ウニオン・ベルリンでプレーする原口元気【写真:Getty Images】

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【ドイツ発コラム】猛暑のマインツ戦では圧巻の運動量で存在感

 1.FSVマインツ05のホーム、『MEWAアレーナ』で、ウニオン・ベルリンの原口元気が戦っていた。

 8月14日のドイツは、熱波の襲来で最高気温が34度までに達した。これまでにない猛暑のなか、ドイツ・ブンデスリーガは午後3時半にキックオフ時間が設定されることが多い。そのため選手たちは、太陽の照り返しで暑さが増幅される灼熱のピッチで消耗戦を強いられることになる。

「マジで暑かった! 夏の昼にこんな試合をやったらダメでしょう(笑)。日本も暑かったけど、Jリーグでは夏の試合は夜だったでしょ? 最近のドイツの夏は日本と同じくらい暑いんだから、もうホントにつらかった(笑)」

 試合後の原口はそう言ってため息をついたが、それでもピッチ場では一切、手を抜かなかった。

 ライン際での球際勝負で相手と真正面からぶつかり合い、両者ともにもんどり打ってライン外へ弾き飛ばされても、何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、返す刀でスローインから展開されてボールが渡った相手へ強烈なチャージをかました。

「いやー、面白いよ、こういう試合は。個人的にはタフなゲームが好きだから。マインツはそういうチームだったしね」

 この日の原口はマインツの韓国代表MFイ・ジェソンを監視するタスクが与えられていた。

「そう。主に相手の7番(イ・ジェソン)を見ていた感じかな。彼もいい選手で、キーポイントになってボールを受ける役割をしていたので、彼を外さないようにというのはありましたね」

 原口がウニオン・ベルリンのウルス・フィッシャー監督から与えられているポジションはインサイドハーフで、ドイツでは「アハター(背番号8の意)」と呼称され、攻守両面への積極的な関与を求められる。

 10代で日本のJリーグ・浦和レッズでプロデビューし、2014年夏にドイツへ渡った原口は主に左ウイングのポジションで持ち味を発揮する選手だった。類まれなスピードと切れ味鋭いドリブルを武器に、サイドエリアからゴール前へ侵入して放つカットインシュートを最も好んだ彼はしかし、ハノーファー96に在籍していた2020-21シーズン時を境にインサイドハーフへとコンバートされ、このシーズンで9ゴール7アシストをマークしたことでブンデスリーガ1部のウニオンの目に止まり、2021年夏に完全移籍を果たした。

「戦える」姿勢を示してウニオン・ベルリンでのスタイルに意義を見出す

 ウニオンのフィッシャー監督が求めるのは球際での強さだ。それは原口だけに限らず、GK、DF、MF、FWの全ポジションでレギュラーを張る際の必須条件でもある。原口は、その監督の要求に十全に応え、移籍初年度から右インサイドハーフに抜擢され、昨季クラブ史上最高位となるブンデスリーガ5位、そしてクラブ初のUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得に寄与した。

 ただ、今季のウニオンにはさらに成績を向上させるための課題がいくつかある。特に昨季のリーガで31試合15ゴールをマークしてチーム最多スコアラーとなったFWタイウォ・アウォニイがノッティンガム・フォレスト(イングランド)へ移籍してしまった影響は大きく、今節のマインツ戦でもなかなか最前線でボールが収まらず、分厚い攻撃を仕掛けられなかった。

「上手くいっている時は前線のFW2人でボールを収めて、それに僕も絡んで4、5人で攻めるやり方ができていたけど、今回はそれが少し難しかった。ただ、それでも個人的には球際で強く行けたし、たまに空中戦で負けたとしても、地上戦ではほぼ勝っていたので、良かったとは思う」

 今の原口は明確にファイターだ。以前と比べてボール保持する時間が減った一方で、オフ・ザ・ボール時の攻守への関与はその頻度が格段に増した。それは、日本代表でのプレーにも表れている。相手に利用されそうなスペースを瞬時に埋め、ボール奪取したらシンプルに味方へ受け渡す。そして彼はまた、次なるスペースカバーへと奔走してディフェンスブロックを築きつつ、多彩な攻撃を発動する担い手ともなる。

 31歳になった原口は今の自身のプレースタイルに意義を見出している。

「ウニオンでプレーしている充実感はありますよ。このチームが成績を残せている理由も分かっている。上手い、下手以前に、このチームには戦える選手がたくさんいるから。僕もその一員としてプレーできていることを誇りに思っている」

ボールを狩り、味方に預ける以上のタスクとは?

 一方で、原口自身は新たな「インサイドハーフ像」を見出したいとも思っている。ボールを狩り、味方にそれを預けるだけのタスクで満足していては、「原口元気」というプロサッカープレーヤーの本質を見失ってしまうからだ。

「(フィッシャー)監督からも、『8番(アハター)には特に攻撃に絡んでほしい』と言われている。昨季は最低ラインのスコアポイント(得点+アシストの数字)8だったから、今季はスコアポイント10は記録したい。ただ、そのためには後方でディフェンスに参加して、攻撃に移ったら長い距離をスプリントして相手ゴールへ入っていかなきゃならない。もう、そこが本当に生命線になってきて、正直しんどいけど、ウニオンでのプレー、そして今回のワールドカップのことを考えても、それが今の自分に求められるタスクだなって思う」

 今冬のカタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表がグループリーグ初戦で対戦するドイツ代表には当然多くのブンデスリーガーがいる。

「もちろん、(自分が)ブンデスリーガで試合をしているのは1つのアドバンテージだと思う。ただね、その中で自分ももう一段階ステップアップしなきゃとも思う。自分の特性を考えても、ただ球際で勝ってボールをいっぱい集めて、前につなぎましたというのでは満足できないところに来ている。単なるインサイドハーフにはなりたくない。そういうプレッシャーを楽しみながら、今後もプレーし続けたいですね」

 マインツとウニオンのゲームは、スコアレスドローに終わった。それでもホーム、アウェー双方のチームが見せた熱い肉弾戦はスタンドの観衆へも確実に伝播し、試合が終了してしばらくしても、その“熱波”は周囲に充満し続けていた。

 2022-23シーズンはW杯シーズン。しかし、その根底には、連綿と続く国内リーグで戦う選手と、ファン・サポーターたちの情熱が横たわっている。そして原口は、その熱狂の中に身を置ける自らの境遇に希少性を感じている。

「サッカーを楽しむ」

 それが変身を果たした、ニューバージョンの“原口元気”である。(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)