掲載:THE FIRST TIMES

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■和楽器バンドと縁深い“8”の年にボカロカバーを
詩吟の師範でもある、ボーカル・鈴華ゆう子の「伝統芸能をよりポップに世界に伝えたい」という思いから、尺八・神永大輔、箏・いぶくろ聖志、津軽三味線・蜷川べに、和太鼓・黒流の和楽器陣とギター&ボーカル・町屋、ベース・亜沙、ドラム・山葵の洋楽器陣が集まった、ハイブリッドなロックエンターテインメントを構築する、和楽器バンド。

【和楽器バンド / フォニイ Cover (Official Music Video)を元記事で視聴】

2014年4月23日、ボーカロイド楽曲のカバーで構成されたアルバム『ボカロ三昧』でのメジャーデビュー以降、数多くのオリジナル楽曲を発表し、日本の伝統芸能を重んじた音楽スタイルに国内外から高い評価を受けている。

そんな彼らが、デビュー満8周年のメモリアルイヤーに完成させた作品は、新旧ボカロ楽曲をカバーした、デビュー盤の続編とも呼べる『ボカロ三昧2』だった。

「私たちがデビューした頃、日本の新しい文化として『ニコニコ動画』を中心に公開されたボカロ楽曲が注目されていて、声をかけたメンバーも、元々“演奏してみた”の奏者として知られていたこともあり、ボーカロイドが歌う曲を人間が、しかも和楽器を入れてカバーしてみるのは面白いのでは? とアルバム『ボカロ三昧』を制作したんです。

私たちのデビュー作『ボカロ三昧』をきっかけに様々な方々に知ってもらえることになったので、またいつかやりたいなという気持ちはあったのですが、せっかくなら皆さんに喜んでもらえる良い機会があれば…とメンバーそれぞれが思っていました。

そして、和楽器バンドは8人組のバンドで、2022年がデビュー8周年。ファンクラブの名前も『真・八重流』と“8”に縁深く、末広がりで縁起の良い数字でもあるので、8年経て進化した我々で、再びボカロ曲のカバーをやってみようと。そこで新旧織り交ぜたボカロ曲を収録した『ボカロ三昧2』を作りました」(鈴華ゆう子)

■高音・高速・跳躍、進化するボカロシーン

8年の時を経て、より強靭なバンドサウンドを身につけた和楽器バンド。また、同じように進化、変化を続けるボカロシーン。『ボカロ三昧2』を選曲するうえでこの時の流れは彼らにどう映ったのだろうか?

「むちゃくちゃ進化していますね。楽曲を聴いて感じますし、ボカロPさんとお話する機会もありますが、皆さん“シーンをアップデートしていくこと”をつねに考えていらっしゃるなと感じます。それが面白みでもあるんですが。あと探究心もあるので“より新しいものを作っていこう”という気持ちも強く、より難解になっているのかなと。

あと、リスナーの聴き方も大きく変化してますよね。近年だと、2分~2分40秒くらいの短い曲に無駄を削ぎ落とした必要な情報だけを入れていくというスタイルが、作り手もリスナーも当たり前になっていたり。流行りのサイクルも早くて2~3ヵ月後には古い曲のように思われたり。

今作の選曲はここ2~3年のボカロ曲を端から聴き、再生数などの数字も調べつつ、和楽器バンドとの相性の良さを考えながらリストアップしていきました」(町屋)

「最近の曲は“高音・高速・跳躍”がすごくて、今作の選曲は歌えるか否かも考えずに選んだので…前作と比べた時、歌も圧倒的に難しかったです」(鈴華ゆう子)

■楽曲への愛情と理解度を持って取り組んだアレンジ

先行配信された「フォニイ」や「エゴロック」を始め、ボカロファンにはお馴染みの人気曲がずらりと並んだ今作。

DTMで制作された楽曲を和楽器を擁するバンドのサウンドへとアレンジするには、並大抵ではない気遣いと苦労があるようで…。

「いちばん大事なのは、楽曲への愛情と理解度。それがないと、どのポイントがリスナーに喜ばれているかわからないのでアレンジが定まらない。今作ですごく気を遣ったのは、原曲のファンと作家さん、そして和楽器バンドのファンと、誰が聴いても良いと思えるものにするということなので。

