タレントに勝負強さが加わった前橋育英

 徳島県で行なわれた、高校サッカーの夏のインターハイは、前橋育英(群馬県)の13年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。


前橋育英が帝京を下して、この夏のチャンピオンに

 前橋育英は今シーズンが始まる前から評判が高く、高円宮杯U−18プレミアリーグ、インターハイ、高校サッカー選手権の3冠を目指せるチームと言われていただけに、今夏の結果は妥当だと言える。

 では、各チームの春先から比べての変化や、今冬の高校サッカー選手権の争いはどのようになっていくのだろうか。インターハイの戦いぶりを振り返りながら、有力校の現在地を確認していきたい。

 今季の前橋育英は、関係者の誰に聞いても、頭ひとつ抜けているという評価が多く聞かれた。その理由のひとつが中盤と前線にタレントを擁していた点だ。

 チームの核はボランチのMF徳永涼(3年)。U−18日本代表候補に選出され、Jクラブも熱視線を送るプレーメーカーは、高校年代ではトップクラスの実力を誇る。パスを受けてよし、出してよしの俊英は攻撃面だけではなく、守備能力も高い。攻守が一体となったサッカーを標榜する前橋育英において、チームには欠かせない存在だ。

 徳永の周りを固めるタレントも、高さと技術を併せ持つFW小池直矢(3年)、俊敏性が魅力のFW高足善(3年)を筆頭に実力者が揃う。今大会は1回戦から警戒され、守備を固めてくる相手に手を焼いたが、きっちりとゴールをとりきって勝利を重ねてきた。

 準決勝の米子北(鳥取県)戦こそ無得点に終わったものの、守備陣が零封してPK戦で勝利。今までの前橋育英だと、圧倒的に押し込みながら一瞬の隙を突かれて失点するケースもあったが、粘り強く戦いながら勝利を引き寄せられたのは、今大会で備わった強みだろう。決勝では帝京(東京都)に対して押し込みながら最終盤までゴールを奪えなかったが、0−0で迎えたアディショナルタイムに高足が決勝弾を奪った。

 今季はプレミアリーグEASTに初参戦ながら、上位争いを展開している点も大きい。高体連の強豪校やJクラブの育成組織と、毎試合のようにハイレベルな攻防を繰り広げてきた。山田耕介監督は言う。

「プレミアリーグを戦うことで、今までよりも細部にこだわれるようになった。今まであったちょっとしたずれ、(DFラインの)何mの押し上げとか、ちょっとしたパスコースとかを僕が映像で見て振り返って、選手もそれを理解できるようになったと思う」

 そうした積み重ねがあったからこそ、今大会では余裕を持ってプレーできた側面がある。冬の高校サッカー選手権では追われる立場で、ライバル校からマークされる存在になるが、今大会はケガ明けでフル稼働できなかった、昨年度の日本高校選抜でプロから注目されているボランチ、根津元輝(3年)の完全復活も見込まれる。

 中盤のポジション争いは今まで以上に厳しくなり、そうした競争がチームをさらに強くするはず。油断大敵だが、伸びしろは無限大だ。

守備陣に成長が見られた帝京

 一方、準優勝を果たした帝京は、今大会を通じて最も力をつけたチームと言える。もともと下馬評は高く、今年の3年生は入学当初から黄金世代と言われていた面々だ。

 今大会は、破竹の勢いで激戦区を登りきった。2回戦では青森山田(青森県)に1点ビハインドから2発を叩き込んで逆転勝利し、準決勝では昌平(埼玉県)を1−0で下すなど、優勝候補を軒並み撃破。一戦ごとに自信を深め、19年ぶりにファイナルの舞台へと進んだ。

 テクニックに定評がある主将の伊藤聡太(3年)、プロ注目のストライカー・齊藤慈斗(3年)といった攻撃陣のタレントに目が行きがちだが、今夏の収穫は守備陣の成長だろう。大会序盤は相手の勢いに飲まれ、短時間に連続失点するケースも珍しくなかったが、準決勝では今大会屈指の攻撃力を持つ昌平を零封。決勝でもGK川瀬隼慎(2年)、センターバック(CB)大田知輝(3年)を軸に守り、前橋育英をギリギリまで追い詰めた。

 日比威監督も準決勝後に「体を張って守っていた。(昌平に対して)2点ぐらいとられてもおかしくなかったけど、体を投げ出してよくやってくれたと思う」と振り返り、守備陣の奮戦ぶりに目を細めた。

 しかも、今大会はコンディションが万全ではなかったCB藤本優翔(3年)など守備陣のレギュラー格が数名不在。彼らが本来の姿を取り戻せば、冬に向けて上積みが見込める。ポジション争いもさらに激化するだけに、守りがさらによくなる可能性を秘めている。

 2018年度以来のベスト4入りを果たした昌平も、今夏に評価を高めたチームのひとつだ。今年の3年生はチームの育成組織にあたるジュニアユースチーム、FCラヴィーダでプレーしていた選手がほとんど。しかも中学3年時に、クラブユースU−15選手権で初出場ながらベスト8に入った世代だ。

 この埼玉の強豪は、FC東京入団内定ですでにルヴァンカップでJデビューを果たしているドリブラーのMF荒井悠汰(3年)らが順調に成長を遂げ、春先から期待が高まっていた。プリンスリーグ関東1部でもJリーグチームを抑えて首位を快走。

 今大会も安定した戦いを見せ、攻撃陣が大会序盤から爆発。毎試合のように複数得点を奪い、日章学園(宮崎県)との3回戦では1−2と逆転を許した状況下で後半のクーリングブレイク直後に畳み掛けて5ゴールを奪って勝利を手繰り寄せた。

