まさに「Share」Practiceでした!

いやーーー、プロって本当にいいもんですねぇ。8月10日、羽生結弦氏が行なった公開練習イベント「SharePractice」はこれを本当に無料で見ていいのかと驚くようなイベントでした。同時接続数はピーク時で10万人を超え、コメントは激流のように画面をさかのぼっていく猛烈な盛り上がり。イベントが持つポテンシャルから言えば武道館とかでやってもおかしくはないものであり、むしろちゃんとお金を取ってやるべき、早くSupers(課金)を開放してくれ、そう思うようなプレミアムイベントでした。

そうしたファン目線での熱量の高さと同時に、フィギュアスケートというスポーツにとっても、非常に大きな意味がある取り組みだなと感じました。この映像には練習を始める前から、練習を終えるまでの羽生氏のすべてが記録されています。どんな準備をし、どんなアップをし、どんな流れで練習を行なっているのか、世界一の見本がここにある。地域の壁はあるにせよ、全世界で見ることができる生きた教本です。試合の背後にあった巨大な努力、真に見るべきものや学ぶべきものをこうして開放してくれるなんて、まさに「プロ」ですねぇ。

↓アーカイブ配信してくれて、それもありがたい!


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ホームリンク入りした羽生氏を待ち受けていたのは大挙する取材陣の列。何十台ものカメラがプロとなった羽生氏の姿をおさめようとひとつひとつの動きを追いかけます。そんな羽生氏がまとうのは脇の下を通るように胸から背中へと水色と黄色のラインが入り、胸と背中に「Yuzuru Hanyu」と名前が入った真新しい白いジャージ。

聞けばSEIMEIを意識した新作ジャージなのだとか。なるほど、さりげなく入った腰回りのラインが帯のようにシルエットを引き締めているのもそれっぽいです。「完全に理解した、新作グッズだな」「よーし、これは堂々とお金を払えるヤツだな」「1万2070円でよろしかったですか?」と早速財布がカバンから飛び出してきたものの、どうやら自分用の練習着である模様。えーーー。そのジャージにYouTubeチャンネルのロゴを入れてくれたら、それでもう完成というか、まさしくそれが欲しいというグッズが出来上がりなのに。まぁ、今後の展開のなかで売っていただけるよう、ぜひご検討いただきたいものです。

羽生氏はイヤホンで音楽を聴きながら、リンク入りまでのウォームアップを念入りに行ないます。ライブ配信の中継では複数台のカメラがスイッチングしながら羽生氏を追っていますので、配信をサポートする技術スタッフはちゃんとついてくれている模様。チャンネルの手作り感からして「固定のカメラ1台かな?」という可能性も想定していたので、これは嬉しい上方修正でした。ちゃんと見たい場面を追いかけられてありがたい。

腰をクイクイさせる羽生氏。全身をほぐす羽生氏。ウロウロする羽生氏。地上で回転する羽生氏。歌う羽生氏。踊る羽生氏。身体をひねる羽生氏。足を丹念に揉みほぐす羽生氏。4回転半を含めた大きな負荷を掛けるための準備に長い長い時間を掛けていきます。氷に上がるまでに約1時間。配信時間の半分は準備時間という状態ですが、それがいい。演技の背後にある巨大な努力の一端が見える時間でした。氷の上に上がる時間の背後にも同じだけの分量の準備があり、「そして、さらにその背後にも…」と想像力をかきたてられるような時間でした。



羽生氏が自らスマホを操作すると、リンクに流れるのはbacknumberの「水平線」。新プログラム…ということではなさそうですが、歌を口ずさみながらリンクを周回していく羽生氏。これほどの名手ならば今さら普通に滑る意味などなさそうに思ってしまいますが、羽生氏は一歩滑る動き、丁寧に滑る動きを丹念に繰り返します。基礎を疎かにしない姿勢です。クリケットクラブでの公開練習日を思い出すような気持ちです。

その後もbacknumber「僕が今できることを」、Mrs.GREEN APPLE「僕のこと」でじょじょに身体に火を入れていき、トリプルループを手始めにジャンプにもトライしていきます。そして「花になれ」「天と地と」へと進むなかでは4回転からのコンビネーションも美しく決めます。ジャージを脱いで挑んだ「Hope & Legacy」では世界でもほとんど使い手のいない4回転ループにさらに3回転トゥループをつける最高峰のコンビネーションも実施。そして、そして、4回転アクセルにも数度トライしました。

