「ブラック校則」という言葉を聞いたことがありますか? まわりから見ると明らかにおかしい、無意味と思われる校則を指す言葉なんですが、どんなものがあるのか、そしてその問題点や今後の動きについて、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良教授に、SBSラジオ『IPPO』パーソナリティの原口大輝アナウンサーが聞きました。

内田:下着の色を指定したり、髪型のツーブロックや制服の腕まくりを禁止するなど、かなり理不尽なことを要求する校則が「ブラック校則」と呼ばれています。

原口:「ブラック校則」という言葉自体は、いつ頃から使われるようになったのでしょうか。

内田:ここ数年でよく聞くようになりました。そのきっかけと言われているのが、2017年に大阪府立高校の女子生徒が、生まれつきの茶色の髪を黒くするよう学校から強制されたとして起こした訴訟です。

この訴訟をきっかけに、校則のあり方が徐々に問われるようになりました。特にこの2年くらいは、全国各地の学校で校則の見直しが始まっているように感じます。

原口:元々おかしいと思っていた人はいたけれど、声をあげる人が少なかったということですよね。

内田:それまで校則というのは理不尽だろうとなんだろうと、言われたら従うしかないものだったと思います。ですからあまり疑問を持つこともなかったんです。でも、よく考えてみたら、頭の上から足の先まで事細かに決められているのはおかしいよねと、いま、声があがりつつあります。

厳しくされればされるほど、反発したくもなる?
校則はなぜ、存在するのか?

原口:そもそも校則はなぜ作られたのでしょうか。

内田:校則の起源まではわかりませんが、特に校則が厳しくなった時代がありました。80年代あたり、学校が本当に荒れていた時代です。当時は刑務所のように厳しい規則を作ることで、子どもたちを落ち着かせようとしていました。

原口:80年代は取り締まる意味合いがあったのかもしれませんが、時代が変わったいまなお、校則を厳しくする必要はあるのでしょうか。

内田:学校が落ち着いてきても、子どもたちが制服を着崩したり自由な髪形で外を歩いていると、地域住民から「もっとちゃんとしろ」とクレームの電話が学校にかかってくることがあるんです。学校側はそういったクレームへの対策として、より細かい身なりについての校則を作ってきたという面もあります。

でも、それ以上に学校側としては、生徒や学校の秩序を守っているという意識がすごく強いんです。例えば、身なりに関して「黒のヘアゴム」という指定をなくすと、生徒たちも最初は紺など控えめな色を選ぶと思いますが、それが次第に赤や黄色などの派手な色になり、シュシュなどの髪飾りに変わっていく。一つ風穴を開けると、穴がどんどん広がっていき、80年代のような大きな荒れにつながるんじゃないかと、遠い先で荒れる可能性を想像して根こそぎ、抑え込んでいる状況です。

原口:わずかな隙間も許さないように、校則が作られているんですね。

「こんな校則があるなんて知らなかった」生徒からそんな声も上がりそう
静岡県内の校則に対する動きは?

内田:私は校則の問題をずっと追いかけているのですが、静岡県は他都道府県に比べ、先進的なところがあると思っています。

浜松市では、2019年頃に、全国に先駆けてジェンダーレス制服を市全体の取り組みとして進めた経緯があります。ジェンダーレス制服というのは、男子用、女子用と分けて制服を決めるのではなく、性差に関係なく自由に着ましょうというものです。そういった意味では、先を進んでいる自治体が静岡県内にあるのかなと思います。

原口:ジェンダーレス制服は、その後広がってきていますか。

内田:浜松市の事案をきっかけに全国的にかなり広がりました。でも、本当に自由化が進んでいるかというと、内実はもう少し時間が必要かとは思っています。

生徒が校則を変えていく

原口:最近では「生徒が主体となって校則を変えようとしている」という記事も見かけるようになりました。実際のところはどうでしょうか。

内田:いま、全国各地で校則見直しの具体的な取り組みが行われています。ただ、校則は「履いてきていい靴下の色を一色増やす」とか「制服の腕まくりを認める」といったレベルの改定であっても、変えるのに半年から1年という時間がかかっているというのが実情です。こういった小さな自由を獲得するために、子どもたちはものすごく時間をかけて戦っているんです。

原口:それで校則を変えられれば、生徒にとったら「勝ち取った」ことになると思いますが、1年かけてそれだけの進捗というと、見合わないものもあるなと思ってしまいます。生徒が変えていく動きは、今後も広がっていきそうですか。

内田:子どもたちがルールを変えていくのは、とても大事な動きだと思います。私たち大人は、それがもっと、のびのびできるような環境にしていかなくてはいけません。全国でこの動きは広まってきているので、学校の先生だけでなく、地域の方や保護者の方にも応援して欲しいなと思います。

原口:生徒と学校側の問題だけではなく、それを囲む地域住民みなさんの協力も「ブラック校則」を変えるのに必要だということを教えてもらいました。