パドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

快投続く9月、渡米11年目で初の週間MVPを受賞

 ダルビッシュ有はかく語りき――。

 蓄積した疲労がピークに達する9月に入っても、抜群の安定感が乱れる気配はない。18日(日本時間19日)までの4登板で計27回、394球を投げて、失点は3点。2日(同3日)の敵地ドジャース戦では7回を投げて2安打無失点の力投。9三振を奪い、その6個目で敬愛する野茂英雄氏に並ぶ日米通算3000奪三振の大台に達した(MLBはABEMAで毎日生中継)。

 快記録への思いを改めて聞いた。

「僕がメジャーで長いことやっているというのが一つの要因じゃないかなと……。日本でやるよりは三振が取りやすいので。だから本当にそこはあまり気にしてないんです」

 時計の針が進み、三振は「メジャーの方が取りやすい」の深層の声を含んだ。その核心をこう開陳した。

「(日本での)教えとして、今までプレーをしている人たちは、小さい時から三振をしないように教えられているというか、三振はすごくネガティブなプレーとなってしまっている。なので、打者には三振をしたくないという強い意識があって、なるべくインプレーにしたいという気持ちがあるんですね。強くスイングをするということよりは、こういう風(コンパクトなバット軌道)なスイングになってくるので。やっぱり、より難しいのかなと思いますね」

 追い込まれれば食らいつき、難しい球はファウルで逃げる、日本の打者の習性が描写されている。知将と謳われた故・野村克也氏は、打者が持つ羞恥心を「詰まらされた凡打」と「タイミングを大きく外された空振り」の2つに集約している。マウンドと打席で目線は違っても、言葉の色合いは同じである。

 深層の声は響きを増した。

「昔の人たちの考え方として『何か問題があったら走る』。試合で打たれたら『体力がない』という理由を付けてすごく走る。だから、自分の状態の改善だとか、自分を良くしていくということに対して、アプローチが1つしかないんですよね。そうなってしまうと、成長する幅とかが大きく失われてしまいます。多分、健康被害の部分もあるでしょう。走らせ過ぎると体力が落ちて、どんどん筋肉もなくなって、怪我にもつながるというところなんです。さすがにもう、走ることが一番大事というのは世界的に見ても、いろんな研究を見ても無理がある。なので、今でもそれを信じている人たちが、ある程度そこを理解してこないといけないんじゃないかなという風に思っています」

 忘れずに付言すると、科学的な根拠のある実証的なデータをトレーニングに反映させてきたダルビッシュは、「走るというものをゼロにしてしまうよりは、コンディショニングの1つとしてその中に入れてもいいと思います」と添えている。

ダルビッシュが語る「根性」というキーワード

 海を渡った野茂氏(3122個)とダルビッシュが続く前に、日本プロ野球で3000奪三振を記録したのは、金田正一氏(4490個)、米田哲也氏(3388個)、小山正明氏(3159個)、鈴木啓示氏(3061個)の4投手。彼らが躍動した昭和という時代の風潮とも密接に絡む「投手は走り込みが一番」という考えにも説き及ぶ。その中で、かつて日本の野球界に脈々と流れ、今も細りながら絶えない暗流とも言うべき「根性」がキーワードとして浮上した。

「根性というものがあるって信じれば、その人たちの中では根性というのがあるんでしょうけど。でも、それはそういう生活をしてきたから、それが必要だと。それがないと、自分の持っている精神性が獲得できないという風に信じ込んでいるから、そうなっているのではないでしょうか。一方で、アメリカの選手たちって、小さい頃からはっきり言って全然練習なんかしないし、走りもしない。14歳、15歳の自分の息子たちもそうなんですけどね。練習で走らなさ過ぎるから『家でスプリント(ダッシュ)くらいはちゃんとしておきなよ』って僕が言わないといけないくらい量が少ない。でも、今ここ(米国)でプレーをしている子どもたちが大きくなった時に日本人の選手よりもすごくなっているのを見てくると、やっぱり根性というのはどうなのかなっていう風には思ったりします」

 気温約38度の炎天下での調整を終え、思いの丈を一気に説き述べたダルビッシュに19日、初の週間MVP選出の吉報が届いた。ローテーションに変更がなければ、公式戦の残り登板はあと3試合。

 ダルビッシュ有は余人が知り得ない無上の感性――通論に惑わされず、世間の常識になびかず、正しいと信じたものを貫く姿勢――が宿る1球を重ねていく。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)