この記事をまとめると

ホンダからミドルサイズSUV「ZR-V」が登場

ホンダ車にはあまりみられないデザインとのことで発表当時から話題になっていた

■この造形になったのは日本市場のみではなく、世界市場をターゲットにしたことが大きい

ホンダらしからぬこのデザインの意図とは

 今年7月から先行公開されたホンダ「ZR-V」のデザインが話題です。「Honda e」や「フィット」「ステップワゴン」など、最近のホンダ車とはかなり異なるスタイリングに「なぜこのデザイン?」と疑問の声が上がっているのです。その理由はどこにあるのでしょうか? さっそく検証したいと思います。

グローバル戦略車として必要な要素を加える

 ホンダには、現在「ヴェゼル」と「CR-V」の2台のSUVが用意されていますが、ZR-Vはその間を埋めるモデルとして発表されました。一方、同車はすでに北米と中国で新型「HR-V」として公開済みのグローバルモデルで、インドネシアなど東南アジア市場では「BR-V」の上級モデルに当たります。

 つまり、世界戦略車として各国市場のさまざまなニーズに合わせたスタイリングが求められるワケで、それを端的に示しているのがZR-Vのグランドコンセプト「異彩解放」です。新車のコンセプトで「異彩」とはかなり珍しいのですが、それだけ個性を重視したということでしょう。

 北米や中国市場を考えたとき、ある種のクセや一定以上の大きさを表現するボリューム感、あるいは他車に負けない押し出し感も必要です。では、こうした背景を持つZR-Vのデザインがなぜ疑問を持たれているのか、具体的に見てみましょう。

世界市場を見越したオールランダーだからこそのデザイン

大きく押し出し感があり、少しのクセを持たせる

 ZR-Vの造形テーマは「強い塊感」で、シンプルな一つの球体のように、どこから見てもテンションを感じるスタイルを目指したとされます。その視点で見ると、サイド面だけでなく、前後を含めたボディ全体にグラマラスな造形を感じます。ただし、このボリューム感は「締まりがないボディ」と思わせる危険性があります。

 フロントは、突き出した「おちょぼ口」のグリルと奥まったランプの配置が特徴的で、さらにグリル内のタテ桟は動物が牙を剥き出したよう。ここはまさに異彩=個性の見せ所なのですが、多くのユーザーにとっては少々強すぎる「クセ」なのかもしれません。

 サイド面は、ショルダーの豊かな張りがまさに「テンション」を感じさせ、大きさと同時におおらかさも滲み出ています。ただ、横長のランプを大きく回り込ませたリヤビューも含め、少々キレがなくボンヤリ見えてしまうかもしれません。

シンプルな表現を基本としつつ、市場の要求を盛り込む

 こうして多くのユーザーが「なぜこのデザイン?」と感じているわけですが、では、ZR-Vのスタイリングが「いまのホンダデザインから外れているのか?」と問われれば、じつはそうとも言い切れないのです。

 たしかに最近のホンダはシンプル路線なのですが、どれもがHonda eやステップワゴンのような方向なのではなく、シンプルさを基本としながらも、じつは各市場向けに独自のテイストを与えているのが特徴なのです。

 そのいい例が新しい「シビック」でしょう。先代のガンダム風なゴテゴテ感は払拭されましたが、それでも日本市場から見れば若干ドヨンとした緩さを感じさせます。しかし、それは基本のシンプルさと北米市場のニーズをミックスさせた意図的なデザインなのです。

 そうした視点でもう一度ZR-Vを見ると、球体をイメージしたボディのシンプルさや、個性を与えたフロントの見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。いえ、もちろんここから先にはユーザーの好き嫌いが残されているのは言うまでもありませんが。