バスが「スマホで呼べる」!? 実証では平均8分強で到着の例も! 地域を支える公共交通が大きく変わる「AIオンデマンド交通」とは

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地域を支える公共交通「路線バス」や「タクシー」の事業維持に赤信号

 さまざまな交通移動手段をひとつのモビリティサービスとして提供する仕組み「MaaS(マース:Mobility as a Service)」が注目されています。そのなかでも、AIを活用した効率的な配車により、利用者予約に対しリアルタイムに最適配車を行う「究極の交通システム」といわれているのが「AIオンデマンド交通」です。
 
 AIオンデマンド交通の実際について、MaaSの国内外事情について精力的に取材を進めるモータージャーナリストの桃田 健史氏が、長野県での実証例など交えレポートします。

長野県塩尻市で実用化されるAIオンデマンド交通「のるーと塩尻」運行の様子[撮影:桃田健史]

 究極の交通システムは、AIオンデマンド交通なのでしょうか?

【画像】「のるる」「のるーと」に「のらざあ」!? 究極のバス「AIオンデマンド交通」を写真で見る(30枚)

 全国各地で、その実態について聞いてみました。

 オンデマンド交通とは、「デマント(要求)」に応じた公共的な交通システムのことです。

 デマンド交通とも呼ばれることがありますが、最新バージョンではAI(人工知能)を活用したバーチャル停留所方式のオンデマンド交通もすでに実用化されています。

 オンデマンド交通の実態は、どうなっているのでしょうか?

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 まずは、交通サービスの全体を見ていきましょう。

 一般的に、交通サービスといえば、バス、鉄道、タクシー、航空機など、利用者が乗客となる公共的なサービスが思い浮かぶでしょう。

 また、利用者自身が運転する交通サービスとしては、レンタカー、カーシェアリング、自転車シェアリング、そして最近では電動キックボードのシェアリングも登場しています。

 その中で、オンデマンド交通は、利用者が乗客となる公共的なサービスが対象となります。

 現時点で最も広く普及しているオンデマンド交通は、タクシーです。電話やアプリでタクシー予約をすることはもちろんのこと、街中で手を挙げてタクシーを停めるという行為も、予約なしで行うデマンドの一種だといえます。

 一方で、公共的な交通サービスとして全国各地で広く普及しているバスの場合、時刻表で定めた時間に、決まったルートを走る「定時・定路線」が基本となります。

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 身近な交通サービスである路線バスやタクシーは近年、需要(デマンド)と供給(サプライ)のバランスが大きく崩れてしまい、事業を継続することは難しくなるケースが全国各地で増えてきました。

 大都市やその周辺では、一定規模の人の動きがあり、また平日の自家用車での移動が少ないため、公共的な交通が維持できています。

 対する地方都市や山間地域では、平日でも自家用車利用が多いこともあり、駅や旧市街地を中心としたコースをとる路線バスの乗車率が大きく下がっているケースが目立ちます。

 また、路線バスやタクシーの運転手の高齢化や、新たなる成り手の不足も社会問題になっている状況です。

路線バスや地域のコミュニティバスに代わる「究極の交通システム」はAI化がカギ

 こうしたなか、地方自治体は、路線バス事業者に対して補助金を出すなどして、路線バスの維持を進めてきました。

 そうなると、誰も乗っていない状態の「空(から)バス」も珍しくありませんが、「住民からは(無駄だから)廃止したり減便するようにとの意見が出ることは滅多にない」と指摘する声を、筆者(桃田健史)は全国各地の地方自治体の関係者から直接聞いています。

 普段は路線バスを使わなくても、何かの場合に「もしかすると使うこともあるかもしれない」という生活の中での保険のような感覚で、公共的な交通サービスを捉えている住民が少なくないということです。

長野県塩尻市の地域振興バス(コミュニティバス)「すてっぷくん」はマイクロバスや小型バスで運行されていた[撮影:桃田健史]

 また、路線バスだけではなく、住宅地の中にも停留所があるような「コミュニティバス」(おもに行政が主体となり、小型バスで運行し主要路線バスの区間を補うバス路線)についても、全国的に見ると利用者数が減っているケースが目立つようになってきました。

 コミュニティバスは、市町村など地方自治体が地域のバスやタクシー事業者に委託して運行しています。

 こうした、路線バスへの補助金や、コミュニティバスの運行費用として、市町村の財政規模によって多少の差がありますが、概ね年間5000万円〜1億円が支出されています。

 今後、多くの地方自治体は少子高齢化の影響などで財政状況が厳しくなることが予想されている中で、路線バスやコミュニティバスの効率的な運行が行えるような施策を考えていかけなればなりません。

