韓国に3−0。これは森保一監督の解任が95%以上の確率で消滅したことを意味する結果である。喜ぶべきか否か、微妙な問題だ。

 前々回の東アジアE−1選手権(2017年12月)に臨んだハリルジャパンは、韓国に1−4で大敗。すると、それまで穏やかだった世の中は途端に騒々しくなった。

 今回と同様、メンバーは国内組。代表Aマッチに相応しい顔ぶれとは言えなかった。勝ち負けは本来、さほど重要ではなかったにもかかわらず、時の代表監督ヴァヒド・ハリルホジッチは逆風にさらされた。まさに解任の引き金となる試合となったのだった。

 森保監督にとっても、E−1選手権の韓国戦は苦い思い出がある。2019年12月、釜山で開催された大会だ。5バックの守備的サッカーで臨み、0−1のスコアで地味に情けなく敗れると、就任以来、森保監督は初めて是非論にさらされることになった。


韓国に3−0で勝利し、喜ぶ日本代表の選手たち

 国内組同士の対戦であっても韓国戦は鬼門。敗戦は身の危険につながると、森保監督が初戦の香港戦の段から、「韓国戦ありき」でメンバーをやりくりしていることが、こちらには透けて見えた。韓国戦に香港戦のスタメンをそのまま起用してくることは容易に想像できた。

 鈴木彩艶、山根視来、谷口彰悟、畠中槙之輔、杉岡大暉、藤田譲瑠チマ、岩田智輝、水沼宏太、西村拓真、相馬勇紀、町野修斗。

 この香港戦のスタメンから韓国戦で入れ替わったのは、GKの鈴木と山根、杉岡の3人のみ。山根も健康状態に問題がなければ、スタメンを飾ったものと思われる。

 悪い予感が的中したという感じだ。森保監督の本性が暴露された瞬間だった。いい監督か悪い監督かと言われたとき、後者だと言いたくなる起用法になる。当初から登録メンバーをスタメンとサブにハッキリ分けようとする思考法だ。香港戦に先発した上記の選手をAグループとするならば、2戦目(中国戦)に先発した11人はBグループになる。

 大迫敬介、小池龍太、中谷進之介、荒木隼人、佐々木翔、宮市亮、橋本拳人、野津田岳人、森島司、脇坂泰斗、細谷真大。

歴然としていたレギュラー組とサブ組

 中国戦に先発したこのなかで、小池と佐々木は第3戦の韓国戦にもスタメンで出場している。小池の場合は、病欠となった山根の代役だろうが、佐々木は森保監督のお気に入りと考えるべきだろう。ちなみに大南拓磨、岩崎悠人、満田誠の3人は言うならばCグループだ。3試合を通して1度も先発を飾ることがなかった選手たちである。

 A、B、C。各グループの顔ぶれが当初から決まっていたことが、2戦目、3戦目のスタメンを通して明らかになった。

「できるだけ多くの選手に出場機会を与える」と、森保監督は大会前に述べている。まずテストありき。それは平等な視点で選手を扱おうとする監督が発した台詞に聞こえる。ところが実際はまるで違った。招集した26人を当初からA、B、Cにしっかりクラス分けしていた。最強の韓国にAグループで臨むために。あるいは保身のために、である。香港戦及び中国戦のスタメンは、韓国戦に万全の体制で臨むための、そこから逆算して考えた答えだったのだ。U−23同然のメンバーで臨んできた弱小の中国に0−0で引き分けてしまった理由でもある。

 招集した選手を白と黒、レギュラー組とサブ組に分けて戦う。想起するのは、2018年ロシアW杯を戦った西野ジャパン。1戦目(コロンビア戦)と2戦目(セネガル戦)をAで戦い、3戦目(ポーランド戦)をB、そして4戦目で再びAに戻して戦った西野朗監督の采配である。

 ポーランドに0−1で敗れながら、フェアプレーポイントの差で勝ち上がる幸運な試合を現場で眺めながら、筆者は西野監督が登録選手を1戦ずつ徐々に変えていかなかった、その起用法を恨んだ。目先の結果に追われたことで、それができなかったからだと考えられるが、もしAで戦った4戦目のベルギー戦に勝利していたら、5戦目(準々決勝)は体力的に考えてBで戦うしか方法がなかったのだ。

 大会後、新監督に就任した森保監督は、目標はW杯ベスト8だと宣言した。非西野式で戦わなければそれは難しい。ところが、2017年のアジアカップでも、2020年の東京五輪でも、森保監督は西野式で戦った。東京五輪後、なぜ選手をローテーションで起用することができなかったのかと問われると、森保監督はこう述べた。

旧態依然とした起用法

「先を見越して戦うことはまだできない。世界の中で日本が勝ち上がろうとした時、1戦1戦フルで戦いながら次に向かっていくことが現実的である」

 絶望的なコメントとはこのことである。それでよく目標を問われたとき、W杯ベスト8と答えたものだ。どんな方法論で準々決勝までに辿り着こうと考えているのか。

 限界はグループリーグの3戦目に訪れる。それ以降は、まさに当たって砕けろと言わんばかりの精神性を最大の拠りどころに戦うことになる。それが日本にとって現実的な戦いだと考えていない筆者には、森保監督続投が確定的になった韓国戦の完勝劇は、100%喜べない結果と言わざるを得ないのだ。

 E−1選手権は韓国戦が最終戦だった。しかし4戦目以降があるトーナメントの大会だったら森保監督は次戦に、どんなスタメンを組むつもりだったのか。Aで戦うことは体力的に難しい。戦力ダウン必至のBで戦うこともできない。AとB、さらにはCを加えた融合チームでもコンビネーション的に見てあまりにも冒険的だ。

 招集した26人を森保監督がどうローテーションして使い回すか。筆者にとってそれこそが今大会の最大の見どころで、優勝できるか否かよりはるかに重要なポイントだった。結果はもちろん不合格。にもかかわらず続投がほぼ確定した。だから喜べないのである。

 今回、Aチームの中核を成したのは、横浜F・マリノスの選手たちだった。同チームがJリーグで首位を行く原因を考えたとき、一番にくるのはケヴィン・マスカット監督の采配だ。登録選手を毎試合、少しずつローテーションさせながら循環させるその起用術にある。

 森保監督が横浜FMの選手を大量に使い、同チームに似たスタイルで韓国に完勝する様を見ていると、ならば今季、2試合続けて同じスタメンで戦ったことがないマスカットの選手起用法もマネるべきだとアドバイスしたくなる。少しずつスタメンをいじりながら次の試合に向かうことの重要性、および意義や利点について、続投が確定的になった森保監督は学ばなくてはならない。旧態依然とした日本的と言いたくなるその起用法を改めない限り、3戦目以降のスタメンは見えてこないのである。