部下にはどんな声がけをすればいいのか。営業研修トレーナーの伊庭正康さんは「部下との会話が盛り上がる人は、自分の聞きたいことではなく、相手の答えやすい質問から始めている。だから、『最近どう?』という声がけはやめたほうがいい」という――。

※本稿は、伊庭正康『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■「最近どう?」という部下への声がけが逆効果なワケ

コミュニケーション上手な人の会話を分析する中で、ある発見をしました。部下との面談がギクシャクする上司は、自分が「聞きたいこと」から尋ね、一方、面談が盛り上がる上司は、「答えやすい質問」から尋ねる。

なんだ、そんなことか……と思われたかもしれませんが、誰もが意外とやってしまっているもの。私も管理職の時、無自覚にやっていました。たとえば、「どう? 最近は?」といきなり尋ねたりしていましたが、これも「自分が聞きたいこと」であり、NGなのです。

ここで、「答えやすい質問」と「答えにくい質問」を整理しておきましょう。

三つの切り口で整理します。「時系列」「コトとココロ」「抽象と具体」です。

■答えやすい質問の3つの切り口

〇系列

答えやすい質問としては、「現在のこと」「過去のこと」が該当します。一方で、「未来のこと」は答えにくい質問になります。

現在と過去のことは、すでに起こったことなので回答がしやすいのですが、未来のことは不確かなので、答えにくいというわけです。

▲灰函併実)とココロ(考えや想い)

「コト(事実)」のほうが答えやすく、「ココロ(考えや想い)」は答えにくい質問に当たります。

これも「コト(事実)」は起こっていることなので答えやすく、「ココロ(考えや想い)」は正解がないので、答えにくいと考えると整理がつくでしょう。

だとすると、ダメな質問はこんな感じ。

「お疲れ様。今週はどう?」

アイスブレイクのはずが、聞かれたほうは、「どう答えるのが正解なのか……」と身構えてしまうわけです。

C蠑櫃閥饌

抽象的な質問から入り、そのあとに具体的な質問をしたほうが、会話としては自然な流れになります。

その流れを図で整理しました。この順序に沿って、1から12の順に話してみてください。自然な流れで会話が進展するはずです。

会話をしている際、「次に何を聞くべきかわからない」状態に陥った際にも、この流れを意識すれば次に聞くべきことがわかります。ぜひ、活用してください。

出所=『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]』

■情報は多い方から少ない方に流れるのが自然

もう一つ、研修中、毎日のように行うロールプレイングを見て、わかったことがあります。「聞き上手」な人は、例外なく「教わり上手」ということです。たとえば、次の二つのあいづちを比べてみてください。どちらが「聞き上手」だと思いますか?

部下 「連休は渋谷でショッピングだったのですが、どこも人混みで大変でした」
上司 A「そうだよね」
上司 B「そうだったんだ」

いかがでしょうか。どちらが聞き上手だと感じたでしょうか?

正解は、B。「そうだったんだ」というあいづちのほうが、部下が話しやすいのです。

水が上から下に落ちるよう、会話も情報が多いほうから少ないほうに流れます。A「そうだよね」だと、上司も「そのことについて知っている立場」なので、上司と部下の情報量は同じになります。だから、部下はこれ以上話すことがなくなります。

一方、B「そうだったんだ」は、上司がそのことを知らない、つまり上司のほうが情報量が少なくなります。すると、部下から上司へ情報が流れる、つまりいろいろな話をするのが自然な流れとなる、というわけです。

その後のセリフを加えてみると、よりわかりやすくなります。比べてみましょう。

上司 A「そうだよね。連休はね」
上司 B「そうだったんだ。どんな感じだったの?」

こうなると一目瞭然。会話が続くのはBだということがおわかりでしょう。もちろん、Aの「そうだよね」がダメとは言いませんが、やはり相手が話しにくくなることは事実であり、注意が必要なのです。

■ソクラテス以来の「会話のセオリー」

「教わる会話」でも、部下の話す量が大きく変わってきます。こんな感じです。

上司「そうだったんだ。どんな感じだったの?」
部下「そうなんですよ。以前は、ここまで人が多くはなかったのですが、店は大行列です。どこも入れませんでした。息子はダダをこねますし、大変でした」

