102試合を消化し、55勝45敗2分け(8月7日時点、以下同)。パ・リーグのトップの西武が2019年以来となるリーグ優勝へ好調を維持している。

 1980年代から1990年代にかけて、黄金時代の西武をチームリーダーとしてけん引した石毛宏典氏に、現在のチーム状況や課題、キーマンになりうる選手、優勝するために大事なことを聞いた。


石毛さんがリーグ優勝へのキーマンのひとりに挙げた外崎修汰

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――貯金10で首位を走る西武。現状、この位置にいる要因は何だと思いますか?

石毛宏典(以下:石毛) やはり投手力でしょう。郄橋光成、與座海人、松本航、(ディートリック・)エンス、そして今井達也が帰ってきました。リリーフ陣も、今季から登板機会が増えた水上由伸、本田圭佑、佐々木健のほか、森脇亮介、平良海馬、増田達至と揃っています。それぞれが任された場面でいい仕事をしていますし、12球団ナンバーワンのチーム防御率(2.49)につながっていると思います。

――ここまでの貢献度が高い選手を、野手と投手で挙げるとすれば?

石毛 野手は山川穂高です。投手では郄橋がエースとして先発ローテーションを守ってきているし、松本も頑張っている。ただ、ひとりで貯金を5つ作って、キャリアハイを更新中の與座の貢献度が高いかな。防御率も1点台(1.97)と安定しています。今のところは山川と與座の"沖縄勢"がチームを引っ張っていますね。

――山川選手が復調した要因は?

石毛 2018年と2019年にホームランを40本以上、120打点以上を挙げてリーグ優勝に大きく貢献しました。ホームラン王のタイトルも獲れたし、好成績を残しましたが、「さらに向上したい」という気持ちから、バッティングのさらなる改善を試みました。しかし、それでおかしくなってしまった。プロ野球選手なら誰でもそうなんですが、結果を出した人間が陥る落とし穴なんです。

 そこから立ち直るまでに2年かかりました。いろいろと試行錯誤をして、「これは取り入れる、これはもう使わない」と取捨選択することも覚えたんだろうし、そのなかで「俺のスタイルはこれだ」と信じられるものを確立できて、落ち着いたんじゃないですかね。技術的にも精神的にも、吹っ切れたんじゃないかと思います。試合中の表情も明るいですし。

森と外崎がキーマン

――開幕前、石毛さんに期待する選手を聞いた際、ドラフト1位ルーキーの隅田知一郎投手を挙げられていました。開幕当初はいい投球を見せる試合もありましたが、1勝7敗と苦しみ、現在はファームで調整中です。

石毛 勝ちは拾えていませんが、投球はクレバーで打者を打ち取る術は心得ているように見えました。本人も投げていて「これは通用する」という手応えを感じたはずです。自分の投球を信じてやればいいのですが、裏をかこうとしたり、考えなくていいようなことを考えてしまって墓穴を掘るような場面も見られました。プロに入った選手の誰もが通る道なんです。

 今はファームで投げながら頭のなかを整理している最中でしょうが、投球の組み立ては大きくは変わらないと思います。大きな問題は、内面的なものじゃないかなと思いますけどね。

――好調な投手陣をリードする森友哉選手の存在も大きい?

石毛 古賀悠斗や柘植世那もいますけど、捕手はやっぱり森が中心にならないといけません。過去にはバッティングに専念したいという気持ちがあったり、打たれた配球とかを考えてノイローゼになることもあったようです。ですが、同世代のチームメイトに励まされたこともあって、捕手という仕事に向き合って頑張っているようです。そんな気持ちを首脳陣もわかっていますよね。

 好調な投手陣をリードしているという意味でも森はキーマンだと思います。あとは外崎修汰が頑張れば、という気がします。

――その理由は?

石毛 確かに山川はいいのですが、山川以外は好調と言える打者がなかなか出てこない。投手陣が頑張ってくれていますが、夏場で疲れも出る頃ですし、チーム全体でもう少し打って投手陣をラクにしてあげないといけません。ここ数試合は外崎に1番を打たせていますが、本来はポイントゲッターとして5番か6番に外崎が入る形がベストだと思います。

 打率が2割そこそこ(.226)で、出塁率が3割そこそこ(.303)、打点も少ない(31打点)状態ですが、打席数の多い1番で状態が上がったら山川のうしろあたりを打たせるのがいいかなと。

西武の打者たちの課題

――1番打者はなかなか定着せず、開幕は鈴木将平選手が入り、以降は源田壮亮選手、岸潤一郎選手、山野辺翔選手、川越誠司選手、若林楽人選手など多くの選手が起用されてきました。

