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ハードコアさを高めつつ、しなやかなM5 CS

翌日を迎え、ニュルブルクリンクからBMW M社の開発センターが位置するミュンヘン郊外のガルヒングへも、BMW M5 CSで移動する。約515kmのドライブとなる。

【画像】BMWのMモデル 最新のM5 CSとM4、M3 1970年代の名車 3.0 CSLとM1も 全112枚

ノーマルのM5も、優れたグランドツアラーだ。フェラーリ812 スーパーファストやアストン マーティンDBS スーパーレッジェーラにも勝るほど。大きいボディで、悪びれた見た目のサルーンは、長距離走行にうってつけ。


BMW M5 CS(英国仕様)

加速性、操縦性、快適性だけでなく、パワートレインやインテリアの仕立ても、すべてが素晴らしい。ゴールドに塗られたホイールや、ボンネットに開けられたエアアウトレットなど、CSの見た目はよりハードコアだ。

だが、ラップタイムをわずかに削る、サーキットでの動的能力が追求されているわけではない。635psの最高出力も、公道のために与えられている。

詳しい内容は以前の試乗レポートをお読みいただきたいが、M5 コンペティションからCSへ仕立てるに当たり、車重は70kgも軽くなった。カーボンファイバーの積極登用のほか、遮音材も削られている。

アンチロールバーも専用品。コイルスプリングが短く、車高は7mm落とされた。この内容で、通常のM5以上にコーナーを機敏に駆け抜けられないわけがない。

アルファ・ロメオ・ジュリアGTAにも通じる、路面と呼吸を合わせるようなしなやかさがある。どこか、ドイツ車的ではない。だが、姿勢制御とステアリングの精度には、揺るがない芯の確かさがある。

BMW M社の未来を予感させる仕上がり

フロントに載るのは、熟成された4.4L V型8気筒。アウトバーンなら290km/h以上も許容範囲で、安定性は凄まじい。郊外の一般道でリアドライブ・モードに入れれば、落ち着き払って流暢に路面を縫っていく。

ポルシェ・パナメーラとも味わいが違う。どんなライバルを持ってきても、M5 CSの完成度が劣ることはないだろう。疑いようのない傑作だ。多面的な能力を知るほど、世界最高のクルマとまとめて良いように思える。ありきたりな表現でも。


BMW M5 CS(英国仕様)

CSの意義は大きい。勢いを増す動力性能争いに加えて、車重は増える一方。安全性と快適性を高めるため、クルマには多くの技術が搭載され、サイズは拡大していく。今後は駆動用バッテリーという重りも必要になる。

最新のM3は、20年前のE39型M5より車重がかさむ。ヴァン・ミールは「逆行するという選択肢はありません」。と認めている。

ターボに四輪駆動、オートマティック。必要に応じて、様々なデバイスをMモデルは獲得してきた。そして、多くの人が惹かれるクルマに仕上げてきた。だとしても、軽い方がベターだ。

1800kgあるM4を運転すると、質量を実感する。まだM2は公道で試していないが、M240iが軽いとは感じなかった。今後のハイブリッド化が、さらに重さを呼ぶだろう。

ところが、M5 CSを知ると、重さという課題も克服できなくはないと感じる。1950kgを包み隠す、乗り心地や操縦性のまとまりは、将来のMモデルの新基準として機能するはず。今後のBEVでも。

BMW M5 CSは、驚きが詰まったスーパーサルーンだ。BMW M社の未来を予感させるといっていい。

E60型のM5 CSLも検討していたM社

今回のロードトリップは、ミュンヘン北部にある、ガルヒングが最終目的地。1986年にBMWモータースポーツ社が、グループAマシン開発の拡充を目的に、より広い場所を求めて移ってきた場所だ。

そこで待ってくれていたハンス・ラーン氏は、BMW M社でプロトタイプ開発を取り仕切る人物。M3のGT4とGT3マシンだけでなく、多くの公道用Mモデルも監修している。


ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センター

これまで、多くのMモデルがこの場所から生み出されてきた。マイナーチェンジ版も。近年の開発では3Dプリンターで試作部品を成形し、通常のモデルに試着することもあるという。

ただし、量産車の生産はしていない。この場所では賄うことができない。M3やM8、X5 Mも、通常の製造ラインに混ざって作られている。過去を振り返ると、E34型M5だけが例外。1987年から1996年に作られたすべてのM5が、ガルヒングから旅立った。

この場所にあるのは、M4 CSLやM3 CS、2025年に発売予定のV8ツインターボ・ハイブリッドのM5まで、開発段階のプロトタイプ。多くの極秘プロジェクトも進められてきた。E46型M3 CSLは、2005年の発表時点で、まだ開発が終わっていなかったそうだ。

E60型のM5 CSLも検討された。レブリミットが8250rpmから9000rpmに設定し直され、E92型M3と同じ、ゲトラグ社製のデュアルクラッチATを採用予定だったらしい。DOHCのV型10気筒が奏でる、F1マシンのようなサウンドを想像してしまう。

50年前に引けを取らないエネルギー

クリス・バングル氏が描き出したM6では、アクティブエアロと軽量化対策が練られていた。彼らの実験は、今も終わることはない。われわれの知らないところで、膨大な開発時間が費やされている。

M1の後継モデルも同様だが、素晴らしいプロジェクトでも、ワークショップから公道へ降り立つことができないモノは多い。それでも、うなるほどカッコいいモデルのために、BMW M社の熱意が静まることはない。


ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センターの様子

M4 GT3マシンの製作スタジオの壁面には、イエーガーマイスター社がスポンサーだった、プロカーのM1がサーキットを攻める写真が貼られていた。モチベーションを保つため、ロックミュージックがBGMに流れていた。

フロアはきれいで、宝石のように輝くサスペンションを、スタッフが丁寧に組んでいく。前日の、ニュルブルクリンクの雑踏とした雰囲気とは大違い。この場所も魅力的。居心地が良い。

BMW M社を生み出したヨッヘン・ニアパッシュ氏と、50年前に勝利を飾ったニュルブルクリンクでお会いでき、素晴らしいロードトリップになった。さらに、拠点は変わっても、当時に引けを取らないエネルギーが開発本部には満ちていたと思う。

スリムとはいいにくいクロスオーバーが増え、キドニーグリルは大型化し、排気音の規制は強化されていく。本来のMらしさを保つことは、簡単ではない時代といえる。

だが、論理的な思考を乗り越えて、Mというブランドは今後も生き続けるはず。2027年にも、同じように55周年を祝えることを祈りたい。まず今年は、50歳をお祝いしよう。

BMW M5 CS(英国仕様)のスペック

英国価格:14万780ポンド(2351万円)
全長:4956mm
全幅:1903mm
全高:1473mm
最高速度:305km/h
0-100km/h加速:3.0秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:256g/km
車両重量:1825kg
パワートレイン:V型8気筒4395ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:635ps/6000rpm
最大トルク:76.3kg-m/1800rpm
ギアボックス:8速オートマティック