 そこで近年、注目が集まっているのが、AIを活用したオンデマンド交通です。

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 これまでも、乗り合いタクシーなど、電話受付によるオンデマンド交通を実用化するケースは全国各地で行われてきました。

 それは、利用者数が少ない、または利用機会を限定すればなんとか運行できますが、利用者数が一定数以上になると、移動の途中で何人乗って、降りる場所の順番をどう選ぶなど、運行事業者がその場で判断することは難しくなります。

 こうした課題に対し、配車システムの専用ソフトウエアを活用して、効率的な配車と運行を行おうというのです。ただし専用のソフトウエアには、開発コストや運用コストに応じて様々な種類が存在しているのが実情です。

 実例として、2022年8月上旬に取材した、長野県塩尻市(人口約6万7000人、年間予算約315億円)のケースをご紹介しましょう。

AIによる高効率化でコストを抑え利便性を高めた「AIオンデマンド交通」が地域を支える時代に

 長野県塩尻市では、コミュニティバスの一種である地域振興バス「すてっぷくん」が運行されていますが、乗客数が年間10万人に割り込んでいます。これは、最も多かった13年前の約17万人から約7万人の減少です。

 ところが運行コストについては、13年前の約6600万円から約9900万円と上昇しています。

 こうした実情を鑑みて、塩尻市が2021年7月に公開した地域公共交通計画では、市街地ゾーンと周辺の田園ゾーンとの移動には地域振興バス すてっぷくんを維持しつつ、JR塩尻駅、市役所、大きな商業施設が集積する市街地中心部ではオンデマンド交通「のるーと塩尻」を新たに導入するとしました。

AI活用型オンデマンドバス「のるーと塩尻」[長野県塩尻市の公式YouTubeチャンネル「SHIOJIRICITY」より]

 オンデマンド交通 のるーと塩尻は、アプリまたは電話で配車予約すると、AIが乗合状況や道路状況等に応じて効率的なルートを生成。利用者は、出発地と目的地周辺での乗り降りが可能です。

 すでに実用化が始まっていますが、それに先立ち2021年10月から3月までの5か月間に渡り実証運行を行いました。

 運行時間は平日が午前7時から午後8時、土曜日が午前9時から午後8時、そして祝日が午前9時から夕方6時までで、料金は大人200円、子どもや障がい者が100円、乳幼児は無料となっていました。

 運行エリアは約10km平方メートルの範囲で、その中で乗り降りができる場所が111カ所もあります。

 事実上、バーチャルな停留所ですが、利用者に分かりやすくするため、自立式のサインタワーや既存バス停の併用の他に、路面に小さなシートを貼ったり、塀や柵に小さな表示をするなどして、対応しています。

 車両はハイルーフ式のトヨタ「ハイエースワゴン」など、小回りが効くワゴン車を使います。普通2種免許で運行可能なため、大型バスドライバー不足の課題に対応できるのもポイントです。

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 オンデマンド交通 のるーと塩尻の実証運行の結果ですが、5か月間の総乗客数は8千883人。平均乗車時間は7.2分、アプリ予約からの平均待ち時間は8.4分とかなり短くなっています。

 また高齢者などの対応で、電話予約も実施しましたが、電話予約とアプリ予約の比率は31.5%対68.5%という結果でした。

 アプリ登録者は2369人でしたが、年齢分布をみると、10代(6.9%)、20代(13.0%)、30代(18.7%)、40代(20.3%)、50代(18.5%)、60代(10.6%)、70代(7.3%)、80代(4.2%)、そして90代(0.5%)となり、かなり若い世代での登録が目立ちます。

 実際の利用での年齢分布も、アプリ登録者の年齢分布に近い結果となっています。

 今後について、塩尻市役所では新たに3つの地域で実証運行を段階的に行い、住民に地域振興バスとオンデマンドの利便性を比較してもらいながら、住民主体でどちらを選択するのかを決めていくといいます。

 さらに、塩尻市では中心市街地での自動運転バスについても実証を踏まえて実用化を目指します。

 こうした、AIオンデマンド交通「のるーと」、地域振興バス、自動運転バスを、隣接する自治体と広域連携を視野にした、エビデンスに基づくモビリティのデータプラットフォームの構築を進めていくとしています。

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 このほか、AIオンデマンド交通については、長野県内では茅野市の「のらざあ」(2022年8月22日実用化開始)や、茨城県高萩市の「のるる」(実用化済み)など、全国各地で導入事例が増えてきました。

 あなたの街でも近い将来、AIオンデマンド交通が走り出すかもしれません。