不動産コンサルタントの長嶋修さん(左)と『正直不動産』の原案を担当した夏原武さん(右)がマンガの裏話から日本の不動産市場までさまざまなことについて語りました(写真:さくら事務所)

2022年の春ドラマで大変反響の大きかったNHKドラマ『正直不動産』。口八丁手八丁で成績を上げてきた不動産営業マン・永瀬財地(山下智久さん)が祟りに遭って嘘がつけなくなり、それまでとは逆の「正直営業」を武器に不動産業界で働く姿を描いた、同名漫画をドラマ化した作品です。

今回は、その漫画『正直不動産』の原案を担当した夏原武氏をお迎えし、一部監修を行ったさくら事務所創業者であり不動産コンサルタントの長嶋修と『正直不動産』の裏話から日本の不動産市場の話までさまざまなことを語り合っていただきました。

『正直不動産』のマンガはこちらからお読みいただけます。

『正直不動産』ヒットの理由

長嶋:ドラマ、楽しく拝見しました。不動産を扱う漫画はこれまでもいくつかありましたが、『正直不動産』が初めてのヒットなのではないでしょうか。

夏原:人間、誰しもが不動産と関わりがあるんですよね。持ち家であれ、賃貸であれ、不動産との関係がゼロですという人はいません。であれば、みんな興味があるんじゃないかなとは思っていました。

別に、不動産業界の闇を告発するとか、そういうつもりはないんです。私自身も含め、一般消費者からすると「なんでそうなってるの?」と思う部分が不動産業界には多いと思っていて、そのあたりに踏み込めばおもしろい作品になるんじゃないかなと思いました。

長嶋:多くの不動産業者がこの作品の大ヒットを喜んでいると思います。一部の、正直じゃない業者からは恨まれているかもしれませんが(笑)

夏原:ちゃんとしていない業者から、「ウチの子どもがいじめられているのは『正直不動産』のせいだ」って言われることもありました。そんなの知らんがな、ですよね(笑)

ーー「不動産経済研究所」によると、今年上半期(1月〜6月)の1都3県の新築マンションの平均価格は、一戸あたり6511万円と依然として高い状態が続いています。マンションの購入層が気にする「マンションの資産価値」はどう見たらいいのでしょうか。

長嶋:さくら事務所では新サービス「FACTORS4−マンション資産性レポート」を開始しました。相場価格、持続可能性、 居住快適性、流通可能性の4点に着目し、マンションの本質的な資産性を分析・数値化して評価するサービスです。

このところ、さくら事務所に寄せられるご相談で多いのが「このマンションをこの価格で買ってもいいんでしょうか?」というものです。みなさん、マンションの資産価値をものすごく気にされているんです。その価格に確かな根拠はあるのか、その価値は将来にわたって維持できるのか、そういう点に関心をお持ちなんですね。

ただ、「資産価値」とは何なのか。不動産は1にも2にも立地だとよく言われますが、果たしてそうなのでしょうか。

例えば、最寄り駅からのアクセス(立地)、築年数、専有面積や間取り(スペック)などがほぼ同じなのに3000万円近くの価格差が生じている例が見つかりました。

この差はどこにあるのか。私たちの分析によると、それは「管理力」の違いにあるんです。必要な修繕をすることに伴う居住快適性、修繕を含めた適切な維持管理が行われている持続可能性、そしていざ中古市場に出した時にポテンシャルが保てるかという流通可能性、これらを司るのが管理力、すなわち管理組合の運営力なのではないかと考えているんです。

夏原:なるほど。さまざまなマンションを取材していますが、同感です。新築であれ中古であれ、管理の問題はいま、大きなファクターになってきていますよね。管理会社、管理組合が正しく機能しているかどうかはマンションの相対的な価値にものすごく影響が出ているように思います。

マンションの共有部分に平然と自転車が置いてあったり、傘がかかっていたり。「ここは誰のスペースなの?」みたいな、そういう共有部分の汚さは気になりますね。

管理状況が資産価値に大きな影響を及ぼす時代へ

――国の政策としても、2022年4月から「マンション管理認定制度」というものをスタートさせました。マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合に国から認定を受けられる制度です。

長嶋:そうですね。そして、その認定結果を金利優遇に結び付けるといったことも具体的に検討されています。これまでブラックボックスだったものが、少しずつ開けてきているんです。

例えばアメリカでは、マンションの管理組合の運営状況が全て1つのデータベースで参照できる仕組みになっています。組合の運営状況が悪いと、その物件を買おうと思っていても銀行のローンが下りなかったりするんです。日本も近いうちに、そうした方向に進んでいくでしょう。