そのためにも、それぞれの視点で楽曲をリスペクトを持って聴きながら、良いところをたくさんピックアップしていきました。

すごく小さく鳴っているシンセの音も細かく拾っていかないと、原曲に届いたり、原曲を超えたりというのが難しかったりするんですよ。

そもそも、DTM内で完結していることを8人で生演奏で収録する…という変わったことをやっているので(笑)。一曲一曲に愛情を持って、理解度を深めてアレンジして、我々流にアウトプットするということに気を遣います」(町屋)

「最新のボカロ曲は速くて音数も多くなっていますが、8年前と比べて最新曲のレコーディングはすごくやりやすくて。

これはアルバムを何枚も出して、レコーディングのやり方にも慣れて洗練され、きっとバンドが進化しているからこそなんだろうなと。これが僕たちの8年間の成果なんだろうと思えたのが印象に残っています」(黒流)

「僕は箏奏者なので、言ってしまえば“入らなくても成立してしまう楽器”でもあるんですが。アレンジによって、あたかも初めから箏のフレーズが入っていたかのように聴かせるのが、僕の立ち位置からのアプローチです。

箏の音色をいかに自然と耳に馴染むように入れるかというところで、原曲よりも音の幅を豊かにさせたり、和楽器バンド色にできたことが成果だと思っています」(いぶくろ聖志)

■ボーカロイドそのものと向き合って歌う

「前作と比べた時、圧倒的に難しかった」という歌について。鈴華に歌唱面での苦労を聞くと、前作とは異なる大変さとそこで得たものについて語ってくれた。

「『ボカロ三昧』はデビューアルバムだったこともあり、和楽器バンドを知ってもらおうという気持ちが強く、詩吟の節調みたいな技術も入れて歌っているのですが、今回は個性を出そうというよりも“この曲をより活かすには、どうしたら良いか?”を考えて、ボーカロイドそのものとしっかり向き合いました。

楽曲それぞれのキャラクターになりきって歌ったので、アルバム一枚通して聴いた時、同じボーカリストに聴こえない曲もあるかもしれませんが、自分のいろんな面を見せるチャンスにもなったとも思うので、和楽器バンドのいろんな面を知ってもらうのにすごく良い機会になったと思います」(鈴華ゆう子)

鈴華が、歌でいちばん苦労した曲について聞くと、近年のボカロ曲の特徴や傾向も見えてきた。

「いちばん苦労した曲は『Surges』です。淡々とした曲に聴こえますが、歌ってみると、とにかく速いし、旋律も規則性なく跳躍して。ブレスポイントもほぼないに等しい曲なので、本当に難しかったです。

それ以外の曲は、私が普段歌ってるキーより、+5とか+6とか高かったのですが、これを機に自分の声域を開拓することもできました。歌えば歌うほど上手くなっていくのがわかったので、大変でしたが歌っててすごく楽しかったです」(鈴華ゆう子)

■人間の生演奏に起こりうる魅力や力は“偶発性”にある

苦労と喜びの末に完成した最新アルバム『ボカロ三昧2』の楽曲たちを携えて、和楽器バンドは全国ツアー『和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会』を8月27日よりスタートさせる。

「僕は人間の生演奏に起こりうる魅力や力って“偶発性”にあると思うんです。同じフレーズのループもちょっとしたことで音が変わったり、その計算できない偶発性こそが人類に残された最後の砦みたいなことだと思ってて。

その場の空気や気温、湿度、プレイヤーや楽器のコンディションひとつで、音色が変わるところに面白さがある思うんです。人間が演奏するこのアルバムでは、そんなところも楽しんで聴いてほしいし、ツアーで生の演奏の偶発性を楽しんでほしいですね」(町屋)

「ツアーでは、アルバムの収録曲を全部演奏する予定なので…それこそ偶発性とか、生のライブだからこその醍醐味がそこにあると思います。我々は目で見て楽しむライブに自信があるので、今回の全国ツアーでしか観られないものを、ぜひ観に来てほしいです」(鈴華ゆう子)

INTERVIEW & TEXT BY フジジュン

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【リリース情報】

2022.08.17 ON SALE
ALBUM『ボカロ三昧2』

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【プロフィール】

■和楽器バンド
わがっきばんど/鈴華ゆう子(Vo)、いぶくろ聖志(箏)、神永大輔(尺八)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(Gu、Vo)、亜沙(Ba)、山葵(Dr)からなる、詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた新感覚ロックエンターテインメントバンド。2014年4月にアルバム『ボカロ三昧』でデビュー。2022年8月27日より『和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会』を開催。