石毛 打線のなかではもちろんクリーンナップも大事ですが、1番打者も重要なんです。ヤクルトは塩見泰隆が1番に定着してから打線がより一層よくなりましたし、昨年のオリックスは福田周平がよかった。今年、ソフトバンクがいい時は三森大貴が、楽天がいい時は西川遥輝がよく打っていました。1番がいいと、チームの得点力が向上するんです。

 しかし西武の場合は、鈴木なのか川越なのか、若林にするのか、全然定まっていません。辻発彦監督(「辻」は1点しんにょう)の悩みの種だと思いますね。

――現状、1番打者として適任の選手は?

石毛 昨年の序盤、若林を1番で起用していましたけど、膝をケガしましたよね。今年ようやくケガが癒えて1軍に上げたら、昨年のバッティングスタイルとは違って、ブンブン振り回すようになった。若林のバッティングが昨年のような感覚に戻ってくれば、1番を打たせてもいいかなと思いますが、現状だと厳しいです。

 川越や愛斗なんかもそうですが、「当たればホームラン」みたいな感じでブンブン振り回していますけど、確率が悪いです。フルスイングがプレースタイルなのか、こだわりなのかもわからないけど、それでは首脳陣の信頼は得られません。

 辻監督は1番に定着できるような選手を育てないといけません。辻監督は現役時代にいい1番打者でしたが、彼そのものが自分のプレースタイルを変えた人間で、それによってプロ野球で飯が食えるようになった。そういった自分の経験値を若い選手たちに伝えていってほしいんです。

 ブンブン振って三振ではなく、バットを少し短く持って逆方向にファールを打って1球でも多く投げさせるとかね。今年は「投高・打低」という傾向が強いですが、1球目からブンブン振っていくような淡白な打撃もその要因のひとつだと思いますよ。

優勝に必要な「教育」

――1番打者には、1番打者の役割がある?

石毛 近年は「2番打者最強説」なんかもあって、「2番打者にバントをさせたらもったいない」などと言われることもあります。確かにそれも一理あるかもしれませんが、1番から9番まで打順の役割があるならば、その役割に徹した教育が必要です。

 個々の選手の個性を活かすことももちろん大事なことですが、首脳陣はそれぞれの打順の役割を教育して打線を作っていかなければなりません。今の打線を見ていると淡泊で仕方がないんです。

 選手だけに任せていたら、アマチュアでもプロでもいいチームは作れない。教育をしていくなかでの実践はいいと思いますが、「お前たちの人生だから頑張れ。全部任せるぞ」みたいな感じでいくと、いい人間もいい選手もそうそう育たないですよ。

――守備についてお聞きしますが、今季は失策(リーグワーストの67個)が目立ちます。

石毛 捕球のエラーにしろ、送球のエラーにしろ、改善をしなければいけませんし、訓練が必要です。昔はエラーをしたら翌日早めにグラウンドに来て、担当コーチからノックを受けるということがありました。たとえ改善しなくても、エラーをしてチームに迷惑をかけた、あるいは負けてしまった、というものをチームで共有していました。チームをひとつにまとめていくには、そういったことも必要です。

――石毛さんは現役時代に西武のチームリーダーとして、11度のリーグ優勝、8度の日本一を達成されています。優勝を目指す上でのコンディション作りや気持ちの持っていき方で重要なことは?

石毛 現場の首脳陣、選手、そして球団が、「優勝したい」とどれだけ強く思うかじゃないですか。ベンチに仰け反って座っているのではなく、「頼むぞ、抑えてくれよ。打ってくれよ」と前のめりになっていかないと。ベンチから「気」を送るって言うと、「今はそういう時代じゃありませんよ」と思う人もいるかもしれませんが、やっぱりそういう気持ちの表れが、全体の気となって相手を押していくわけですから。

 だから、それも教育なんじゃないかな。チャンスやピンチの時なんかに、中村剛也や栗山巧がタイムリーに言葉を投げかけることができるか。チームのリーダーは監督なので、辻監督が自分で言うのもそうですし、担当コーチ、キャプテンの源田に言わせるのもそのひとつです。

――2018年と2019年は辻監督のもとでリーグ優勝をしていますし、優勝を経験しているメンバーが多いです。その経験が生きてくる?

石毛 そうですね。優勝を経験しているメンバーが多いことは有利に働くと思います。監督やコーチ、キャプテン、ベテランたちが、いかにチームをまとめていくかが大事ですね。