移籍後初ゴールを決めたMF久保建英【写真:Getty Images】

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【スペイン発コラム】ソシエダ久保、これ以上ない最高の形での新天地デビューに注目

 レアル・ソシエダに完全移籍した久保建英が、2022-23シーズンのリーガ・エスパニョーラ開幕戦で決勝点を決め、スペイン4季目をこれ以上ない最高の形でスタートさせた。

 チームへの合流が2週間近く遅れた久保は、今夏のプレシーズン4試合に出場。その間、イマノル・アルグアシル監督にさまざまなポジションでテストされたことは、プレーの幅が広がることを予感させるものとなった。

 初戦のボルシアMG戦は後半頭から出場して4-4-2のトップ下に入り、日本代表でチームメイトのDF板倉滉と対戦した。続くオサスナ戦はスタメン入りし、4-3-3の右ウイングと右インサイドハーフでプレー。ボーンマス戦は後半途中からの出場で4-3-3のインサイドハーフで起用され、アスレティック・ビルバオ戦では4-3-3の右ウイングで先発出場した。

 得点、アシストともになかったが、わずかな練習時間だったにもかかわらず、すぐさま持ち味を発揮してチームメイトとの素晴らしい連係をたびたび見せ、スペインメディアは好意的に捉えていた。

 このような状態でリーガ開幕のカディス戦を迎えたなか、中盤から前線にかけレベルの高い選手が揃うため、久保のスタメン入りを予想したメディアは少なかった。しかし、いざ試合が始まると大方の予想を裏切り4-4-2の左FWで出場した。

 ソシエダ加入後、4つ目のポジションでプレーすることになった久保は試合後、「練習では全く試していなかった」とサプライズ起用だったことを話しつつ、「FWでプレーしている選手のポジション取りはいつも見ているし、どこででも出られる準備をしているので、あのような結果につながった」と、問題なく対応できる自信があったことを強調した。

 前半はソシエダがゲームをコントロールし、15分過ぎのボール支配率は80%に達した。久保は序盤、いつも通りドリブルでチャンスメイクを図り、時間の経過とともに相手の裏を狙う動きを見せ始める。そして迎えた前半24分、MFミケル・メリーノのパスを呼び込んで相手DFの間に入り込み、巧みなトラップから右足を振り抜き先制点を記録した。

 このプレーに関して久保は、「僕は足元に引いて受けたいほうだが、監督から“皆がそう思っているから逆に裏を狙え”と指示を受けた」と明かし、「監督が、僕が今まで知らなかったような動きを要求してくれたことで生まれたゴール。監督が描いた通りのゴールだった」と、イマノル監督に新たな能力を引き出されたことを認めていた。

 後半はインテンシティーを高めてプレーしたカディスに押し込まれたため、久保も守備に追われる場面が増えていった。しかしソシエダは昨季同様の堅固な守備でチャンスを作らせず、久保のゴールを守り抜き、1-0で貴重なアウェーゲームに勝利した。

中盤の上質なタレントが揃うソシエダ、久保に得点力不足解消が求められる可能性

 昨季の久保は残留を目指して守備に奔走するチームに所属していたため、積極的に相手ペナルティーエリア内に足を踏み入れる機会は少なかった。一方、今季は突如FWで起用されたにもかかわらず、マジョルカでの初年度を彷彿とさせる素晴らしいパフォーマンスを披露し、すぐさま監督の期待に応えたことは見事としか言いようがない。

 スペイン各紙はそんな久保を高評価。なかでも「AS」紙やソシエダの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は最高点を付けていた。しかし久保は完全には満足していない。「外から見るよりもはるかにやりづらかった」と話したように、まだ改善の余地があることを認めていた。また、ボールロスト数がいつもより多く感じたが、それはこれまでよりもゴールに近い位置でプレーしたため致し方ないことだろう。

 中盤にMFマルティン・スビメンディ、メリーノ、MFブライス・メンデス、MFダビド・シルバといった新旧のスペイン代表経験者が揃うため、久保は今後もFWでプレーする場合、今回のように上質なパスを受けることが期待できそうだ。

 また、いきなり高い決定力を示した久保に対し、得点力不足解消の役割が求められるかもしれない。なぜならソシエダは昨季、リーガを6位で終えたにもかかわらず、総得点は20チーム中11番目の40ゴールと少なく、プレシーズンでも同様にゴール欠乏症に陥っていたためである。さらにそれを解決する鍵となる長期離脱中のエース、MFミケル・オヤルサバルの復帰が来年に持ち越される可能性が高くなっている。

 久保が今後もずっとFWで起用されるのかは分からないが、もしこのまま同ポジションで活躍した場合、分析力に優れたリーガのチームがそのまま放っておくわけはないだろう。これまで以上に激しいマークを受けることが予想され、久保は新たな課題に挑むことになると思うが、どのように対処して乗り越えていくのかを見るのが非常に楽しみである。

 初戦で勢いに乗った久保は、21日にホーム開催となる次節で、少年時代に所属したバルセロナと対戦する。久保は古巣の印象について、「今までと違って明らかな格上ではない」と自分たちのチーム力に自信を伺わせ、「同じ土俵かと言われたら分からないが、僕たちの方が順位も上だし、ホームなので可能性も5割以上ある」と勝利への意気込みを語っていた。

 これまではどちらかというと右サイドを起点としたドリブル突破を武器にクロスやスルーパスを狙うなど、チャンスメイクの役割が多かった久保だが、今季はイマノル監督によって引き出された新境地で、さらにステップアップする姿を見ることができそうだ。スペイン4季目を迎え進化を続ける久保に日本中が大きな期待を寄せるワールドカップ開催の新たなシーズンが幕を開けた。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)