FAX・カセットテープ・モールス信号…令和でも意外と活躍中!?

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 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうなか、驚かされるのが昭和テクノロジーの遺産ともいうべきFAXの存在感。医療機関が保健所へ陽性者を報告する際、FAXで知らせているというのだ。ジャーナリストの村上和巳さんが教えてくれた。

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「セキュリティーの点から、医療機関では、インターネットで外部にアクセスできるパソコンの数が限られているケースがあります。加えて感染拡大の状況では、入力するスタッフの人手も足りません。紙に書いてFAXで流したほうが早いこともあるのです」

 すでにコロナ禍は第7波に突入、国が開発した患者情報を集約するシステム『HER-SYS』も稼働している。それでもFAXが重宝されるのは、デジタル化だけでは解決できない“落とし穴”があるからだ。

デジタル化も本末転倒な現場

「ひとたび情報がデジタル化されると、データの処理や加工をするのは簡単です。感染者数から年齢、地域別感染者数まで、欲しいデータを瞬時に出すことができます。しかし、情報をデジタル化するには、まずは入力作業が不可欠。これに手間がかかります。便利にするためにデジタル化したのに、それによって医療現場に負担がかかっていては本末転倒です」

 そう話すのは、ITジャーナリストの三上洋さん。本気で医療現場のデジタル化を図りたいなら、予算を割き人員を配置しなければならない。

「財政状況の厳しい日本には、残念ながら割ける予算がありません。デジタル化の補助という点で依然、FAXは有効なのです」(三上さん)

 医療現場でFAXが活躍しているのはコロナ関連だけではない。村上さんによれば、

「保険調剤薬局や病院の薬剤部では、医薬品の副作用情報を緊急に知らせる際、今もFAXが使われています。FAXはリアルタイムで受送信できて、出力されるときに音がするので受信したことに気がつきやすい。これがメールだと迷惑メールに振り分けられていたり、見落とされたりする可能性があります」

 情報漏洩の防止という点でも、意外なことにメールよりもFAXに軍配が上がる。

「ネットで情報のやりとりをするには高レベルのセキュリティーが必要。ネットにつながっているということは、世界中から攻撃を受けるおそれがあるからです。FAXを盗聴すること自体は簡単ですが、そのためには病院や薬局へ直接スパイなどを送り込むしかありません。高いレベルのセキュリティーを確保できない環境なら、メールよりFAXのほうが安全性は高いのです」(三上さん、以下同)

 スマホが普及し、キャッシュレス決済も浸透、オンライン授業も日常になった。IT化が進む時代でも、昭和に生まれたアナログなモノは、さまざまな場所で使われ続けている。それをここでは「昭和遺産」と名付けたい。身近なところで活躍する昭和遺産をさらに詳しく見ていこう。

自治体から米軍までフロッピー利用の謎

 今年5月に発生し、世間を騒がせた山口県阿武町の4630万円誤送金問題。そこで突如、注目を浴びたのがフロッピーディスクだ。2011年には製造中止となった懐かしの記憶媒体が、金融機関への新型コロナ対策関連給付金の入金データの連絡に、'22年になっても使用されていた。

「金融機関としては、フロッピーディスクによる振り込みデータの受け渡しをやめたいのが本音。しかし、自治体の要望があるため受け入れざるをえないのです。これにはコストの問題があります。

 インターネットバンキングのようなセキュリティーの高いシステムを導入するには、専用システムを導入する予算が必要になります。小さな自治体の厳しい財政状況で費用を捻出するのは至難の業。だから仕方なくフロッピーを使い続ける自治体が今もあるのです」

 CDやDVDに比べて、フロッピーは壊れやすい。それなのに意外な場所で、2019年まで現役で使われていたことが明らかに。その場所とは、なんと米軍! 核ミサイルの運用管理をフロッピーディスクで行っていたのだ。フロッピーには、核ミサイルの発射プログラムのデータが入っていたという。

「核ミサイルを発射させるには“認証”が不可欠。つまり“間違いなくアメリカ大統領が核発射を希望している”という確証と、発射までの手順が決められているとおりであることの証明が必要です」

 ネットからアクセスできるシステムでは、本当に大統領なのかを認証するのが難しい。何者かが介入するリスクもある。

「フロッピーであれば、それを所持している人は正規の担当者だという認証になります。さらにフロッピーの中には、核兵器の運用部門だけが知っているプログラムが入っている。これによって認証が二重になり、セキュリティーの高いものになっていたのです」

 一方、フロッピーどころの話ではないのが、ウクライナへの侵攻を続けるロシア。

「ロシア軍では通信手段としていまだにモールス信号が使われています。ウクライナ戦争で『巡洋艦モスクワ』が撃沈されましたが、それを知らせる第1報は『モスクワ』からのモールス信号でした。通信マニアが傍受して、発覚したのです。これには驚きました」(村上さん)

若者にカセットが「エモい」わけ

 再評価された「昭和遺産」もある。週女読者には懐かしいカセットテープだ。

 今年5月、B'zが新譜の初回限定特典にカセットテープを付けると報じられたところ、ツイッターでは「#カセットテープ」がトレンド入り。ほかにも山下達郎や聖飢魔II、奥田民生などの人気アーティストが、相次いでカセットテープで作品を発表している。

「レコードもそうですが、カセットのようなアナログメディアがもてはやされている理由は、まず音質にあるように思います。CDや配信に比べて、音がやわらかで聞きやすい。そのうえ、デッキにカセットをガチャッと入れて“巻き戻し”などの操作をするのが、若い世代にはなんとも“エモい”ようです」(三上さん、以下同)

 シニア層が購入しているのかと思いきや、実はZ世代と呼ばれる若年層がカセットテープの愛用者だという。

「“所有欲”も関係していると思いますね。サブスクを利用しても、アルバムが手元に残るわけではありません。実際にカセットテープを所有して再生させるという操作自体が“刺さった”のだと思います」

 今なおすたれない「昭和遺産」は、ほかにもある。

「例えばキャッシュカード。暗証番号は、いまだに数字4ケタです。4ケタのパスワードなんて、安全性の面では最悪なのに、なぜまだ命脈を保っているのか? キャッシュカードには“二要素認証”が備わっているからです」

 キャッシュカードでお金を下ろすには、暗証番号とともに、カードという2つの要素が欠かせない。そうすることで漏洩を防ぎ、セキュリティーを高めているのだ。

「IT化というと、アナログがデジタルの敵のように思う人もいますが、そうではありません。医療現場で使用されているFAXのように、アナログがデジタルを補完するケースもあれば、カセットのようにアナログだけが持つ魅力もある。今後も共存し続けていくのではないでしょうか」

<取材・文/千羽ひとみ>