最悪の場合、死に至る熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか。暑熱対策に詳しいスポーツ医学博士の中村大輔さんは「暑さに対する抵抗力や喉の渇きを感じる機能は、加齢によって弱まってしまう。特に高齢者は、空調を適切に使うことはもちろん、体内の水分量に注意してほしい」という――。

※本稿は、中村大輔『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■年齢を重ねるほど、暑さへの抵抗力は低下する

高齢者における熱中症の発生は社会問題となっています。

消防庁が公開している熱中症の搬送件数のデータでは、搬送件数全体の約半数が65歳以上の高齢者であることがわかります。

では、なぜ高齢者ほど熱中症になりやすいのでしょうか? 東京都観察医務院の報告によれば、熱中症死亡者の8割が65歳以上で、死亡者の9割がエアコンを使用していない、もしくは設置していなかったという報告があります。高齢者があまり空調を使わない傾向などもあるかもしれません。しかし、同時に加齢による生理的な変化が考えられます。

人間の身体は、加齢によってさまざまな機能的な変化が起こります(図表1)。

出所=『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

例えば、持久力の指標である最大酸素摂取量や筋力も加齢によって低下します。それは毎日ハードにトレーニングに取り組んでいる選手の記録を見ても明らかで、加齢による人体機能への影響をゼロにすることは難しいでしょう(図表2)。

出所=『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

図表1にもある通り、加齢の影響によって筋力が低下します。これは、筋量が減少していると考えられます。筋肉は約70〜75%が水分であると言われていますので、筋量が低下することは体水分量の低下にも関係する可能性があります。体内の水分量は熱中症予防や体温調節において重要な要素となっています。

つまり、筋量の減少が加齢によって起こると考えると、それだけで暑さに対する抵抗力が低下することになります。

■体温上昇を防ぐ力や喉の渇きを感じる機能も弱まっていく

高齢者の体力レベルの差異が発汗量に与える影響を検討した実験もあります。

気温43℃、湿度30%での運動時における発汗量を若年男性、一般高齢男性、高体力高齢男性で比較したところ、一般高齢者の発汗量は若年成人と比較して少なかったのですが、トレーニングを行っている高体力高齢男性は若年男性と発汗量に差がなかったのです(図表3)。

出所=『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

この結果は、熱放散能力に対する加齢の影響は、単に年齢だけの問題ではないということを意味していると言えそうです。

一方で、暑熱順化(※)の効果に関しても、成人と比較して、高齢者では弱まることが指摘されています。

※註:汗をたくさんかけるようになったり、血液の量(血漿量)が増加したりすることなどによって、体温が上昇しにくい状態に身体が適応すること

暑熱順化で見られる血液量の増加が成人では認められたのに対して、高齢者ではその効果が少ないことが報告されています。また、加齢と共に、「口渇(こうかつ)中枢」の機能が減退し、水分補給を行うために重要な「口渇感」が低下するということもあります。

これらのことから考えても、個人差があるものの、高齢者は一般成人と比較して暑さに弱いという認識を持つことが、運動時の熱中症を防ぐ意味においては重要になります。

日頃から運動を行い、体力レベルをできるだけ維持することが、高齢者における暑さ対策の第一歩と言えそうです。

■日焼け対策の服装は熱発散を妨げるので要注意

熱中症の発症が環境要因(特に気象条件)と関係することを考えると、屋外であれ屋内であれ、活動を行う場所の環境条件を、熱中症の発症リスクが低い状態に保つことが大事になると思います。

具体的には、発汗が進み脱水が起こるような環境を避けることや、熱放散(熱を逃がすこと)を妨げるような衣服を着用しないこと、気温の高い外気を室内に入れないこと、などが挙げられます。

出所=『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

特に高齢者の方は、空調の使用をためらったり、長袖の衣服を気温が高い時でも着用していたりすることに加え、加齢による体温調節機能の衰えも関係し、室内であっても熱中症になるケースが後を絶たないのが現状です。

■地域と行政が一体となり高齢者を守る

一方、多くの集合住宅などに見られる鉄筋コンクリート住宅では、コンクリートが熱をため込みやすいという性質があるため、最上階(屋上)に近い階(部屋)ほど、日中の日射の影響を受けて家の中の温度がなかなか下がらないことも指摘されています。

