記念撮影をするカブス・鈴木誠也(右)とダン・ケネディー氏【写真:木崎英夫】

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「フィールド・オブ・ドリームスゲーム」に日本人初出場

■カブス 4ー2 レッズ(日本時間12日・ダイアーズビル)

 カブスの鈴木誠也外野手が11日(日本時間12日)、米アイオワ州ダイアーズビルで開催されたレッズとの『フィールド・オブ・ドリームス・ゲーム』に「4番・右翼」で出場。日本人選手として同ゲームに初出場を果たし、初回に先制の適時二塁打を放つなど3打数1安打1打点2四球で4-2の勝利に貢献した。

 試合開始の5時間前だった。チームの記念写真を撮り終えるとカブスの選手全員がトウモロコシ畑を通り抜け、映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケで使われた夢の地を訪れた。鈴木は報道陣からの写真撮影にも気さくに応じるなど、普段とは違う柔和な表情でひと時を過ごした。

「日本ではまったく味わったことのない状況なので今は楽しみです。できれば打ちたいですし、ファンのみなさんも楽しみにしていると思うので、なんとか頑張って勝ちたいなと思います」

 その思いを初回の打席で形にした。2死一塁の場面で打席に立つと、1ストライクからの2球目速球をフルスイング。ライナーの打球が中堅左で弾む。鈴木は塁上で手を叩き感情を表すと、5番・ホーナーの左前打で果敢に本塁を突いた。6番・ハップも左翼線への二塁打でつなぎ、3点を奪って試合の主導権を握った。

グリフィー親子も登場、映画のテーマをなぞった1日

 映画と重なる環境が気持ちを高ぶらせた。

「入場シーンや、今までに味わったことのない雰囲気ですごく鳥肌が立ち感動したので、そのまま試合に入れましたし、感情的にもなってました」

 試合前のセレモニーでは、ケン・グリフィー・シニアとジュニア(ともに元マリナーズ)の親子が右中間のトウモロコシ畑から登場。映画のシーンと同じようにキャッチボールを始めると、両軍の選手たちも次々とトウモロコシの葉をかき分けフィールドに現れた。

 試合前にくつろいだロケ地で、鈴木が「(オフの)時間があるときに観たい」と言っていた米野球映画の金字塔『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年公開)は、試合後には「(すぐにでも)観たい」との思いに変わっていた。

 この日で一番の思い出となったことは何か――。地元メディアに問われた鈴木は、間を置くことなく答えた。

「映画に出ていた(と聞いた)幽霊役の人とキャッチボールをしたことが楽しかったです」

不朽の名作をすぐにでも観たい…鈴木誠也は何を思うのか

 ケビン・コスナー主演の同作は、コスナー演じるレイ・キンセラがある日突然「それを造れば彼はやって来る」という天の声を聞く。レイは野球場を造ればかつてのスター選手、シューレス・ジョーが来ると信じ、持っていたトウモロコシ農場をつぶして球場を造った。ジョーの仲間たちも天から戻りフィールドでプレーをした。その数人の仲間の1人が、この日鈴木のキャッチボール相手となったダン・ケネディー氏である。映画で着用した1919年当時のホワイトソックスのユニホームを着用し、かつてのロケ地で周囲の注目を集めていた。

 映画は、鈴木がこの世に生まれる5年前に公開されているが、まさに夢のような舞台で実際にプレーを終えた鈴木がこの作品に興味を持つのも当然であろう。

『フィールド・オブ・ドリームス』の最後の場面で、レイは亡き父親とキャッチボールをする。野球への夢を捨ててしまった父ジョン・キンセラに息子は反発し、激しい言葉をぶつけた。時が過ぎ、後悔が生んだ故人への深い愛情が通じるクライマックスシーンである。これをフィクションと言えばそれまでだが、この地を訪れ試合が終わるまでを過ごした10時間は、「ばかげた空想」と言わせない何かを鈴木に教えたような気がする。

 この不朽の名作を見終えた時、鈴木誠也はきっと思うだろう。メジャーを目指すまでに自分を導いてくれた父、宗人さんと取り組んだ遠い日々のことを――。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)