明大サッカー部・栗田大輔監督【写真:編集部】

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明大サッカー部・栗田大輔監督は2019年に5冠達成 60人以上のプロを育成

 指導者は選手の成長に大きな影響を及ぼす。「First-Pitch編集部」がサッカーの有識者への取材から野球界の疑問や課題を考える連載、第2回のテーマは指導者ライセンス制度だ。少年野球では指導者資格制度が最近動き始めたが、サッカー界はあらゆるカテゴリーですでに指導者ライセンスが浸透している。近年の大学サッカー界をけん引する明大サッカー部の栗田大輔監督は、指導者の責任感や向上心を高める効果があるとメリットを語る。

 サッカー界は日本サッカー協会をトップに据えた傘の中に全カテゴリーのチームが入り、小学生もプロもあらゆる選手や指導者、審判らが登録されている。そして、指導者のライセンス制度が確立されている点はサッカーの特徴であり、野球との違いでもある。

 野球界では指導者資格制度の是非が長年議論され、2020年に全日本野球協会(BFJ)が12歳以下の世代の指導者に資格を付与できる仕組みを整えた。子どもたちへの暴言や暴力、ハラスメント根絶を目的にしたものだ。全日本軟式野球連盟(全軟連)は2024年度から、BFJの指導資格または全軟連の公認学童コーチの資格を持つ指導者が最低でも1人チームに在籍するよう義務付ける。

 一方のサッカー界ではすでにライセンス制度が浸透し、指導者は目的に合わせたライセンスを取得している。例えば、Jリーグの指導者はS級取得が条件で、以下A級、B級、C級、D級と続く。中学、高校生のチームにも、S級ライセンスを持っている指導者が多く存在する。

小学生のチームにもライセンス持つ指導者 周囲への波及効果も

 小学生サッカーチームの指導者は大半がボランティアで、いわゆる“パパコーチ”だ。それでも、B級やC級ライセンスを持っている人が少なくないという。小学生の指導者にライセンス所持は義務ではないが、チームを登録する際に、各チームにC級ライセンス取得者が少なくとも1人所属といった条件が設けられる場合もある。

 明大サッカー部の栗田大輔監督は、ライセンス制度の良さを次のように考えている。栗田監督は2019年に大学の主要大会で史上初の5冠にチームを導くなど、2015年に指揮官となってからこれまでに10以上のタイトルを獲得。ドイツのクラブでプレーする室屋成選手ら60人以上をプロへ送り出している。

「ライセンス制度の良さは、サッカーや指導法について勉強する場があること。そして、ライセンスを持った指導者がいると、周りも刺激になり自分も勉強しようというマインドになるのは大きいと思います」

 取得にはサッカーの知識だけでなく、暴力を根絶する指導論や、医学、栄養、社会学といった幅広い内容を学ぶ必要がある。さらに指導講習会などを定期的に受けなければ、ライセンスは剥奪される。

 サッカー界ではライセンスを持つ指導者が、自身の経験と勉強で身に付けた知識を組み合わせて選手を育成している。型にはまった指導者ばかりになると誤解されがちだが、栗田監督は「基本を身に付けた上で、それぞれの指導者の考え方や戦術が表れ、上のカテゴリーにいくほど独自性が求められます。指導者を育成する仕組みが構築されているので、根拠のない自分勝手な知識や判断で子どもたちを教えることは減っていると思います」と語る。

 少年野球でも動き出した指導者の資格制度。子どもたちの未来に影響する大切な改革となる。(間淳 / Jun Aida)