夏原:資産価値とは結局のところ、「金融が実行できるかどうか」なんですよね。長嶋さんがおっしゃるように、管理力も含めたトータルでその物件を見た時に「5000万円でローンが実行できますよ」となれば、その5000万円が資産価値になる。すごくわかりやすいと思います。

長嶋:マンション管理組合の理事や役員って、面倒な仕事だと思われていますよね。がんばっても報われない、みたいな。でも、みんなで協力して管理に参加することで自分たちのマンションの資産価値が維持されるんだと、いや、場合によっては上昇する可能性もあるんだと、そういう雰囲気になれば、考え方は変わってくると思うんですよ。

夏原:実際、うまく運営しているところはありますよね。管理組合として黒字の運営をしている。利益を生む可能性のある仕事だと考えれば違いますよね。

マンション管理に積極的に関わる人がこれからも増えていってほしい

――購入時に定められたマンションの修繕計画は内容が粗く、本来であれば管理会社、管理組合が実情に沿って精査していかなくてはなりません。ですが、新築、中古含め、購入後は組合の運営に携わっていかなくてはならないんだということが一般の方に啓発されていないようにも思います。

夏原:確かに。販売時に管理方針について説明をすることは必ずしもセットになっていないですよね。

長嶋:一部のデベロッパーは努力してやろうとしています。その一方で、マンションを買う方がそこまでの説明を求めていないという一面もあるんですよね。だったら面倒くさい説明は省いたほうがいいだろう、と。

夏原:なるほど……。

長嶋:ただ、私たちもマンション管理組合向けのコンサルティングを手がけて長いのですが、この数年で本当に一般の方の意識は変わってきました。管理の状況を確かめてから買いたいという方が増えてきているんです。

インスペクションを使用してマンションを買う方には「管理組合の理事になってください」って話をしているんです。自分たちのマンションを良くしようと思うなら、まずはそう思ったあなたが理事になってください、と。

――最後になりますが、これからマンションを買おうと思っている一般の方にアドバイスをお願いします。

長嶋:早稲田大学の調査によれば、マンションの寿命は平均65年くらいなのだそうです。ただこれは人間の平均寿命と同じ計算方法なので、50年持たずに壊してしまうマンションもあります。

そもそもの歴史が浅いので現実として築100年のマンションは存在しませんが、現在の技術、設計で建てたマンションは、管理さえしっかりしていれば100年は持つだろうと私は思っています。しっかりとした管理がなされている、持続可能性の高いマンションを選ぶようにすれば、良い買い物ができるでしょう。

夏原:専門家ではないのでアドバイスというのは難しいのですが……。「マンションを買う」ということは、「部屋を買う」ということではありません。あくまで、マンションという大きな箱の中の一部分を専有させてもらう、ということなんですよね。そう考えれば、きっとマンション全体のことが気になってくるはずです。自分もマンション管理に積極的に関わろうとか、意識が変わってきますよね。

「正直」な不動産会社の選び方

長嶋不動産業界で多くの取材をされてきた夏原さんに、最後にもうひとつ質問です。

マンション選びという難しい決断をしていく時に、どういう不動産会社を選ぶべきでしょうか。「正直」な不動産会社の選び方を教えてください。

夏原:まず言えるのは、「会社の看板だけで選ばないほうがいい」ということですね。会社が有名だからとか、企業規模が大きいからとか、そういうことで選ぶのはやめておきましょう。

「面倒くさがらない営業マンに出会うまでがんばってください」と私はよく言っています。たくさんの会社がありますが、結局は人なんですよ。お客さんのワガママに対して、できるできないも含めて真摯に応えてくれる営業マンは信頼できると思います。

逆に、「今日中に決めてください」とか、返事を急がせるような人は絶対にダメ。「時間はかかるかもしれませんが、一緒に考えていきましょう」というスタンスの営業マンがいいですね。

長嶋:『正直不動産』の月下ちゃん(月下咲良。新入社員で永瀬の部下)のような。

夏原:ええ。そういう対応を面倒くさがったり嫌がったりする営業マンはNGです。返事を急がせるというのは不動産業界のひどい習慣のひとつですよ。自分都合の。だから私、決算期の前には不動産会社に行かないほうがいいですよってよく言うんです。ヘンな物件を押し込まれるからやめたほうがいいよって(笑)

長嶋:本当に……その通りですね(笑)不動産を探す時には、プライベートの領域まで大きく踏み込んだ話をすることになります。お金の話はもちろん、日常生活の話も。ですから、そうした話を腹を割って話せる担当者を見つけられるといいですね。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))
(夏原 武 : 漫画原作者(原案))