鎌田大地はベンチ、長谷部誠は後半途中から出場【写真:Getty Images】

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【ドイツ発コラム】ブンデスリーガ開幕戦で盟主バイエルンに大敗で見えたもの

 フランクフルト中央駅からトラム(路面電車)に乗って「ドイチェ・バンク・パーク」へ向かう。

 車内はアイントラハト・フランクフルト(以下、フランクフルト)のユニフォームを纏ったサポーターたちですし詰め状態になっている。

 ドイツ・ブンデスリーガクラブの各サポーターは日本のJリーグと同じく、ユニフォームを着用して観戦する方が多い。クラブサイドもマーチャンダイジング面で多大な資金を生めるユニフォームの販売を重要視しており、毎年デザインを替えて売り出している。

 今季のフランクフルトのホームユニフォームは昨季と同じく白を基調としたもので、スッキリとしたデザインだと感じた。購入者が自らの希望でつける背番号は、左サイドの“槍”こと背番号「10」のセルビア代表MFフィリップ・コスティッチ、昨季日本代表MF鎌田大地とともにインサイドハーフでプレーした背番号「29」のデンマーク代表MFイェスパー・リンドストロム、そしてバイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントで輝かしい実績を残して今季PSVアイントホーフェンから完全移籍で加入した背番号「27」の元ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェらが目立つ。

 2022-23シーズンのブンデスリーガ開幕戦は8月5日の1試合のみ。そのカードは昨季のUEFAヨーロッパリーグ(EL)を制したフランクフルトと、前人未到のリーグ10連覇を達成し、今季もリーガ、DFBポカール、そしてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の3冠獲得を狙う“盟主”バイエルン・ミュンヘンの対戦である。

 フランクフルトの周囲を取り巻く空気は熱気が充満している。前身のUEFAカップから数えて42年ぶりにELを制覇し、翌日に決勝の地スペイン・セビージャから凱旋したチームを約30万人の市民・サポーターが出迎えた今年5月の熱狂は今も続いている。

好調・鎌田をベンチスタートの采配は「解せない」

 スタジアムに着き、メディア控室に入ってゲームのメンバー表を見ると、長谷部誠と鎌田大地がベンチスタートになっている。今季公式戦初戦のDFBポカール1回戦マグデブルク戦で2ゴールをマークして4-0の勝利に貢献した鎌田が控えなのは解せない。

 マグデブルク戦での鎌田はオリバー・グラスナー監督からボランチで起用されて新境地を開拓した感があり、新戦力のマリオ・ゲッツェがインサイドハーフでプレーすることで両者の共存に1つの筋道ができたように思えた。しかし、グラスナー監督は苦戦が予想されるバイエルン戦で攻撃的な鎌田ではなく、チームキャプテンで負傷明けのドイツ人MFセバスティアン・ローデとスイス代表MFジブリル・ソウの2ボランチを選択した。

 ホームチームの指揮官が打った慎重策はしかし、ピッチで効果を発揮しなかった。試合開始から僅か5分、ドイツ代表MFジョシュア・キミッヒが直接FKから技巧的なグラウンダーシュートを決めて早くもバイエルンが先制する。フランクフルトのドイツ代表GKケビン・トラップは背後に陣取るフランクフルトサポーターが焚いた発煙筒の煙に視界を遮られてキミッヒのシュートに反応するのが遅れてしまった。サポーターの盛り上がりが逆にチームの足を引っ張ってしまうとは、なんとも皮肉だ。

 ベンジャマン・パバールが強烈な右足シュートで2点目を決めると、スタジアムが騒然とした雰囲気に包まれる。逆にフランクフルトはブラジル人DFトゥタのヘディングがゴールバーを直撃し、リンドストロムの対角シュートがゴール左へ外れるなどして好機をものにできない。バイエルンの新戦力であるセネガル代表FWサディオ・マネ、19歳の“新星”FWジャマル・ムシアラ、チームの“重鎮”FWトーマス・ミュラーが次々とゴールを決め、前半終了時点でスコアは5-0。ハーフタイムにはフランクフルトサポーターの1人がピッチへ乱入し、それをスチュワードたちが止めたのを見たゴール裏のほかのサポーター数十人が激昂して乱入者を救うためにピッチへ雪崩れ込むなど、異様な混乱も起こった。

 大量リードを奪ってペースダウンしたバイエルンに対し、フランクフルトのグラスナー監督は後半開始からドイツ人DFクリストファー・レンツ、クロアチア代表MFクリスティアン・ヤキッチ、フランス人FWコロ・ムアニの3人を投入し、ムアニが移籍後初ゴールを決めて1点を返した。

 しかし勢いは持続しない。その後、コスティッチに代わってドイツ人FWファリデ・アリドゥ、そして最後の5人目でトゥタに代わって長谷部が投入された時点でウォーミングアップしていたフランクフルトの控えメンバーがベンチへ引き上げ、試合はムシアラがホームチームの息の根を止めるゴールで締め、6-1でバイエルンが快勝した。

長谷部も鎌田の巻き返しに期待

 ボランチのローデに代わって途中出場したのは同じくボランチのヤキッチ。ゲッツェはフル出場したがバイエルンに一矢報いることができなかった。そして、ゲームチェンジャーとしても名高いはずの鎌田には結局、出場機会が訪れなかった。

 試合終盤に足の違和感があるトゥタに代わって出場した長谷部が、試合を振り返る。

「前半の立ち上がり、自分たちが消極的になってしまった部分があります。もちろん相手が上手かったのもありますけども。自分も失点に絡んでしまいましたし」

 スタジアムの雰囲気が凄まじかったなかで、思うような結果を得られなかった点についてはこう語った。

「昨シーズンからの流れで、ヨーロッパリーグで優勝して、多くの方が自分たちのクラブに注目してくれているなかで、こういう試合をしてしまったのはすごく残念ですね。ただ、まだシーズンは長いので、切り替えていきたいと思います」

 鎌田が不出場に終わった点については「監督の意図は僕も聞いていないんですけども」と前置きしながら、チーム内のポジション争いの厳しさを指摘している。

「実際、今、ボランチと前はいい選手が揃っているので、それでポジション争いが激しくなっている。大地はこの間、(DFBポカールのマグデブルク戦)で良かったので、今日出なかったのは僕自身もちょっとびっくりしましたけども。でも、次から、また出ると思いますよ」

 メディア対応を終えた長谷部が鎌田を呼びに行ってくれたが、すでに鎌田はロッカールームから引き上げてしまっていた。

「もう、いなくなってました、大地(笑)」

 試合終了から20分も経たずにスタジアムを離れた鎌田の所作に、憤りにも似た悔しさを感じた。それでもフランクフルトは今週水曜日にフィンランドのヘルシンキで昨季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)とUEFAヨーロッパリーグ(EL)の覇者同士が激突するUEFAスーパーカップを戦う。栄誉あるタイトルマッチの舞台に鎌田、そして長谷部が立つ可能性は十分にある。

 すっかり日が落ちた夏のフランクフルト。スタジアムの周囲に設営された屋台を囲んでフランクフルトサポーターが酒盛りしている。彼らは試合終了直後、大敗を喫したチームに向けて熱く愛情深いアイントラハト・フランクフルトのコールを5分間以上に渡って浴びせた。

 シーズンはまだ始まったばかりだ。フランクフルトはクラブ、チーム、サポーターが三位一体になって、意義深い、2022-23シーズンの冒険に出る。(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)