「住む場所も働く場所もない」観光都市世界一・京都が2年連続人口減少数ワースト1の残念すぎる理由
■2年連続人口減少数ワースト1…
今、日本を代表する歴史文化都市・京都に黄信号が灯っている。
2020年には、「京都市財政破綻の危機」というニュースが全国を駆け巡り話題になったが、今度は2年連続人口減少数ワースト1という残念な事実が突きつけられている。
コロナ禍前までは「オーバーツーリズム」といわれるほど多くの観光客でにぎわい、京セラをはじめ、任天堂、日本電産、村田製作所、島津製作所、ワコールなど名だたる大企業が本社を置く京都が、日本最下位とはいったいどうしたことか。
■地元紙一面「京都市の人口 日本一減った」の衝撃
昨今、人口減少というキーワードが地方自治にとっての最重要ワードになりつつあり、毎年総務省が発表する人口動態に年々注目が集まっている。
だが通常、人口増減については「率」で語られることが多い。率で見た場合、人口の少しの変動が大きな比率になる小規模自治体が中心になるため、あまり注目されてこなかった。ちなみに人口減少率ワースト1はここのところずっと、財政破綻した北海道・夕張市だ。
しかし、注目してもらいたいのは増減率ではなく、増減“数”のほうである。
人口統計を追いかけてくる中で、2020年の人口増減ランキング(総務省)で京都市がワースト1になったという事実に驚き、YouTubeをはじめあちこちでこの話をしてきた。すると今年の8月28日、京都新聞の一面に「京都市の人口 日本一減った」という記事が掲載され、たちまち多くの人の知るところとなった。
■1万人を超える人口減少
2020年の京都市の人口増減数は−8870人で、他都市と比べても突出しており、かなりの衝撃を受けた。ところが、2021年には前年の減少数を大幅に更新し、−1万1919人と1万人超えの減少を記録した。
少なくとも近年で1年間に1万人以上の人口が減った例をほかに知らない。しかも、過去10年間(2011年から2020年)147万人台で安定していた京都市の人口も、2022年2月には145万人を割り込み、人口の急降下という事態に陥っている。
これは、国立社会保障・人口問題研究所が発表している京都市の人口予測推移も大幅に下回る数字だ(「日本の地域別将来人口推計」平成30<2018>年推計)。
京都市の財政破綻のニュースに接し、さらに人口減少率ワースト1が夕張市だと聞けば、財政難が元凶のように映るかもしれない。だが問題はまったく別のところにある。
■転出が転入を5000人上回る
具体的に京都市の人口減少の内訳をひもとくと、「なぜ市内から人がいなくなっているのか」という疑問に答えが出る。
人口増減は(出生者−死亡者数)の自然増減と、(転入者−転出者)の社会増減に分けられる。まず、2021年の京都市の社会増減は次の通りだ。
転出者 9万9356人(府内へ7961人、府外へ4万1885人)
その他 −695人
社会減 −4837人
ここからわかるように、転出者が転入者を5000人近く上回っている。
ちなみに、「その他」は転出届を提出せずに母国に帰ってしまった外国人や、住所不定のホームレスが住民票を取得した場合などが該当する。
■「大学のまち」であるがゆえの苦悩
この社会減の大きな要因は、「大学の街・京都」という京都市のもう1つの顔に起因する。
京都市は京都大学を筆頭に、同志社大学、立命館大学、龍谷大学、京都産業大学など、なんと38もの大学を抱え、人口の約1割を大学生が占めている。人口当たり大学数日本一という側面を持っているのだ。
コロナ禍によって授業のオンライン化が進み、2020年は大学の休講が急増した。その結果、通常の年なら市内に引っ越ししてくるはずの新入生が来なかった。
2021年になり、休講はなくなったものの、オンライン授業でキャンパスへ行く回数が減り、これまで近畿一円からやってきていた下宿生は実家から通うケースが増え、転出増・転入減となった。
■留学生が大幅に減った
