佐々木朗希の好不調の波が激しいのはなぜか。清水直行は、捕手・松川の配球問題や投球術を覚える必要性を指摘した
ロッテの佐々木朗希は、後半戦最初の登板となった8月3日の楽天戦で5失点、10日のソフトバンク戦は3失点(自責点2)も2戦連続で負け投手になった。19日の楽天戦では打線の援護を受けて白星を挙げたが、3本のホームランを打たれ5失点。しかし26日の楽天戦では一転して、7回無失点の好投を見せた。
後半戦に好不調の波が激しくなっているのはなぜなのか。現役時代は長らくロッテのエースとして活躍し、2018年、2019年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏に、その要因と今後の課題について聞いた。
後半戦は失点が多い試合もあるロッテの佐々木
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――後半戦の序盤で失点が多い試合が続きましたが、主な要因として考えられることは?
清水直行(以下:清水) まず、投球内容以前の話になりますが、昨年登板したのは11試合で、今年はすでに17試合に登板しています。つまり、今は"未体験のゾーン"なんです。プロ野球チームの先発投手としては、まだまだ体力がなく、経験も足りないということ。ただ、このふたつは佐々木だけではなく、若い投手全員に当てはまることですけどね。
あとは、相性の悪い楽天戦の登板が多いですね。ホームランを3本打たれた試合の印象が強いと思いますが、最も内容が悪かったのは、被安打8で三振も5個と少なかった8月3日の試合だと思います。
――対戦を重ねるにつれて、他球団の打者が佐々木投手の球に慣れてきたということもありますか?
清水 当然"慣れ"はあると思います。ただ、打たれる理由を考える時はふたつの視点から見なければいけません。ひとつは先ほどお話ししたように佐々木自身の「体力や経験」の問題で、もうひとつは技術や配球など「投球の組み立て」といった部分です。だから、要因は一概には言えないものなんです。
――では、「投球の組み立て」面から考えられる原因は?
清水 シーズン序盤は、真っ直ぐとフォークが投球の割合のほとんどを占めていました。交流戦で巨人に打たれ、その後のDeNA戦ではスライダーが多くなりましたが、それ以降はまた真っ直ぐとフォークが中心でした。これは佐々木だけの問題ではなく、バッテリーを組んできた松川虎生の配球にも問題があると見ています。
――その問題とは?
清水 佐々木の場合は球数を抑えないといけないので、どんどん3球勝負をしていくことはわかるんですが、それに相手が慣れてきているのがひとつ。あと、右投手が右打者のインサイドを投げる時は、死球も気をつけなければいけないのでちょっと投げづらいんですが、佐々木の場合は右打者への死球がわずか2個。左打者への死球が3個なのであまり変わりません。配球の傾向として、インサイドを真っ直ぐでズバッとつくような三振があまりない印象です。
フォークの空振り三振が圧倒的に多くて、外側や、ちょっと曲がって真ん中に伸びてきたようなボールで三振を奪うケースが多いです。内側にグッときた場合は、「フォークがちょっと抜けたボールかな」という印象です。つまり打者からすると、追い込まれてからどんなボールがくるのか読みやすくなります。
さらに、右打者(53個)と左打者(100個)の奪三振数を比べると、圧倒的に左打者のほうが多い。左打者より右打者のインサイドが投げにくいんでしょう。左打者は投手から見て少し壁があるのでインサイドにも投げやすく、そうして追い込んでから投げるフォークや、アウトコースの真っ直ぐといったボールは効くんですよ。
――右打者の奪三振数がそれほど多くないのは、アウトコースへの配球が多いことが関係しているということでしょうか。
清水 そうですね。アウトコースに偏る傾向があるので、打者がある程度読みやすく、奪三振数も少なくなっているんだと思います。
――8月26日の楽天戦では7回無失点と好投。その試合では佐藤都志也捕手と今季初めてバッテリーを組みました。
清水 松川が右肩痛で佐藤がマスクをかぶることになりましたが、それを抜きにしても、首脳陣は「そろそろ代えなければいけない」と考えていたはずです。後半戦で失点が続き、(対戦が多い)楽天に松川のリードが読まれているんじゃないか、嫌がっていないんじゃないか、となっていたはずですから。
佐藤は佐々木が投げる試合でファーストを守っている時や、ベンチから投球を見る中で「こうじゃないかな、ああじゃないかな」と自分なりに研究をして、いつバッテリーを組んでもいいように準備していたと思います。その楽天戦では、遅いボールを少し多めに使って緩急をつけたりして、真っ直ぐやフォーク一辺倒にならないように気をつけていましたね。カーブを多めに要求していたことが効果的でした。
もともと、佐藤のリードは変化球が多い傾向があります。真っ直ぐでグイグイ押すというよりも、変化球を使いながらかわして、ときどき真っ直ぐという印象です。グシャっと詰まらせたり、「いけるところまで来い」という感じではなく、崩そうとするタイプ。今後も同じ感じで抑えられるとは思いませんが、そういうリードが26日の楽天戦ではハマったのかなという気がします。キャッチャーが代わったことで、楽天側もちょっと考えたり迷ったりした部分もあったんだと思います。
――3本のホームランを打たれた19日の試合と、好投した26日の試合で、佐々木投手に変化は?
