ドイツのシーズン始まりを告げるのは、ドイツカップ1回戦だ。

 多くの場合、1部や2部のトップチームが下部リーグのホームで公式戦を行なう。ふだんのリーグ戦とは違い、まるでフレンドリーマッチのようなどこか牧歌的な空気が漂う。

 そのドイツカップ1回戦で、シャルケはアウェーで4部のブレーマーSVと対戦。吉田麻也は新加入ながらキャプテンマークを巻いて90分間プレーした。初公式戦だったが、5−0の勝利はその役目を果たしたと言っていいだろう。


ファン感謝デーでリラックスした表情の吉田麻也

 試合後、ミックスゾーンに現れた吉田は、笑いながら第一声を放った。

「グーテンターク(こんにちは)」

 これ以上のドイツ語は話せないそうだ。

 試合を振り返っていく。

「いやもう、典型的なカップ戦(初戦)という感じで。質よりもフィジカル的な要素が多くて、その分、前半で試合を決められたのは大きかったですね。

 後半は(前半で)早くに点が入ったので戦いやすくなりましたけど、ほかのカップ戦を見ててもなかなか、シュツットガルトもレバークーゼンも苦戦していたので、そうはなりたくないな、という入りだったんですけど(後半の序盤は少々苦戦)。うまくいい形で試合に入ったのでよかったです」

 吉田の言葉どおり、特に戦術的にピンチになるわけではないが、それでも相手は屈強であったり、対人に強かったりはする。気は抜けないが、質が高いわけではない試合だった。

 試合は立ち上がり3分、12分と立て続けに点を奪い、相手の戦意を落とすとそのまま33分、39分と得点し、前半のうちに試合を決めた。

 後半に入り、危ないシーンはいくつかあった。ペナルティエリアに侵入され、1対1で吉田が対応したが、フェイントからのシュートを許した。また、相手のシュートを吉田が足でカットしたところ、枠すれすれに飛びひやりとさせられた。だが、10分過ぎに落ち着くと試合はそのまま進行し、83分に追加点を奪って5−0で勝利した。

吉田麻也と内田篤人との違い

「(立ち上がりに点が入ったことが)一番よかったなと思いますね。後半の入りはちょっとよくなかったし、ああやって点差も開いてオーガナイズが難しくなったんですけど、後ろはゼロで抑えられたのはよかったですし、僕個人的にも90分プレーするのは今シーズン初めてだったので、よかったと思います」

 新加入としての初公式戦ながら、吉田はキャプテンマークを巻いた。だが、キャンプ中からすでにただの新人としての扱いではなかったと言う。

「キャンプの時からリーダーシップメンバーみたいなのに入って、そのあとに『第3キャプテン』と言われてたんで、キャプテンとなるダニー・ラッツァと副キャプテンのシモン・テロッデがケガしたことによって、そうなる(自身がキャプテンマークを巻く)だろうな、というのはありました」

 早くも信頼は感じているが、ここで気を引き締め直す。

「監督やチームメイトは、今までの僕のキャリアに対してリスペクトを払ってくれているというのはありますけど、大事なのはね、今とこれからなので。このシャルケでポジションを確立しなきゃいけないし、まわりを納得させられるパフォーマンスを出さなきゃいけないので、そういう意味ではプレッシャーも今日はありましたけど、ひとつ結果が出てホッとしています」

 そう言って胸をなでおろした。

 かつて吉田にとって、シャルケは憧れの存在だった。2011年から親友・内田篤人がプレーし、ブンデスリーガだけでなくチャンピオンズリーグなどで活躍した。

 ちょうど同時期、クルマで1時間もかからないオランダのフェンロで吉田はプレーしていた。オランダ1部だが、下位をさまようことも多かった。サッカーの質も、クラブの規模も、雲泥の差。当然、収入、スタジアム、ステイタスの違いは歴然としていた。

「同じ欧州組って言っても、ウッチーとは全然違いましたからね。いつもおごってもらったし」

 CLに出る内田を観戦しに行ったことも一度ではない。

30代シャルケでの新たな挑戦

 だが、そのシャルケで今度は自分がプレーすることになった。

 まさかのシャルケ入団、と問いかけると、

「まさかのシャルケ」

 吉田はオウム返しに言って笑った。

「かつてはね、こーんなちっちゃな内田選手を見ていたので」

 と、言いながら親指と人差し指で隙間を作り、スタンドからピッチがいかに遠かったかを説明する。

「そこに立てると言うのは、すごく楽しみでもあるし。まあ、ただ歳も歳なので1年1年、毎年勝負なので、しっかりとまずはいいスタートをきって結果を出して、いいシーズンにしたいですね。よろしくお願いします」

 吉田は頭を下げて、この日のミックスゾーンを締めくくった。

 20代前半の頃とは違う。フェンロから、サウサンプトン、サンプドリアを経てのシャルケ入りには期待が高まる。今季のシャルケは以前のようなキラキラ感はなく、あくまで2部から昇格してきたばかりのチームだ。

 かつて親友が活躍したそのクラブで、吉田の新たな挑戦が始まる。