高齢者の方の中には、団地などの集合住宅で、単身で住まれている方もいらっしゃると思いますが、このような方々を熱中症から守るためには、夏場の電気代の援助、ボランティアの方の協力など地域と行政が一体となった取り組みを行うことが有効だと考えます。

熱中症の発症者数を減らすことは、医療従事者の負担軽減にもつながりますので、より直接的なアクションを行政側が考える時代になっているのではないでしょうか。

■暑さ対策は前の日の夜から始まっている

熱中症の予防は、基本的に各個人が行うことには変わりはありません。

熱中症は主に深部体温の上昇が関係しますので、脱水、つまり体水分量の減少には日中のみならず睡眠時にも注意を払う必要があります。

また、睡眠は健康的な生活を送るうえで欠くことができない行動ですが、寝ている間にも人は汗をかきます。そのため、睡眠時の余分な水分損失を防ぐことが翌日以降の暑さ対策のスタートになります。

特に、睡眠時の発汗量が多くなる夏場の睡眠を快適にするためには、就寝する部屋の室温上昇対策を日中から行うこと(遮光カーテンやグリーンカーテン等の使用)や就寝の数時間前から冷房を使用し、室温や湿度を睡眠にとって快適にすること(気温25〜28℃、湿度40〜60%)をおすすめします(※1)。

さらに、睡眠には深部体温が低下することが必要ですが、冷房が効いた環境を確保できる場合には、一度入浴をすることで深部体温を上昇させ、その後冷房の効いた部屋で就寝すると、入眠がスムーズになります。最近では冷房とサーキュレーターを併用することも、快適な睡眠環境の構築に有効であると言われています。

■体重が1.5%以上減っていたら「脱水リスク高」

起床時の体重チェックは一般の人の熱中症の発症リスク軽減にも役立ちます。

中村大輔『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)

50g精度の体重計を用いて排尿後に極力軽装で体重の測定を行うことで、前日との比較や基準値との比較を行うことができます。

基準値を求める場合は、前日の夜までに2〜3l程度の水を飲み、翌朝の排尿後体重を測定し、その値を利用します。エネルギー摂取量や水分摂取量が、その日の不足分を過不足なく補えていれば、体重の変動はプラスマイナス1%以内でおおよそ安定します(※2)。

従って、個人差を考慮し、まずは1.5%以上を脱水と決め、判断基準以上の脱水であれば起床時からの水分補給を積極的に行うことから始めてはいかがでしょう。単純に、体重60kgの人で1.5%の体重減少であれば、900mlの水分が前日と比較して足りないということを意味します。

一方、起床時の脱水率が問題ない場合は、まず、体重の1〜1.5%に当たる量を計算し、その量を計画的に摂取することで、大幅な脱水に陥るリスクに備えることができます。

運動を行って汗をかくような場合はこの限りではありません。

※1 長谷川博・中村大輔『スポーツ現場における暑さ対策 スポーツの安全とパフォーマンス向上のために』(ナップ)pp. 211ー221
※2 Cheuvront SN, Carter R, Montain SJ, et al.: Daily body mass variability and stability in active men undergoing exercise-heat stress. Int J Sport Nutr Exerc Metab, 14: 532-540, 2004

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中村 大輔(なかむら・だいすけ)
博士(スポーツ医学)
筑波大学で学位を取得後、国立スポーツ科学センター、立教大学、株式会社ウェザーニューズを経て、現公益財団法人日本サッカー協会、フィジカルフィットネステストプロジェクトメンバー。専門はトップアスリートのコンディショニングおよび運動生理学。国立スポーツ科学センター在籍時には東京五輪に向けた暑熱対策プロジェクトを立ち上げ、多くの競技団体やトップアスリートに対し、暑熱対策に関する医化学的なサポートを行った。日本サッカー協会公認A級コーチ、アジアサッカー連盟公認フィットネスコーチレベル2、CSCS(NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)。著書に『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)がある。
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(博士(スポーツ医学) 中村 大輔)