鹿島FWエヴェラウド【写真:Getty Images】

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【インタビュー】エヴェラウドがC大阪戦で決めた「子供の頃の遊びが自然に出た」一撃

 明治安田生命Jリーグでは各月のリーグ戦において最も優れたゴールを選定。

 J1リーグ・7月の月間ベストゴールは鹿島アントラーズFWエヴェラウドが受賞した。彼の誕生日の翌日、7月6日に行われた第20節・セレッソ大阪戦で、鹿島は試合終盤まで2-3で負けていた。スーパーゴールが決まったのは、そんな時だった。

2トップを組むFW鈴木優磨が競ったボールを受け、寄せてくるDFをシャペウで交わしたエヴェラウドは、ゴールを背にしたまま宙を舞い、オーバーヘッドシュートを放った。ボールは美しい弧を描き、右ポストを叩いてゴールに吸い込まれていった。チームに貴重な勝ち点1をもたらした一撃は、瞬く間に世界へ発信され、多くの反響を呼んだ。その中で最も嬉しかった反応についても明かしてくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部)

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――月間ベストゴール受賞、おめでとうございます。
「アリガトウゴザイマス。非常に嬉しく思っています。本当に我ながら、自分のキャリアの中で一番きれいなゴールじゃないかなと思っています。こういうゴールをもっともっと取り続けることができればと思っていますし、非常に嬉しいです」

――決まった直後はどんな感情でしたか?
「非常に気持ちが爆発しました。特に同点に追い付きたかった状態でしたからね。ボールをミートした瞬間に、『これは良い』『これは悪い』という感触が分かるのですが、この時はミートした瞬間に『うまくいった』と感じたので、振り向いて、どこに行くのかボールの軌道を見ていました。そうすると、GKの頭越しに飛び、ポストに当たって入ったので、嬉しかったですね。あの日、周りには冗談で「クロスを上げようとしたんだろう」と言う人もいましたが、あの時はゴールを狙っていました。決まった後は、気持ちが爆発して祝っていましたが、すぐに看板を飛び越えてハーフラインに戻って、もう1点を取りたいと思いました。決めた直後に、鈴木選手が一緒に祝ってくれたことを一番覚えています。

――これまでもオーバーヘッドのようなゴールもありましたが、昔からアクロバティックなプレーは得意なのですか?
「よく『どこかのサッカースクールで教わったのか?』『誰かコーチが教えてくれたのか?』と聞かれるのですが、そうではありません。僕が生まれた地域は貧しく、そこには土と砂のグラウンドしかありませんでした。そうしたところでは、アクロバティックなことをやっても痛くありません。幼少期の頃、みんなで遊んでいる時に浮いた球が来るとボレーやオーバーヘッドを打っていました。当時は仲間たちと『プロになって、こういうゴールを決めるぞ』と話をしていました。幸いプロになることができましたが、こういう点を決めるたびに、当時の仲間、友人のこと、あの時に話していたことを思い出します。これまでも、アクロバティックなゴールを何点も挙げてきていますが、その度に幼少期にプレーした土と砂のグラウンドのことを思い出します」

――2トップを組んでいる鈴木優磨選手とのコンビネーションも、非常に良かったですね。
「今シーズンの序盤、僕は負傷で長期離脱していたため、彼が鹿島に復帰してから、なかなか一緒にプレーすることはできませんでした。それでも負傷から復帰して、一緒に練習したり、プレーしたりすることが多くなり、お互いに似た特長を持っている選手なので、お互いの武器をどのタイミングで発揮するかを、合わせながら、観察しながら、喋りながら合わせないといけないと思っています。お互いにプレーする機会を増やしていくことで、もっともっとコンビネーションは高められると思います」

――具体的にゴールシーンを振り返っていきたいのですが、最終ラインからのロングボールが前線に入ったところから、この得点は生まれています。
「前監督(レネ・ヴァイラ―)の1つのやり方として、ロングボールを多用していました。この場面では、鈴木選手と僕はセンターフォワードなので、2人で話をして、なるべく近くでプレーしようとしていました。この時は、鈴木選手にボールが出てくると感じていたので、鈴木選手が競りに行った後、僕はセカンドボールを狙えるところに動き出しました」

――鈴木選手が相手と競り合いながら、ボールを頭に当て、エヴェラウド選手につなげました。
「僕と鈴木選手の間には、『ボールを競りあったら絶対に勝てる』という信頼が、お互いのなかにあります。実際、鈴木選手が競るタイミングで僕は走り込んで、彼も僕に落としてくれました。走り込んで、最初にボールをコントロールした時、自分の左側からDFが来ているのが見えていました。ゴールは中央にあるので、DFは僕を外に出そうと考えて守備をしにきます。ですから、ボールをコントロールしてワンタッチして、頭上に浮かせて、DFをかわすことを考えていました」

「あの時は、本能的にオーバーヘッドをすることを決めていた」

――鈴木選手との2トップの関係性ですが、ポジショニングの時に大事にしていることはありますか?
「大前提として、監督がセンターフォワードを2人置くのは、フィニッシャーが欲しい、得点が欲しいという考えがあるからです。その監督の考えを、僕たちはできるだけ実現するため、クロスボールに対してシュートできる場所にいないといけません。鈴木選手と組む場合は、彼はフリーマンというか、ライン間だったり、サイドに流れたりと、自由を与えられてプレーしています。ですから、どちらか1人は中央にいて、サイドを崩した時にフィニッシュできるようにしないといけません。また、センターフォワードが2人いると、DFにとっては厄介です。DFが嫌がるポジショニングを、お互いに取らないといけない。負担をかけて、ボディブローを打っていくことが、私たちの役割の一つです。センターフォワードが2人いれば、サポーターも僕たちに得点を期待するので、その仕事をできる形に持っていかないといけません。距離感だったり、それぞれの役割を意識したりしながらプレーすることが多いです」

