2024年度から電動キックボードなどの新モビリティに「特定原付」という新たな区分が設けられます。“ほぼ自転車扱い”になるものの、「原付」とするからには課税対象になるのでしょうか。その検討が始まっています。

スタートは2024年でも、課税議論は今!

 2022年の第208回国会で成立した改正道路交通法は、電動キックボードなどを「特定小型原動機付自転車」と位置付けました。今後2年以内に、免許不要で16歳から乗車できるようになります。
 
 現在の道交法では原付バイクと同じ扱い(シェアサービス提供車両は小型特殊自動車)ですが、「特定小型原付」が実現すると、運転資格や方法は自転車並み。電動キックボードように原動機付自転車として課税することの是非を巡って検討が始まっています。


原動機付自転車のナンバーがついた電動キックボードと、バイク(中島みなみ撮影)。

 電動キックボードは、現行の道路交通法と道路車両運送法で原動機付自転車に位置付けられています。原動機付自転車は地方税法で軽自動車税が課されるので、ナンバー付きの電動キックボード所有者にはその支払い義務が生じます。定格出力0.6kw以下の電動キックボードの軽自動車税は、排気量50cc以下の原付バイクと同じく年2000円です。

 しかし、2024年に施行される改正道交法で、電動キックボードは「特定小型原付」という新しいカテゴリーに分類されることになりました。

 この特定小型は、今までと同じ乗り物なのか新しいのか、というところで考え方が大きく分かれます。原付の名前がついている以上「原動機付自転車」である、という主張も一方でありますが、たとえばモーターが付いているアシスト自転車は「自転車」扱いです。

 電動キックボードはフル電動であるものの、最高時速はアシスト自転車がアシスト力の上限とする24km/hよりも遅い最高時速20km/hになるほか、運転資格も16歳以上で免許証不要であることを考えると、性能面も運転条件面でも、排気量50ccのバイクと同じ乗り物とは思えません。

 現行の電動キックボードの課税は、道路運送車両法で「原動機付自転車」と位置付けられていることが課税の根拠とされていますが、道路運送車両法を担当する国土交通省は、特定小型原付としての電動キックボードの取り扱いについて今のところ明言していません。

あいまいな「原動機付自転車」の定義 行政が縦割り解釈

 では、そもそも原動機付自転車について、なぜ税金を支払わなければならないのでしょうか。電動キックボードなど新しいモビリティの課税を担当する自治税務局自動車税制企画室は、こう説明します。

「原付としての財産的価値があり、それを購入する人には担税力(税金を負担する力)があること。走行すれば道路も損傷するので、その財源ともなっている」

 原動機付自転車の名称は、自転車にエンジンを付けてバイクのように乗ったことに由来します。太平洋戦争後の二輪車の黎明期には中小のメーカーが群雄割拠し、自転車に取り付けるためのエンジンが販売されていたほどです。

 現在の原付バイクのように車両が進化しても、名前だけは残されました。その実態を追認する形で総務省、市区町村、国家公安員会、国土交通省がそれぞれの解釈を用いて、担当する法律のなかだけで整合性が取れるように「原付」を定義しています。

 改めて電動キックボードなどの「特定小型原付」は原動機付自転車なのか。金子恭之総務大臣に質しました。


総務省は電動キックボードをどう定義づけるか(中島みなみ撮影)。

「現行の地方税法上では道路運送車両法の原付を課税対象とするので、電動キックボードなども軽自動車税の課税対象になっている。一方で、道路交通法が改正され、電動キックボードが特定小型原動機付自転車として新たに区分されることをふまえて、その課税をどのようにするかは、今後の税制改正プロセスの中で議論する」

 税制改正プロセスとは毎年、予算編成作業と並行して実施する税制改正の作業のことで、自民党や公明党の税制調査会などが議論し、12月に公表する税制改正大綱に反映されます。金子大臣の回答は、「現在はその結果待ちであり、今のところ総務省としての判断はない」ということを意味します。

なし崩しで課税になっちゃう?

 しかし、電動キックボードを課税対象にすべきか否かを議論するためには、そもそも「電動キックボードが何か」を事務局である総務省が示さなければ議論することはできません。

 警察庁は電動キックボードをはじめとする新しい乗り物についての議論を、足掛け3年にわたって続けて、特定小型原付という新しいカテゴリーを定義しました。充分とは言えませんでしたが、そのプロセスは国民に公開されています。それでも電動キックボードについての認識は混乱しています。


金子恭之総務大臣(中島みなみ撮影)。

 総務省自動車税制企画室は「関係者からヒアリングは進めている」というものの、過去一度も電動キックボードについての考え方を国民に示してはいません。

 税制改正プロセスでは、すべての税が議論の対象となります。電動キックボードは数あるひとつ。従来の原動機付自転車とは違う「特定小型原付」をいっしょに議論してけば、時間切れで結論だけが示される可能性が高いです。これまでになかった新しい乗り物を社会に実現させていこうとする動きに、総務省はどう対応していくのか。その姿勢が見えません。