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フェラーリF8トリブートの後継モデル

内燃エンジンはスーパーカーにとって魂のようなもの。気持ちを高ぶらせないユニットは、許されない選択だろう。

【画像】PHEVのフェラーリ 296 GTBとSF90 ストラダーレ 競合するスーパーカーと比較 全113枚

特にフェラーリは、イタリアン・エキゾチックの代表といえるブランド。英国の公道で初めて実力を確かめた296 GTBへ、当初は僅かな懸念を持っていたことは確かだ。


フェラーリ296 GTB アセット・フィオラノ・パッケージ(英国仕様)

最新のミドシップ・モデルは、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)化や250 LMに影響を受けたというスタイリングが話題の中心になりがち。3.0LのV型6気筒エンジンへは、さほど注目が集まっていないように思える。

フェラーリは、これまで公道用モデルへV6エンジンを搭載してこなかった。病を患った息子のための、ディーノを除いて。

1973年以降、シャシー中央に主力として積まれてきたのはV8エンジン。技術者のジュゼッペ・ブッソ氏がアルファ・ロメオのために生み出した傑作のような、輝かしいユニットに仕上がっているのかという疑問が、筆者にはあった。

296 GTBの前任となるのが、フェラーリF8トリブート。車重は35kg増えているにも関わらず、シリンダー数はダウンサイジングされ2本少ない。パワーステアリングも、電動油圧式から感触を届けにくい電動機械式へ変更されている。

リアアクスルに搭載された駆動用モーターを完全に制御下へ置くため、ブレーキもバイワイヤー方式が取られている。モノコック構造は、マセラティやマクラーレンとは異なり、カーボンファイバー製ではない。

数あるスーパーカーで最も完成度が高い

事実を並べていくと、296 GTBへの懸念は大きくなっていく。ところが、恐らくマラネロがこれまでに仕上げてきた数あるスーパーカーでも、最も完成度が高いといって良さそうだ。

断言できない理由は、今回試乗したクルマが、アセット・フィオラノというハードコア・パッケージで仕立てられていたから。英国価格2万5920ポンド(約427万円)のオプションとなり、素の状態とは異なっていた。


フェラーリ296 GTB アセット・フィオラノ・パッケージ(英国仕様)

フェラーリの英国代理店でレーシングチームを営んだ、マラネロ・コンセッショネア社にちなんだ、ロッソ・コルサとベイビー・ブルーのカラーリングだけではない。ボディは多くのエアロキットで武装されている。

ポリカーボネート製のエンジンリッドや、カーボン製ドアパネルなどで軽量化にも余念はない。かなり鮮烈な雰囲気を放っている。

フォードGTも採用する、磁性を帯びたフルードを用いたMR流体ダンパーも装備される。特性が活きる速度域は相当に高く、日常的な環境では乗り心地は少々過酷。快適とは感じられないだろう。

ポルシェ911 GT3のオーナーなら、このハードな乗り心地を想像できるはず。筆者がオーダーするなら、特別なMR流体ダンパーをチョイスすると思うが、一般道での評価ならノーマル・ダンパーの方が有利かもしれない。

少なくとも、発表イベントが開かれたスペインの平滑なアスファルトでは、素晴らしい喜びを与えてくれたセットアップではある。だが、英国の一般道とは異なる。

ピッコロV12と呼ばれる3.0L V6エンジン

3.0L V6エンジンのバンク内側に搭載される2基のターボは、18万rpmまで回転する。熱効率を高め、レスポンスを鋭くするレイアウトが取られている。その印象は壮大。当初の懸念が、嘘のように晴れていった。

システムをオンにすると、デフォルトではV6エンジンは眠ったまま。踏み心地の軽いアクセルペダルを押し込むか、パワートレインの設定をハイブリッドからパフォーマンス・モードへ切り替えると、稼働状態に入る。


フェラーリ296 GTB アセット・フィオラノ・パッケージ(英国仕様)

始動時はコールドスタートのように、鳥肌が立つほどのひと吠えを響かせる。エグゾースト内のバルブがオープン状態になり、ドラマチックにお目覚めする。

V6エンジン単独での最高出力は、663ps/8000rpmある。だが、その半分だったとしても、クルマ好きなら夢中になってしまうユニットだと思う。

中回転域では太い低音域が大きく主張し、高回転域ではキレの良い高い快音を響かせる。そこへ吸気音も加わる。この重なり合いがユニーク。これほど自然吸気ユニットに近い音響を楽しめる、ターボユニットは他に存在しない。

加えて、駆動用モーターのアシストが低回転域から控えている。5速に入れたまま、V6エンジンが2000rpmで回っていても、加速の勢いは凄まじい。熱狂的な勢いや豊かな表情は、レブリミットの8500rpmまで衰えることはない。

マラネロは、このF163型V6エンジンをピッコロ(小さな)V12と呼ぶ。パワーの高まり方や聴覚的な興奮を味わうと、その理由も理解できる。

最長24kmを電気だけで走行可能なPHEV

その印象を補強してくれているのが、8速デュアルクラッチAT。フェラーリ・ローマや、SF90 ストラダーレなどと同じユニットだ。

レッドライン間際でのシフトアップも、イベントと称したくなるほど見事。それでいて、交通量の多い区間でのシフトダウンも巧妙に処理する。


フェラーリ296 GTB アセット・フィオラノ・パッケージ(英国仕様)

ステアリングホイール裏のパドルを弾くと、その有能ぶりを最も確認できる。激しく鋭い、ハイブリッド化されたパワートレインと見事なペアを組み、魅力を高めている。

V6エンジンと8速デュアルクラッチATとの間に挟まれるのが、167psを発揮する駆動用モーター。専用クラッチが搭載され、エンジンの回転へ影響を与えないよう、接続を完全に断つことも可能。同時に、EVモードでの走行も実現している。

左右シート間のフロアに搭載される駆動用バッテリーは、73kgと軽くはない。そのかわり、eドライブ・モードを選択すると、最長24kmを電気の力だけで走行できる。マラネロにおける、電動化を象徴する部分だ。

296 GTBの航続距離は、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)基準でも長いとはいえない。しかし、真夜中にひっそりガレージへクルマを滑らせたり、早朝に気を配ることなく出発できる能力を、有用だと感じるオーナーも少なくないはず。

EVモード時の質感は、もう少し磨ける余地も残っている。アクセルペダルを放すと、回生ブレーキが想像以上に強く効く場合がある。変速はもっと滑らかでもいい。

この続きは後編にて。