「ベースボール型」授業の様子【写真提供:(C)2022NPB】

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NPBは12球団と協力、「ベースボール型」の教員向け教本を作成

 野球人口の減少に歯止めをかけるため、野球界では近年、様々な取り組みを行っている。その中でも、一般社団法人日本野球機構(NPB)の活動は多岐に渡っている。2014年10月に立ち上げた「野球振興室」が中心となり、小学校の学習指導要領で必修化されている「ベースボール型」授業の教材作成や、研修を開催している。

 巨人など球団によってはベースボール型種目の普及・振興を支援するため、派遣されたアカデミーコーチが技術習得のコツやゲームの進め方などを紹介している。教師に野球の楽しさを知ってもらい体育の授業をより充実したものにしてもらうこと、子どもたちにボール遊びの楽しさや野球の魅力を伝える手段になると考えている。NPBの存在意義はプロ野球の興行だけではない。

 野球やソフトボールを体育の教材にする「ベースボール型」授業は、2011年から小学校で再び必修となった。野球は投げる、打つ、捕る、走ると動きのバリエーションが多い。小学生世代に取り入れることで、運動能力を高める効果が期待されている。授業はゲーム形式で進められるため、ルールを覚えながらチームで作戦を話し合う場がある。学校や社会生活で必要な「考える力」や「協調性」を養う目的もある。

 野球未経験者がグラブやバットを扱う難しさを考慮し、「ベースボール型」授業では素手で柔らかいボールを使ってプレーしたり、打撃ではティースタンドを用いたりする。野球人口の減少で明らかなように、大半の子どもが野球に触れたことがない。小学校教師の約6割は女性で、基本的なルールを把握していない人も珍しくないという。そこで、NPBは授業を進めるヒントにしてもらおうと、プロ野球12球団と協力して教員向けの教本「みんなが輝くやさしいベースボール型授業」を作り、全国2万1000校の小学校に配布した。

 教本では投げ方、捕り方、打ち方の基礎や、野球を通じて育まれる能力などが示されている。例えば、捕球ではいきなりキャッチボールをするのではなく、素手で転がしたボールを捕ったり、自分で真上に投げたボールを捕ったりする練習から段階を踏んで上達できるようになっている。

教師向けの研修も実施、元プロ選手が参加することも

 競技特性である「間」を生かせば、子どもたちの考える力や社会性が養われる。攻守交代のイニング間などの時間を有意義に使うことができれば、教育にも生かされる。プロ野球選手や教育に関わる大学教授ら専門家の意見を取り入れ、野球未経験の教師でも指導方法や授業に取り入れる必要性を感じられる内容にこだわった。

 NPB野球振興室の平田稔室長は「野球には間があるので、課題を話し合って次に生かすことができます。野球をやっていない子でも気付いたことを発言する機会があり、先生からは『ホームルームでも子どもたちの発言が多くなった』と聞いています。教育の現場でも役立ったと聞くと非常にうれしく感じています」と語る。

 教材配布の他に、教師向けの研修も実施している。大規模な研修会では、野球教室などで講師をしている元プロ野球選手と子どもたちを招き、実際に指導する様子を見て、学ぶ機会を設けている。中でも、大事にしているのは「参加した教師に楽しんでもらうこと」。元プロ野球選手が教師の質問に答えたり、直接指導したりするだけではなく、一緒に試合をする。今では12球団がアカデミーコーチや球団職員らを派遣して、協力してベースボール型種目の普及・振興に取り組んでいる。平田室長は、研修会の目的を次のように説明する。

「未経験の先生は素直なので上達が早いです。試合をすると、子どもたち以上に楽しんでいます。先生方が研修を楽しんで、授業につなげてもらえるよう心掛けています」

ベースボール型授業は77年から21年間姿を消し、10年まで選択式だった

「ベースボール型」授業の目的は、高度な技術の習得ではない。ボールを投げる、捕る、打つ楽しさを知り、試合で仲間と協力して課題を解決する喜びを感じるところにある。そのためには、子どもに直接指導する教師が「ベースボール型」授業の特長を知ることが一番。研修会に参加した野球経験のない女性教師の中には「遠いところにあった野球を身近に感じ、楽しくなった」、「教え方のポイントをつかめた」と不安が和らいだ人もいる。野球部の指導経験がある男性教師からは「部活とは違って、易しく教える方法を知ることができた」という声も上がっているという。

 野球未経験の教師が増えている背景には“空白の34年間”の影響がある。ベースボール型授業は1977年から21年間、姿を消した。1998年から2010年までは選択式だったが、選ばれるケースが少なかった。平田室長は「ベースボール型授業をやっていない世代が今、小学生の親になっている年代です。先生方の話を聞くと、やったことがないので教え方が分からないという声が多く出ました」と語る。

 平田室長自身も学生時代から野球で育ち、野球に関わる仕事をしているため、人口の減少や野球をする環境が変わってきていることについて「元々、危機感を持っています」と語る。だからこそ、野球の良さを伝えたいという一心で、活動を行っている。

「ベースボール型」授業が小学校からなくなった期間、サッカー、バスケット、バレーなどは必修のままだった。観戦する機会はあっても、体験する場がなかった野球やソフトボールは、子どもや教師にとって、身近ではなくなった。競技人口の減少は、体育の授業の変化と無縁ではないだろう。平田室長は「将来的に野球をやる、やらないかにかかわらず、経験してもらうことが私たちにとっては貴重な機会です」と話す。

 再び必修科目になってから約10年が経過した。定着し、次の10年は成果を把握する時間に充てられる。失われた34年間を取り戻すため、野球の魅力をこれからも伝えていく。(間淳 / Jun Aida)