 守備陣も、キャプテンのCB津久井佳祐(3年)とU−17日本代表候補のCB石川穂高(2年)を軸に身体を張った守りを披露。準々決勝の大津(熊本県)戦ではGK上林真斗(3年)が好セーブを見せ、期待に応えた。

 準決勝では帝京に敗れたが、昌平も冬に期待できるのは間違いない。ただ、不安材料は守備陣の再編だ。準々決勝の前半に津久井が右足首を脱臼し、外側の靭帯を断裂する大ケガを負ってしまった。3番手のCB今井大翔(3年)も負傷で今大会に出場できておらず、当面の起用は難しい。今大会はCB佐怒賀大門(2年)が津久井の穴を埋めるべく奮闘したが、初の全国制覇を見据えるのであれば選手層の拡充、底上げが急務になるはずだ。

ベスト8の大津、矢板中央も冬に向けて可能性

 そのほかでは、昨年の準優勝に続いてベスト4に入った米子北(鳥取県)も堅実な戦いぶりで評価を高めた。前線からのハイプレスとリトリートする守備を使い分け、準決勝では優勝した前橋育英を零封している。PK戦で敗れたものの守備の質は今大会屈指のレベルで、冬の巻き返しは不可能ではない。

 ベスト8では、大津と矢板中央(栃木県)も冬に向けて可能性を感じさせたチームだ。

 大津は昨冬の高校サッカー選手権で準優勝を経験したメンバーのほとんどが卒業したため、イチからのスタート。加えて今季は1年生の大型CB五嶋夏生など、経験が浅い選手たちを積極的に起用しながら先を見据えたチーム作りも行なっていた。

 そうしたなかでプロ注目FWの主将・小林俊瑛(3年)を軸に今夏は一戦ごとに成長を遂げ、ベスト8まで勝ち上がった。「今じゃないですから」とは平岡和徳総監督の言葉。冬に向け、成長の肥やしになる経験はできたはずだ。

 矢板中央も、大津同様に昨季のレギュラーが多く抜けたチームだ。だが春先以降、プリンスリーグ関東1部を戦い、Bチームも同2部に参戦して昨季以上の経験を積むことができた。競争力が高まった結果、チーム力がアップ。今大会は伝統の堅守速攻とセットプレーを武器に、優勝候補の一角である東山(京都府)を撃破。全国舞台でも戦える力があることを証明した。

 早期敗退組では履正社(大阪府)と東山が、冬に向けて期待を抱かせるパフォーマンスを見せていた。履正社はプロ注目のアタッカーのMF名願斗哉(3年)、スプリント能力に長けるFW古田和之介(3年)がチームを牽引し、2回戦では神村学園(鹿児島県)を2−0で撃破。相手の武器であるパスワークを封じながら、攻守一体となったサッカーで相手につけ入る隙を与えなかった。

 惜しくも3回戦で湘南工科大附(神奈川県)にPK負けを喫したが、190cmの大型CB平井佑亮(3年)が大会途中に負傷しながら勝ち進めたのはプラスの材料。万全の状態で挑めていれば4強入りも現実的だっただけに、ここからの戦いぶりに注目したい。

 東山はセレッソ大阪内定のMF阪田澪哉(3年)らを擁した攻撃力が評価され、優勝候補の一角に挙げられていた。今大会は3回戦で矢板中央にPK戦で敗れたが、攻撃陣の破壊力はやはり全国屈指のレベル。相手に守りを固められた際の崩し方のバリエーションを増やせれば、冬に周囲を驚かせる結果を残す可能性は決して小さくない。

青森山田の巻き返しはあるか?

 今大会思うような結果を残せなかったのが、青森山田と神村学園だ。

 昨季のチームが三冠を達成した青森山田は選手が大幅に入れ替わり、イチからのスタートでシーズン開幕当初から苦戦を強いられてきた。プレミアリーグEASTでは大量失点を喫するゲームも散見。「今年は難しい」と黒田剛監督も選手たちに奮起を促していた。

 そして、長期離脱をしていた、主将で昨季からレギュラーを務めるCB多久島良紀(3年)が、6月に復帰したことでチーム状態が上向きに。リーグ戦でも勝ち点を積み上げ、いい形で夏の全国舞台に入ってきた。だが、結果は初戦となった2回戦で帝京に逆転負け。昨季のような勝負強さはまだ身についておらず、冬に向けて課題を残した。

 同じく2回戦で姿を消した神村学園は、国内外のクラブが注目する高校ナンバーワンストライカー・福田師王(3年)と、C大阪入団内定のMF大迫塁(3年)を擁し、優勝候補の一角に挙げられていたチームだ。

 しかし、今大会前に新型コロナウイルスの感染拡大の影響でトレーニングが思うように行なえず、万全な状態で大会に挑めずに敗退。自分たちのスタイルが封じられた時にいかにして戦うかといった面や、守備陣の強度に課題を残しており、新たな選手の台頭を含めてさらなるチームの強化が必要だろう。

 今大会で結果を残したチームもいれば、期待に応えられなかったチームもある。もちろん、今大会に出場できなかった流経大柏(千葉県)や東福岡(福岡県)といったプレミアリーグ勢も、このまま引き下がるつもりはないだろう。未知なる新鋭校も虎視眈々と冬の活躍を狙っている。高校サッカー選手権まで約5カ月。若きサッカープレーヤーたちは冬の大舞台に向け、これからも走り続ける。