1年生ながら女子400メートル障害9位に入った八王子学園八王子・村松瑠奈【写真:荒川祐史】

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インターハイ陸上女子400m障害決勝進出「今は感謝でいっぱいです」

 陸上の全国高校総体(インターハイ)第3日は5日、徳島の大塚スポーツパーク・ポカリスエットスタジアムで行われ、女子400メートル障害決勝でユニークな行動を取る選手がいた。1年生で唯一のファイナリストになり、9位に入った村松瑠奈(八王子学園八王子)はレース直前、他8選手の紹介中に拍手を繰り返した。その理由には、陸上競技と一緒に走る選手たちに敬意を忘れない、まっすぐな心があった。

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 この舞台を走ることすら信じられない、1年夏のインターハイだった。

 9人で争われた400メートル障害決勝。4レーンから飛び出した村松は、懸命に8人の先輩に食らいついた。武器はラスト100メートル。しかし、真夏の2日間3レースの疲労は、1年生の体に堪えた。3、4コーナーで内から伸びてきた選手の圧力に焦りもあり、伸び切れず1分00秒97の9位。

 それでも、額に黄色い母校のハチマキを巻いた顔は、屈託のない笑みに埋め尽くされていた。

「今年、インターハイに出られると思っていなかった。(400メートル障害を)始めたばかり。皆さんの応援、サポートがあってこそなので、今は感謝でいっぱいです」

 謙虚に振り返ったレースの直前。一つ、印象的なシーンがあった。

 1レーンから順番に学校と名前が場内で紹介されていく。すると、村松は胸の前で手を叩き、観客と同じように一人一人に拍手を送った。通常はレースに集中し、自らの世界に入り込んでもおかしくない。しかし、4番目に自分が紹介された後もそれを繰り返し、計8人の選手に拍手していた。

 理由を聞くと、目を輝かせた。

「皆さんで一緒に頑張ろうということと、私は初めての舞台で緊張があったので、皆さんレースをする方たちで一緒に盛り上げようと思って」

 走り終えた後も2年生・滝野未来(京都橘)の優勝がアナウンスがされると、苦しい表情を浮かべながらも拍手。「先輩たちの姿に憧れて、これから自分もこんな先輩方みたいになれるように日々努力していきたいと思いました」と意図を明かし、トラックに一礼した。

過酷な400m障害の魅力は「自分の持ち味を一番生かせる気がして」

 他の選手をライバルではなく「高め合う存在」と思っている。

 そんなまっすぐな想いは、陸上への純粋な愛によって育まれた。小学校で配られた脚が速くなりたい人向けのかけっこ教室のプリントで関心を持ち、クリニックに通い始めたことがきっかけとなり、5年生から本格的に競技を始めた。

 武蔵野東中3年で出場した全中は100メートル障害16位に入ったが、以降は伸び悩んだ。転機は3年の冬。指導者の勧めで400メートル障害に転向した。わずか半年前。当初は1分3〜4秒台だったというから、高校入学当初、インターハイは「出場」が目標だったことも頷ける。

 現在は自己ベスト1分00秒35。「だんだんと記録が伸びてきて、自然とインターハイの決勝に残れるように頑張ろうと思いました」。転向からまもなく、1年夏に全国の9位になったことは大きな経験と財産になったことだろう。

 400メートルを全力で駆け抜け、なおかつ10台の障害も飛ぶ過酷な種目。その魅力を聞くと、笑みを弾けさせた。

「自分は後半に伸びることが多いので、300メートル地点で負けていても、そこから前に出られたら、自分の持ち味を一番生かせる気がして楽しいんです」

 高校3年間で目標はインターハイ優勝。今年中から来年には1分を切り、57秒台まで記録を伸ばしたいという。周りからは「抜けてるねって言われます(笑)」という素朴な性格。周りの先輩たちに「ありがとうございました〜!」と何度もペコペコと頭を下げ、レース後の待機所を後にした。

 陸上をまっすぐに愛する1年生。まっさらなキャンバスに残された成長の余白は、まだ十分にある。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)