――ボールを浮かせてから、そのままシュートを打ちました。
「ボールを浮かせた後は、すぐにシュートを狙いました。子供の頃に遊んでいた動きが自然に出て、身体が勝手に反応するんです。あの時は、本能的にオーバーヘッドをすることを決めていました。多くの場合、ミスしてしまう確率が高いのですが、決まる時は毎回、綺麗なゴールになりますし、本当に決まって良かったなと思います。ゴールが決まってからは、喜ぶだけでしたね(笑)」

――ゴールに背を向けた時、ゴールの位置はどのように把握しているのですか?
「言葉で説明するのは難しいです。というのも、感覚的なものだからです。ただ、練習はしないといけません。練習を重ね、キャリアの中で経験を積んでいくと、感覚的に『ゴールはここら辺にあるな』と分かります。あとは、ゴールラインやペナルティーラインを気にしながらですね。これはGKも同じだと思います。ゴールがどこにあるかを意識しながら、シュートブロックに出てきます。それも練習の積み重ねであり、子供たちが急にやりだして、今日明日でこうした点を決めることは、なかなか難しいでしょう。遊びからの延長線で、こういうことができるようになるということを、子供たちには学んでほしいと思います」

――このゴールは世界中で報道され、多くの反響があったと思います。ご自身が一番、嬉しかった反響はどういうものでしたか?
「反響は、日本だけでなく世界中からありました。ブラジルでも、いろいろなスポーツチャンネルやサッカー番組でも報じられて、ヨーロッパでも大手メディアに紹介してもらっています。サッカーフリークの人にSNSで拡散され、その反響の速さや大きさには驚きました。今、僕の2人の息子は、教育の都合で妻と一緒にブラジルに帰国しているのですが、このゴールが決まった後、ブラジルは朝の9時頃だったと思います。彼らが起きるタイミングで、まだパジャマを着ていた彼らに、僕の得点シーンを見てくれたんです。そうしたら、彼らは鹿島アントラーズのユニフォームに着替えて、自分たちで『エヴェラウドがバイシクルシュートを打った! ゴール!』と、実況をつけながら、リビングのカーペットの上でバイシクルシュートの練習を始めたんです。その映像を見た時が、一番嬉しかったですね。もう何か月も離れて生活していますが、親として、常に自分が子供の手本になりたいと思って、私生活を含め過ごしているなかで、プロのサッカー選手として、子供たちが真似をしてくれたのは、何よりも嬉しかったです」

――「キャプテン翼のようだ」という反応もありましたが、何かオーバーヘッドを打つ際のインスピレーションになるようなものはありましたか?
「僕はサッカーを見ることが好きで、ヨーロッパでプレーしている選手の映像も見ていました。リバウド選手をはじめ、ブラジル人選手はよく決めていたりするので、特にこの選手のプレーを参考にしたというのはありませんが、バイシクルシュートなど、アクロバティックなシュートに僕は魅了されていました。誰が見ても『ゴラッソ(すごいゴール)だ』と分かりますし、そういう難しいことをやりたいな、難しいゴールを決めたいなと強く思っています。僕は何事に対しても、簡単な選択と難しい選択があれば、難しい選択をして成し遂げたいと思う性格です。キャリアのなかで、多くのゴールをオーバーヘッドで決めましたが、これは一番印象的なものとなりました。今後もこうした点を取り、みなさんの記憶に残る選手になりたいですね」

誕生日翌日の得点「自分にとっても、サポーターにとっても、良いプレゼントになった」

――誕生日の翌日のゴールでしたが、そのことも試合に臨むうえでモチベーションとなっていましたか?
「特別に誕生日を意識しては試合に入っていませんでした。でも、このゴールが決まった後には『誕生日の後だったな』と思ったのは事実ですし、『自分にとっても、サポーターにとっても、良いプレゼントになったな』と思いました」

――ちなみにベストゴールの賞金は20万円です。使い道は考えていますか?
「おー! そんなにもらえるんですね! 本当に嬉しいですし、自分にご褒美を買おうと思います。靴とか、スニーカーが好きなので、買いたいと思います。あとは家族へのプレゼントですね。遠くにいますが、日本からブラジルに帰国する時に彼ら、息子2人と妻に何か買って、持っていきたいですね。今、知ったので、驚いていて、嬉しく思っています」

――最後に、ここからチームとして順位を上げていくために、必要なことは何だと感じていますか?
「残念ながら、監督の交代がありました。監督が代わると、哲学、コンセプト、求められるものが変わります。前任者からは、ゴールに直結するプレー、縦への意識を求められていました。今は、しっかりボールをつないで戦っていく、選手個々の能力を発揮しないといけません。またボールを持っていない時も、攻撃に絡まないといけません。微調整が必要ですし、練習からやり方、求められることの違いが出ています。それを合わせられるように、全員で努力していますし、岩政(大樹)監督の考えていることに合わせて、信じてやっていくことが大事だと思います。リーグ戦では、上位チームと勝ち点差があり、試合数の違いもありますが、私たちは、まだ諦めていません。また天皇杯は、タイトルに近い状態にありますので、しっかりと皆で取りに行きたいと思います。アントラーズで働いている者、プレーする者は、全員が引き分けや負けを考えず、すべての試合に勝つつもりで強い精神を持って取り組まないといけません」(FOOTBALL ZONE編集部)