7月30日、横浜。J1リーグ第23節、2位の鹿島アントラーズは、首位を走る横浜F・マリノスの本拠地に意気揚々と乗り込んだが、2−0と返り討ちに遭っている。

「完敗」

 それが鹿島陣営から出てきた試合の総括だった。じわじわと局面の戦いで敗れ、流れをつかめず。勝ち点差は8ポイントとなり、意気消沈するのも無理はない。

 鹿島の反転攻勢はもうないのか?

 鹿島が有力チームである事実は変わらない。E−1選手権の日本代表にはひとりも選ばれなかったが、それはどこか不当にも映った。鈴木優磨、樋口雄太、安西幸輝、三竿健斗などは実力者と言えるし、ディエゴ・ピトゥカらブラジル人選手たちも手練ればかりだ。

 しかしながら、レネ・ヴァイラー監督のチームデザインがはっきりと見えない。コロナ禍で来日が遅れ、プレシーズンからチームを作っているわけではないので、情状酌量の余地はあるにせよ、バックラインから単純にボールを蹴り込み、セカンドボールを拾って......という個人の力量やひらめきへの依存度が高すぎる。悪く言えば、場当たり的なのだ。


鹿島アントラーズの攻撃を牽引する鈴木優磨だが、横浜F・マリノス戦は不発に

<ボールをつないで運ぶ>

 その一点だけを見ても、組織としての練度は「代表7人」の横浜FMと比べると劣っていた。

「時間が経つにつれて、マリノスのリズムになっていきました。前半の前半のチャンスを決めていたら、展開は変わっていたかもしれませんが。マリノスはボールを動かせるし、湧き出てくるような攻撃ができるので......」(鹿島・土居聖真)

 鹿島はいくつかパンチを繰り出したが、クリーンヒットはしなかった。序盤、鈴木が前線左サイドでボールを収め、右に展開した後、クロスを再びファーサイドで受け、落としたボールを......というシーンは際どかったが、GKを脅かすことまではできていない。球際でガチンコ勝負したが、カウンターを仕掛けようにも再びボールを失い、次第に個々が劣勢に立たされた。

 前半37分に先制点を奪われた場面では、GKクォン・スンテのキックが直接、相手MFに渡ってしまう。これをダイレクトでつなげられて、ブラジル人コンビのワンツーにディフェンスがつききれず、折り返しをゴールに放り込まれている。GKだけでなく、他の選手もポジションを取れておらず、必然の失点だった。

歴然としていた「つなぐ力」の差

「厳しいシナリオの試合になったと言える。結局は自分たちのミスで失点を招いた。そして後半、早い時間帯に2点目を失い、難しい状況になってしまった。そこで相手は有力な選手を投入し......」(ヴァイラー監督)

 後半6分には、相手のセットプレーを一度は頭で跳ね返したものの、味方のボールを受けた樋口が、エリア内で痛恨のコントロールミス。そのまま回収され、岩田智輝にミドルシュートを蹴り込まれた。

 墓穴を掘ったに近い失点と言えるだろう。

 選手の士気が低かったわけではない。その証拠に、猛暑の中で走行距離やスプリント数は拮抗していた。ただ、パスの本数は200本以上、横浜FMよりも少なかった。それだけでなく、成功率も約60%で、17%以上も低かった。ボールを持ち運ぼうとする攻防において、その差は歴然だった。

「90分間でボールを保持する回数を増やせるように、もっと突き詰める必要がある」(鹿島・樋口)

 鹿島はもう少し、能動的に戦える時間を増やさないと厳しいだろう。そのためのトレーニングが急務となる。個人のフィーリングでボールをつないでいるところが多く、組織性が低いため、時間を追うごとにズレが出てくる。横浜FMのような相手と戦うと、攻撃だけでなく守備の乱れも顕著になるのだ。

 もちろん、主体的に戦おうとすれば、自ずとリスクを背負うことになる。

 その点でも、鹿島は問題を抱えている。攻撃を重視するにはハイラインを敷く必要があるが、バックラインはややスピードに欠ける。そのためブロックを作って戦う試合が多かったのだろう。横浜FM戦では、前がかりで戦おうとしたが、案の定、カウンターで裏返しにされた時、いくつも危機が生まれた。先制点のシーンは象徴的だ。

 やはり、ヴァイラー監督がどこに着地点を見つけられるかがカギになる。

 ブラジル人選手の力をうまく引き出せておらず、稼働率の悪さは明白だ。日本人選手のパフォーマンスレベルも、やや低下している。現状はちぐはぐさが目立つ。

 上田綺世がいた時は前線に力点を作れていたが、上田のベルギー移籍後はそれもなくなり、各選手の距離感が悪くなった。それがパスミスにも表れ、その混乱で前線と後衛の意思疎通がなくなり、混迷を増しているのだ。

 反転攻勢のキーマンとしてひとりを挙げるなら、鈴木優磨だろう。

 鈴木はJリーグでは最も総合力の高いFWと言える。ポストワークでボールを収められるし、高さもあってターゲットになれる。サイドに流れてポイントも作れる。アシストの数も多く、ゴールゲッターとしての感覚もありあまるほどだ。

 バックラインの弱点を隠すには、やや低い位置で守らざるを得ないだろう。そこで、今よりはポゼッション率を高め、長いボールも用いる判断も向上させる。そして攻撃で鈴木を有効に用い、粘り強く戦うことだろうか。

「リーグ戦はまだ終わっていない。最後に頂点に立てるように......」(鹿島・広瀬陸斗)

 8月、鹿島はホームの2連戦に再起を懸ける。