清水 ボールの質は、そんなに変わっていなかったと思います。(26日の試合は)ヒットは3本しか打たれていませんでしたが、いい当たりもありましたし、数字ほど完ぺきに抑えた感じではなかった。なんとか7回を91球でまとめたという印象でした。
とはいえ、「前の試合と比べれば少し持ち直したかな」と安心しました。19日の試合はチームが打ち勝ってくれて、次は自分でしっかり投げて勝ちをつけるという、少しずついい流れになってきていると思います。
――右手のマメをつぶして途中降板しながらも、4回10奪三振の快投を見せた7月1日の試合や、7回無失点に抑えた8月26日の試合はZOZOマリンスタジアム。ともに5失点を喫した8月3日と19日の試合は楽天生命パーク宮城でした。球場との相性に関してはいかがですか?
清水 確かに、マリンでの防御率(0.65)と被打率(.124)はとてつもなくいいですし、マリンのマウンドが投げやすいんでしょうね。ドーム球場では、東京ドームでの投球はさておき(巨人戦で5失点。防御率7.20)、京セラドーム大阪(防御率2.25)とPayPayドーム(防御率1.50)は悪い数字ではありません。
ちなみに、マリンと同じ屋外球場の楽天生命パークでも防御率は悪い(防御率6.75)ので、屋外球場とドーム球場という点は関係なさそうですね。佐々木の場合は、「マリンかそれ以外か」という感じです。
マリンでの試合はロッテが後攻で、「よ〜いドン!」でマウンドに上がることができるので、それが投げやすいのかもしれません。自分の現役時代もそうでしたが、ホーム球場だと決まった時間にマウンドに上がるので、時計を見ながら準備ができますから、合わせやすいんでしょう。
――今後、中長期の視点で考えた時の佐々木投手の課題は?
清水 佐々木に対しては「伸びしろしかない。もっと成長できる」といった声もあったりしますが、「じゃあ、投手の成長って何なの?」と思うんです。先発投手がローテーションで1年間投げていくうえでは、貯金ができることや、故障なくローテーションを守ることが大事になります。
先発投手である彼に望むことは、24連勝した時の田中将大のような、1年間フルに活躍してチームに多くの貯金をもたらすこと。そう考えると、ある程度"ピッチング"を覚える必要があります。
――その「ピッチング」とは、対策をしてくる相手チームを上回るために必要な投球、ということでしょうか。
清水 そうですね。見る側が佐々木の魅力だけに取り憑かれてしまうと、真っすぐだけをバンバン投げて打ち込まれても、「佐々木の魅力は真っ直ぐだから」とフォローしかしなくなってしまう。佐々木本人は意識していると思いますが、打者を抑えていくためのテクニックを、打たれる中で覚えていかなければいけない。シーズン、ポストシーズンまでフルで投げたら25〜26試合くらいになるので、その中で成長するためには遅い球も投げていくべきですし、配球も考えていかなければいけないと思います。
――開幕前に清水さんに話をお聞きした際、今年の佐々木投手の注目すべき点について、「シーズンを通じてどういうふうに投げていくかに注目したい」と言われていました。
清水 今はいろいろな壁に当たっていると思いますが、自分で感じて、考えて、覚えていってほしいです。ここまで100イニング(109.1回)ぐらい投げて、最終的には150イニングくらい投げるのかなと思いますが、打たれた要因や体力的な問題、相手が自分に対してどういう対策を練ってきているのか、といったことにしっかりと向き合ってほしい。
単純に、カーブやスライダーの割合を増やすといったことではなく、「打者にこう対応されているのであれば、こういうボールも必要だな」とか、「試合の前半に飛ばしすぎるときついから、ペース配分を考えよう」といったように、体験から得られた課題の改善を繰り返すことが大切です。そうして、ピッチングスタイルを確立していってもらいたいですね。