ワールド・コンペティションには子どもたちも楽しめる作品も。『A Town Called Panic: The Summer Holidays』(ベルギー・フランス)
 - (写真提供:ひろしまアニメーションシーズン)

写真拡大

 新たな国際アニメーション映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」が8月17日〜21日、広島・JMSアステールプラザ大ホールほかにて開催される。映画祭の花形・国内外の気鋭作家の作品を厳選したコンペティションはもちろん、アニメーションやメディア芸術プログラムを用いた教育プログラムやハラスメント問題を考えるシンポジウムも用意されており、未来を見据えたプログラムとなっている。

 広島といえば、アヌシー、ザグレブ、オタワと並ぶ世界4大アニメーション映画祭と称された広島国際アニメーションフェスティバルで知られたが、主催団体の一つであった広島市の方針により2020年の第18回で終了。そのレガシーを受け継ぎつつ新設されたのが8月1日から開催中の「ひろしま国際平和文化祭」(28日まで)で、そのメディア芸術部門のメイン事業として行われるのが本映画祭だ。

 プロデューサーをアニメーションの研究・評論で知られ、新千歳空港国際アニメーション映画祭の設立に尽力した土居伸彰。アーティスティック・ディレクターを『頭山』(2002)が米アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされ、東京藝術大学大学院などで教壇に立つ山村浩二と東京藝術大学大学院出身で広島・比治山大学短期大学部美術科准教授の宮崎しずか(「崎」は「たつさき」)が務め、世界のアニメーションの潮流を熟知しているメンバーが携わっているのもポイントだ。

 プログラムの柱はコンペティション、アワード、アカデミーの3つ。特に欧米中心のアニメーション業界に、環太平洋・アジア地域で特筆すべき活動を行ってきた個人や団体を称えるアワードは広島にちなんで「ゴールデンカープスター」と名付けられ、広島の新たなシンボルが誕生。今年は、『犬王』が劇場公開中のアニメーション制作会社・サイエンスSARU、アニメーション作家・水尻自子ほかに賞が贈られる。

 またひろしま国際平和文化祭自体が、新しい形の市民参加型イベントを目指していることもあり、本映画祭もその方針に則った事業が多彩。アカデミーでは今春からアニメーション作家や人気声優から特別レクチャーを受けられるプレイベントや、国内外のアーティストを招へいしたアーティスト・イン・レジデンス事業もスタート。会期中にはそれらの報告会や、アニメ業界でも深刻となっている「ハラスメント防止を考える」と題したシンポジウムも全て入場無料で行われ、議論の場を広げている。

 国際映画祭は業界関係者やファンのためのイベントという印象が強く、地元住民との乖離(かいり)がしばしば問題となる。しかしカンヌ国際映画祭やアヌシー国際アニメーション映画祭、さらには地方都市の名を世界に轟かせた山形国際ドキュメンタリー映画祭など歴史ある映画祭は、地元住民に愛されてきたからこそ今の地位を築いてきた。地元密着、広島発に重点を置き新たな舵を切った本映画祭の取り組みに注目したい。(取材・文:中山治美)

ひろしま国際平和文化祭は8月1日〜28日は広島国際会議場ほかにて開催
ひろしまアニメーションシーズン2022は8月17日〜21日、JMSアステールプラザほかにて開催