いかがでしょう。このように想定外の情報を教えてくれても不思議ではありません。知らない立場に立ち、教わる聞き方をしたほうが、相手はいろいろと教えてくれるのです。

古代ギリシャの哲学者ソクラテスが残した示唆、「無知の知」をご存じでしょうか。「自分に“知識がない”ことを知る者は、それに気づかない者よりも賢い」。これが、「無知の知」の本意。優秀な上司ほど、「知っているつもり」にならないよう戒めなければならないことを痛感します。

まず、大事なのは教わる姿勢。その上で、ここからは、部下のほうからいろいろと教えてくれる聞き方のテクニックをご紹介します。

■カブトムシが理由で会社を休む部下

「見ているだけで、ムカつくんですよね。あの人とは仕事したくないです」そんなムチャを言う、身勝手な部下がいたとしましょう。そんな時は、無理に相手を理解しなくてもいいのです。理解できなくても「受け止める」ことができれば、困った部下であったとしても距離を縮めることはできます。

伊庭正康『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]』(PHP研究所)

その際、あえて賛成も反対もせず、また意見もせず、ただ「感情」を代弁しましょう。それこそが「受け止める」聞き方になります。次の会話をご覧ください。

部下 「もう、高橋さんとは仕事をしたくありません!」
上司 「どうしたの?」
部下 「何度言っても納期に遅れるのです。今回で2回目なんです」
上司 「2回目か……。それはいい気持ちしないよね

もう一つのケースも見てみましょう。

部下 「ウチのカブトムシが死んだので、今日は休ませてください」
上司 「カブトムシか……。その理由で休む人はあまりいないので、聞かせてもらっていい? どんな背景があるの?」
部下 「かわいがっていたんです……」
上司 「そうか。あまりに悲しいね……

いかがでしょう? この傍線部分こそが、相手の「感情」を代弁しているセリフです。「この上司、わかってくれている」というイメージが持てませんか。

くれぐれも言っておきます。この傍線は、上司本人の感情ではなく、部下の感情を代弁しているだけ。

「相手が納期に2回遅れただけで、仕事はしたくないとは何様のつもりだ!」
「カブトムシが死んだので会社を休みたいとは、責任感がないのか!」

それが本心だとしても、上司は受け止める会話をしないといけないのです。それが役割だからです。正直に言うと、私にも理解はできません。でも、このセリフのように、受け止めるようにはします。

出所=『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]』

■寄り添ってからであれば注意も効く

もちろん、放っておけない時は注意すべきです。でも、いきなり注意をするより、距離を詰めてからのほうが注意の効果はあります。

「確かにいい気持ちしないよね」と距離を詰めながら、しばらくは話を聞き、その上で、問題に気づかせる質問をすればいいのです。たとえばこんな感じです。

「ふと思ったんだけど、そこでシャットアウトしてしまうと、今後、一緒に仕事できる人が少なくなるんじゃない? そんな人も多いよ。その点はどう思う?」

言いたいことはあと。まずは、相手に寄り添わないと、聞く耳を持たない部下もいます。まず、相手の「感情」を代弁してみてください。

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伊庭 正康(いば・まさやす)
らしさラボ代表
1991年、リクルートグループ入社。求人事業の営業に配属。営業部長、(株)フロムエーキャリアの代表など、重要ポストを歴任。2011年、企業研修を提供する(株)らしさラボを設立。営業マンや営業リーダーを対象に年間200回にのぼるセッション(営業研修・営業リーダー研修・コーチング・講演)を自ら行っている。著書に、16万部ベストセラーとなった『できるリーダーは、「これ」しかやらない』『できる営業は、「これ」しかやらない』(以上、PHP研究所)、『超効率的に結果を出す テレアポ&リモート営業の基本』(日本実業出版社)、『できるリーダーは「命令しない」「教えない」』(大和書房)ほか多数。
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(らしさラボ代表 伊庭 正康)