値)は2019年が.971、2020年が.879、2021年が.826、今季は.753(9月21日時点)だ。さらに今季は4月30日の阪神戦で右膝を負傷(右膝内側側副靱帯(じんたい)損傷と診断された)。登録抹消した影響もあり、規定打席の未到達が決定的になっている。

2015年からは主将としてチームを引っ張っているが、昨季は3位、今季も現時点で3位とチームは振るわない。巨人OBで日本球界のご意見番でもある広岡達朗氏も自著で「伝統ある巨人の主将として誇りとひたむきさが感じられない」と嘆いている。

■野球にめちゃくちゃストイックだが、夜遊び女遊びは…

「野球にめちゃくちゃストイック」と評されることもある坂本だが、これまでにもシーズン中の夜遊びが週刊誌にたびたび報じられてきた。何度もトラブルを起こしているのだから、巨人の“顔”という人気の上にあぐらをかいていると思われても仕方ないだろう。

野球というスポーツはMLBが世界最高峰だ。しかし、坂本はメジャー挑戦を避けてきた。

ベンチで試合を見る巨人の坂本勇人=2022年9月20日、東京ドーム(写真=時事通信フォト)

2016年、27歳のときに海外FA権を取得するも巨人に残留。2019年12月の契約更改交渉後の会見では、「ジャイアンツで最後までプレーしたい気持ちを持っています」と“生涯巨人”を宣言した一方で、同会見でメディアに対してこんなことも話している。

「メジャーに対しての憧れというのは持ってますけど、自信もないし、たぶん無理やなと思うので、僕は日本で頑張ります」

NPB時代にショートで4度のゴールデンクラブ賞を獲得した松井稼頭央がMLBに挑戦するも、2年目からはセカンドを守ることになった。それほどMLBのショートはレベルが高い。

坂本がMLBに挑戦しなかったのは個人の自由だが、NPBなら「これくらいで何とかなるでしょう」という甘い気持ちも心のどこかにあったのではないか。

MLBだろうがNPBだろうが、どこでやるかは本人の自由だ。しかし、プロ野球選手として、ひとりのアスリートとして、自分が立つステージでさらなる“高み”を目指すのが本当のプロフェッショナルだろう。

アスリートがいつまで現役生活を送れるかどうかは、日々の節制とコンディショニング維持にかかっている。トレーニングや試合後は速やかにアイシングなどのケアをして、すぐに食事をとるのがアスリートの基本。気分転換も必要だが、週刊誌に撮られるような行動は慎むべきであるのは言うまでもない。社会人として、ひとりの人間として最低限のモラルも守らなければならない。なにしろ、巨人には創設者の正力松太郎氏による「巨人軍は常に紳士たれ」という金言が残っているのだから。

聖人君子になれ、と言うつもりはない。だが、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉があるように、野球人として一流になってなお努力を続けている姿勢を多くの野球少年少女に示してほしい。

■坂本と同列には語れないが、斎藤佑樹氏に覚える違和感

坂本は1988年生まれで、高3時の夏の甲子園で優勝した早稲田実業高校・斎藤佑樹投手(34歳、早稲田大→日本ハム、2021年で引退)と同学年だ。同じ「ハンカチ世代」には楽天・田中将大、米ツインズ・前田健太、ソフトバンク・柳田悠岐ら日本球界を代表する選手たちがそろっている。

年齢的にピークを過ぎる頃で、田中も今季は大苦戦。MLBに挑戦した秋山翔吾と澤村拓一も厳しい現実を迎えている。西武時代に4度の最多安打を放った秋山は2000年にレッズと3年契約(2100万ドル)を結ぶも、思うような活躍ができず、今年6月にはNPB(広島)に復帰した。2021年にレッドソックスと2年契約した澤村も今年8月に事実上の“戦力外通告”を受けている。