加えて、国が入国制限を進めた結果、外国人留学生が大幅に減少した。
とくに近年は少子化の影響で、大学の定員を埋めるために留学生に頼ってきた面が強く、学校によっては生徒の半数近くが外国人というような大学も存在する。
国も留学生の受け入れには積極的な姿勢を打ち出し、留学生数は増加し続けてきた。それがコロナ禍で大打撃を受けた格好だ。
一方、これは京都に限った話ではなく、全国的にいえることでもあるが、建築、製造業で採用してきた外国人技能実習生の数が下振れしていることも影響している。
ただし、これらは100%とはいわないまでも、コロナ禍ならではの現象だという背景を鑑みると、やがてはおおむね戻ることが予想されるので、それほど深刻に考える必要はなさそうだ。
■「住むとこない」「働くとこない」の京都
もう1つの社会減の原因は、周辺都市への若者世代の流出だ。
大別するとその流れには2つあり、1つは京都大学を筆頭にした難関大学の卒業生の受け皿となるべき企業が少なく東京、大阪に流出するケースだ。
先述の通り、地方都市としては大企業が多いのが京都だが、京都企業の特徴は製造業に偏っている。また、京都の大学から輩出される人材を抱え切れるほどの企業数ではない。そのため卒業生の流出が続いている。
もう1つは京都市内の地価高騰で街中での住宅購入が難しいため、地価の安い周辺に人々が流れていっている。都市部にありがちなケースだ。
京都市としても、後者に対する問題意識は高い。街中の空き家をできるだけ減らし、住宅を流通させ、地価の高騰に歯止めをかける目的で2022年に「空き家税」の導入を決定したが、これも、このような人口減少対策の一環である。しかし効果は不透明で、決定的な手を打てずにいる。
住んでいた住民が京都を去り、新たな流入が見込めないというのは、都市として非常に残念な事態だ。だが、これらの社会減については、自治体の戦略次第である程度抑えることはできるだろう。
■人口減少の波が大都市を飲み込む日
次に自然増減を見ていこう。
死亡数 1万6032人
自然減数 −7082人
問題はこの自然減で、死亡者が出生者を7000人以上上回るという、人口減少の本質的課題がある。
考えてみれば、これは起こるべくして起こる事象でもある。
京都市は、以前からほかの大都市に比べて高齢者比率が高い(つまり、高齢者が多い)街として知られており、大都市の中でかなり早い段階で自然減に直面することはわかっていた。
併せて、京都府は出生率が全国の中で東京に次いで2番目に低い(これは大学生の数が多いからという理由もあるのだが)。つまり、日本で2番目に子どもが生まれない街で、高齢化が進んだ大都市という“ダブルパンチ”でこうした結果となったわけだ。
■2020年以降、人口減少の大波が自治体を飲み込んだ
ただ、これは京都市だけの課題ではなく、全国の自治体を襲う大きな問題でもある。
これまでのトレンドからいえば、京都市同様人口減少が加速している政令市は北九州市、神戸市、静岡市、新潟市などが挙げられ、政令指定都市は福岡市、川崎市、さいたま市など人口が増え続ける都市と急激に減少している都市との二極化が進んできた。
しかし、2022年に突入して、自然減を社会増で補ってきたそれら中間的な都市までもが人口減少の波に飲まれている。その結果、大阪市や名古屋市、広島市などが突如人口減少数ランキングに名を連ね始めている。
この問題は手の打ちようがない分、実に深刻だ。高齢者の死亡を阻止することは不可能であるのと同時に、出生率を極端に引き上げることもとうてい現実味のある話ではない。
2022年はついに、「東京一極集中」といわれ続けた東京、そして首都圏すらも人口減少に転じた。これについての詳細は長くなるので割愛するが、こうした人口減少時代の洗礼をもろに受けているのが京都市ということであり、このトレンドは、今後しばらく京都を悩ませる最大の課題になりそうだ。
■都市計画を根底から狂わせる人口減少の影響
人口減少はあちこちに綻(ほころ)びをもたらす。
