2022年のF1は、このハンガリーGPでシーズン前半戦が終わって夏休みに入る。

 その直前に、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)が2022年かぎりでの引退を表明した。妻や子どもなどF1よりも大切なものが増え、このままF1中心の人生でいいのかという疑問がどんどん大きくなってきたといい、発表の前日に決意したという。

「この決断が正しいかどうかは、すぐにはわからないだろう」とベッテルは言うが、その表情は晴れやかだった。自分のなかに募る疑問と向き合い、そこに対してひとつの答えを出したのだから、当然のことだろう。

 人格者で知られるベッテルの引退だから、パドックのなかでも多くのドライバーや関係者たちが惜しむ声を上げた。


ハンガリーGPでリラックスした表情の角田裕毅

 アルファタウリのピエール・ガスリーも、レッドブルをよく知るベッテルには感謝していると、かつてのエピソードを明かした。

「(2016年に)GP2でチャンピオンを獲ったのにF1に昇格できないことがわかった時、彼の意見を聞きたくて彼に電話をかけたのを今でも覚えているんだ。レッドブルの状況についてどう思うか、僕はどのように対処すればいいのか、5分だけ話を聞かせてもらえればと思って電話をしたんだ。

 でも、彼は1時間半にわたっていろんなことを話してくれた。当時の彼はフェラーリのドライバーで、まだF1ドライバーにもなっていない僕のことなんて優先順位は極めて低かったはずなのに、この状況に対してどのように対処すべきか、レッドブルとどう付き合っていくべきか、90分間も話してくれたんだ。彼は本当にすばらしいドライバーであると同時に、人として優れた人物なんだ」

 角田裕毅もレッドブルやヘルムート・マルコとの関係の築き方など、レース内外を問わずアドバイスをしてもらったと、ベッテルの人格者ぶりを語る。

角田「怒り疲れてしまった」

 そのふたりが乗るアルファタウリは、1週間前の第12戦フランスGPでフロアやサイドポッドを大幅にアップデートし、一定の効果を見せた。

「FP1は前のスペックで走ってFP2から新しいスペックにしたんですが、マシンの違いは走り始めて最初のプッシュラップからすぐに感じることができました。中速、高速コーナーでのダウンフォース量の増加は感じられましたし、かなり大きな効果があったと思います」

そう語った角田裕毅はQ3に進出し、8番グリッドから決勝に臨んだものの、1周目にエステバン・オコン(アルピーヌ)に追突されて、マシンに大きなダメージを負ってしまった。

 フロアとサイドポッドが大きく壊れ、大幅にダウンフォースを失って途中でリタイアを余儀なくされてしまった。

「僕は十分にスペースを残していたんですが、彼がコーナーの進入でコントロールを失ってコーナーのなかで大きくアンダーステアを出して、そのまま僕のほうに突っ込んできました。正直言って、僕には何もできることはありませんでしたし、怒り疲れてしまいました」

 そう言って苦笑いした角田だったが、ずっと苦しみ続けてきたマシンのダウンフォース不足が改善されたのは、明らかにポジティブな要素だった。

 スペアがない状態で臨んでいただけに、ハンガリーGPまでに修復ができるのか心配されたが、アルファタウリはしっかりと新型パッケージをこの週末に間に合わせてきた。

「スペアパーツがありますし、フロアも新しいパーツです。なので、フランスGPでの事故は今週末のレースには何も影響はないですね。アップグレードパーツがハンガリーでもうまく機能してくれることを期待しています」

 ただしその一方で、ガスリーは金曜が好調だったものの土曜から原因不明のグリップ不足に苦しみ、まったくペースが上がらなくなってしまった。金曜がダメで土曜から改善した角田とは真逆だった。

 アルファタウリとしては、投入したアップグレードパッケージのポテンシャルをフルに引き出せたとは言えないフランスGPとなってしまった。だが、何が問題だったのかはある程度見えており、それを今週末のハンガリーGPでしっかりと検証するつもりだという。

理解を深めるアイデアとは?

「金曜から土曜にかけていくつか変更した点があったから、それが影響したんだと思っている。でもまだ100パーセント確実ではないから、それをここで試して確認しなければならない。

 このパッケージを理解して、ポテンシャルを最大限に引き出せるウインドウをしっかりと掴むことが、まだまだ重要なんだ。ポール・リカールでパフォーマンスが見えなかったら心配していただろうけど、金曜には速さがあったし、何が悪かったのか今回のFP1で試して理解を深めるためのアイデアはいくつかあるよ」(ガスリー)

 角田も金曜にはマシン適応に苦しんでいたように、まだチームはこのパッケージを理解しきれてはおらず、マシンのポテンシャルを最大限に引き出せてはいない。

 しかし、フランスGPの週末に収集したデータをこの4日間のインターバルで徹底的に分析し、問題点を究明する構えだ。

「ポール・リカールではマシンバランスを完璧に仕上げるのに苦しんで、性能をフルに発揮しきれませんでした。だけど、レース週末に収集した膨大なデータを元に理解を深めてきたので、今回はうまくまとめ上げて、その結果どんなパフォーマンスを発揮できるのか楽しみにしています」

 ハンガリーGPの週末は、土曜が雨の予報。つまり検証作業は、金曜日のうちにしっかりとこなさなければならない。

「これまでのウエットコンディションではいい印象を持っていますし、タイヤの準備などもどうすればいいかはわかっています。予選も決勝もウエットコンディションになったとしても、パフォーマンスが悪くなると考える理由は特にないと思います。新しいパッケージがウエットコンディションでどんな挙動を示すか、それを確認するのも楽しみです」

 夏休みを前に、アルファタウリにとっては非常に重要なハンガリーGPの金曜フリー走行になりそうだ。