その後、残り30分というところが節目だったか、「SEIMEI」がリンクに流れ始めます。平昌五輪さながらの構成と本気度でSEIMEIを演じる羽生氏。演技途中でミスが出ると、悔しそうな素振りを見せ、何ともう一度通しで演じ始めます。「もしかして、ノーミスするまで終わらない気か?」とドキッとするなか、都合3度目にしっかりとミスなく演じ切った羽生氏。見事な「金」の演技でした。

本番さながらではあるけれど、これがまだ無料の公開練習であるという驚き。そして、試合の予定はないのに、常に世界最高峰の鍛錬をしているという驚き。この「SharePractice」の先に「プロ」として本当に見せたいさらなる驚きがある。そう思うと夢と期待感がさらに広がっていきます。一体、何を見せてくれるのだろうかと…!


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練習本編が終了したのち、羽生氏はライブ配信のチャットに向けて「何かやってほしいものとかありますか?」とリクエストを募ります。残念ながら現地と配信とでのラグがあり、上手く意思疎通はできなかったものの、現地取材陣からホワイトレジェンドのリクエストをもらい、羽生氏はアンコールに臨みます。「著作権の関係で曲が使えない」ということで、音無しで演じたホワイトレジェンドは、まさにこの機会ならではのお宝でした。

「頭のなかで鳴らして…」ではなくズルをして昔の映像を別ウィンドウで流しながら見守ったアーカイブ映像は、別格と言っていいものでした。若き日々のよさはもちろんあるけれど、とんでもない進化の先を演じている今がよくわかります。そして、音が無いのにピッタリと終わりが合っていることにも驚かされました。身体に曲が染み渡っているのでしょう。これはぜひ、改めて曲をあててみてほしい滑りでした。

イベント終わりの挨拶、羽生氏は「半年にいっぺんくらいしかできないかもしれないけれど…」またこういう機会を作りたいという意欲を見せてくれました。その後、報道陣との囲み取材や個別インタビューもあるのだと言いますが、もうフルコースを食べたあとくらいの満足感がありました。一般人であることの疎外感を覚えることなく、素晴らしい時間を堪能することができました。まさに「Share」された感覚でした。いい名前をつけたこのイベント、ぜひつづけて欲しいもの。「半年にいっぺんも」やっていただけるなら大大大歓迎です!



さて、最後に羽生氏が言っていた「著作権とかの問題でなかなか曲かけたりはできなかったんですけど」について。音楽には著作権があり、誰でもがいつどこででも利用できるわけではありません。JASRACのサイトなどを見ても非常に理解が難しいのですが(※僕は理解できていません)、正しく音楽を使うのはとても難しそうだということはわかります。

羽生氏はおそらく自ら権利処理に取り組んだのでしょう。もしかしたら、自分自身でJASRACへの問い合わせをしたりもしたのかもしれません。「日本の曲もギリギリで」「お金が掛かる」「いろんなことを含めて申請していくと、もっともっと莫大なお金がかかる」という発言からはスタッフお任せではない姿勢が垣間見えます。単なる演者ではなく、「主催者」としての仕事をしてくれていたのでしょう。無料とすること、アーカイブ配信をすること、たくさんの曲を演じること、そこにはいくつもの決断があったと思います。

これは「感動」していいことだと思います。手間も費用もわかるくらいに権利処理に自ら取り組んで、それでもこのイベントを実現してくれたことに僕は心から拍手を贈りたい。演技そのものだけでなく、この企画を成立させたことを労いたい。きっと、こういうことも今後の活動に必要な学びのひとつとして取り組んでくれたのだろうと思います。これまでは主催者お任せで済んだ部分も、自分で理解していくことが必要だったのでしょう。そうでなければ実現できないような夢を思い描いているのでしょう。

大変だけれど学ぶ必要のあることです。音楽と一体となったスケートを追求する以上、音楽を使うための手続きは避けては通れない道のりです。だから、頑張ってほしいなと思います。そして、見て楽しむコチラは権利処理の実態まで理解する必要はありませんが(※僕も理解していません)、実際にイベントとして仕上がるものの背後には巨大な労力があるということは覚えておきたいものだなと思います。

くっそ自由な公開練習の前には、

くっそ大変な権利処理がある。

その労力に感謝しつつ、半年後?の第2回を待ちたいと思います。

まぁ、次回のリクエストは事前に聞いてもらったほうが、お互いイイかもしれませんね!

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次回は「清塚信也さん生演奏のロンカプ」をリクエストしてみますかね!