京都市が財政難になった一因として挙げられる地下鉄東西線建設にしても、そもそも145万人だった京都市民が160万人になるという前提で計画が進められた。15万人も下振れすれば収支が合わなくなるのは自明の理だろう。
このように、都市の計画は想定人口をベースに設計されており、こうした状況下では京都市が今後見込んでいる税収増の計画をはじめ、さまざまな計画目標の達成も難航することが予想される。
生産年齢人口の低下は、とりわけ中小企業の採用をより深刻なものにさせ、企業の成長を著しく阻害する。
内需向けビジネスは市場の縮小に伴い、より大きなマーケットへの移転を加速させ、労働者もまたよりよい労働環境を求めて街を去る。残されるのは高齢者ばかりで、高齢化がさらに加速する。
その結果、空き家や空きテナントが増え、地価は下がり、街の活力が奪われる。これらの現象はすでに人口減少が著しい地域が直面している課題であり、この負のスパイラルから抜け出せず、状況をさらに悪くさせる。
■成功する都市、失敗する都市
よくいわれることだが、統計と実感値にはおおむね2〜3年のタイムラグがある。人口減少が肌感覚で伝わるにはしばらく時間を要するが、重要なことは、兆候が出た時点でいかに素早く手を打つか、ではないだろうか。
幸い自治体の人口減少について、克服事例はあちこちで見られる。
9年連続人口増に転じた明石市(兵庫県)を筆頭に、子育て支援の徹底とそれらの施策を周辺都市の住民に周知するシティセールスを実行し続けている都市が連続人口増の常連になっている。
川崎市やさいたま市のように、かつて利便性は高いもののブランドイメージがついてこなかった都市も、近年では都市ブランディングの強化で成功を収めている。
強固な岩盤で地震に強く、東京に近いという特徴を武器に、「DX時代のキーファクター」であるデータセンター誘致に成功した印西市(千葉県)は、いまや日本を代表するDC(データセンター)銀座に成長した。
人口減少対策の鍵を握るのは、子育て支援と都市の特性を生かした成長戦略だ。逆に、画一化された誘致戦略はことごとく失敗している。
そう考えれば、都市特性が突出している京都市ならではの打ち手はたくさんあるように思う。
■「都市ブランド」に活路あり
労働市場のシュリンクは、企業に大打撃を与える一方、企業は採用に力を注ぐようにもなる。そうなったとき、大量の人材を輩出できる大学の街・京都には非常に大きなアドバンテージがある。
企業誘致も他都市と同じようにやるのではなく、京都ブランドに対する憧れが強い外資系企業などに照準を絞って取り組んだほうが成功する確率は高まるはずだ。
人口争奪戦がいよいよ激しさを増す中、ヒト・モノ・カネの3要素のうち、ヒトとカネが欠如しつつある京都が復活をするのは容易ではない。だが、他都市にない圧倒的なモノと都市特性を生かせば、それでも活路は十分にある。
京都市を襲う財政難と人口減にどう立ち向かうか、京都市の真価がまさに問われている。
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村山 祥栄(むらやま・しょうえい)
前京都市議会議員
1978年、京都府に生まれる。15歳のとき、政治に命をかけず保身に走る政治家の姿に憤りを覚え、政治家を志す。衆議院議員秘書、リクルート(現リクルートホールディングス)勤務を経て、25歳の最年少で京都市議に初当選。唯一の無所属議員として、同和問題をはじめ京都のタブーに切り込む。変わらない市政を前に義憤に駆られ、市議を辞職。30歳で市長選へ挑戦するも惜敗。大学講師など浪人時代を経て、地域政党・京都党結党。党代表を経て、2020年に再び市長選へ挑むも敗れる。主な著書には『京都・同和「裏」行政』『地方を食いつぶす「税金フリーライダー」の正体』(以上、講談社+α新書)、『京都が観光で滅びる日』(ワニブックスPLUS新書)などがある。
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(前京都市議会議員 村山 祥栄)