そうした中で意外な活躍を見せているのが、甲子園のマウンドで、ハンカチで顔をぬぐっていた斎藤氏だ。今も変わらぬ爽やかな笑顔でメディアに多数露出している。

画像=「株式会社斎藤佑樹」のHPより

しかし、筆者がスポーツの現場で多くのアスリートやトレーナーなどを取材していると、この“現象”を不思議に思う層が一定数いる。彼らは嫉妬しているわけではない。異口同音に語るのは「斎藤氏はNPBで大して活躍してないのにね……」ということである。ある男性スポーツ関係者は「ちょっと気持ち悪いよね」と生理的な嫌悪を示すほどで、社会全体にも違和感を抱く人も少なくないと思われる。

斎藤氏が最も輝いていたのは、前述した早稲田実高時代からエスカレーターで進学した早大時代だ。夏の甲子園決勝で駒大苫小牧と延長再試合という壮絶な戦いを演じて、のちにヤンキースエースとなる田中将大に投げ勝った。早大でも東京六大学野球史上6人目となる通算30勝300奪三振を達成するなど活躍。4球団からドラフト1位指名を受けて、日本ハムに入団した。

1年目に6勝(6敗)、2年目に5勝(8敗)。その後は、なかなか勝てず、1軍と2軍を行き来した。NPB10年間の通算成績は89試合で15勝26敗。防御率は4.34だった。なおNPB史上、60試合以上に先発しながら、通算15勝以下に終わったのは斎藤氏しかいない。結果を出せないにもかかわらず、長く現役を続けられた(球団が契約を継続した)ことに首を傾げる野球関係者やファンも少なくなかった。

2016年には「早大OBであるベースボール・マガジン社の社長に二軍練習場に通うために高級車ポルシェのカイエンをおねだりした結果、800万円を超えるマカンの新車を提供された」と『週刊文春』に報じられている。期待が大きかっただけに、斎藤氏のNPB時代は控えめに言ってもショボいものがあった。

■高校時代の“遺産”でどんどん仕事が舞い込む謎

現役引退後は自ら立ち上げた株式会社斎藤佑樹の代表取締役に就任すると、大手企業のCMに次々と出演。情報番組でも活躍している。見事なセカンドキャリアを構築している。

画像=斎藤佑樹さんのインスタグラムより

ただ、甲子園の優勝投手よりも、NPBで活躍した選手の方が、野球選手としての“格”は上だ。それでも斎藤氏の場合は、NPBの実績がさほどないのに、高校時代の“遺産”で仕事が舞い込んでくる。

それだけ、全身アイボリーカラーにエンジのWASEDAのロゴのユニフォームに身を包んだ、あの鮮烈なイメージが33歳になった今もなお斎藤氏にあるということなのかもしれない。とはいえ、「気持ち悪い」とまでは言わないまでも、その過熱人気ぶりに違和感を覚えるスポーツ界の人は潜在的に多いのだ。

かつて箱根駅伝5区で大活躍して「山の神」と呼ばれた今井正人(トヨタ自動車九州)は38歳になった今も現役だ。大学卒業後も「山の神」と騒がれた今井は、森下広一監督から「いつまでも『山の神』と言われないようにしないとな」とハッパをかけられ、奮起した。

「僕自身は大変だなと思ったことはないんです。もう箱根を走ることはないわけですし、実業団では『マラソンをやりたい!』という気持ちが強かったですからね。箱根駅伝は自分をアピールできた場所でした。5区で活躍ができたのはすごくうれしいことですし、名前を覚えてもらえたこともありがたいと思います。箱根駅伝のイメージを払拭するくらい、マラソンで結果を出したいなというモチベーションで今も競技をしています」 

今井は箱根駅伝の栄光を引きずることなく、マラソンに挑戦し続けている。大学を卒業して16年経過した今年2月の大阪マラソンではセカンドベストの2時間8分12秒をマーク。2024年パリ五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権をつかんだ。

結果がすべてとはいわないが、スポーツの世界は“勝者”が注目を浴びるべき。だからNPBで活躍できなかった斎藤氏をメディアがこぞって起用する現象は摩訶不思議であり、時代遅れな印象を受けるのである。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)