長年点をとり続けるピーター・ウタカが考えるストライカー像。「ひらめきを感じ、即興的にプレーする必要がある」
京都サンガF.C. ピーター・ウタカ インタビュー 中編
前編「ウタカが語る日本とJリーグ」はこちら>>
後編「ウタカのお団子ヘアの秘密」はこちら>>
2015年に初めてJリーグに来て以来、日本での「すばらしい生活」を続けているという京都サンガF.C.のピーター・ウタカ。インタビュー中編では、ストライカーとしてプレーするようになった経緯や、FWとしての彼の考えを聞いた。
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プロになる前に、得点力を磨いたというピーター・ウタカ
「ナイジェリアでは、子どもが生まれて歩くようになったら、すぐにボールを渡されるんだ。僕の母国では、フットボールが絶対的なナンバーワンスポーツだからね。そんなわけで、自分がフットボールを始めた頃のことは覚えていないよ(笑)」
ピーター・ウタカはそう言って、また朗らかに笑った。そんなふうに自然にボールと戯れるようになると、物心がつく頃には、兄のジョンと毎日、1対1やドリブルの競争に明け暮れたという。
「ジョンがいたからこそ、僕はプロのフットボーラーになれたんだ。小さい頃から、いつも彼とボールを蹴っていたけど、ほぼすべてにおいて、僕に勝ち目はなかった。兄は強くて速く、ボールテクニックにも秀でていた。だから僕としては、唯一、ジョンに勝てるのは得点力だと考え、そこを磨いていったんだ」
決定力を高める上で参考にした選手は、元ブラジル代表のロナウドだという。2002年の日韓W杯でセレソンの優勝に大きく貢献したレジェンドは、ウタカにとって、兄のジョンの次に影響を受けた選手だ。
「彼は完璧なストライカーだった。曲芸のようなフェイントはせず、すさまじいスピードのドリブルで常にゴールを目指し、いとも簡単にネットを揺らしていた。左右両足と頭から、質の高いフィニッシュでね」
ウタカは元々、ウイングを主戦場としていたが、2008年に移籍したデンマークのオーデンセでラルス・オルセン監督からセンターフォワードにコンバートされ、得点力が開花した。2009−10シーズンにはキャリア初の1部リーグ得点王となり、その1年半後には中国の大連阿爾濱足球倶楽部に高額で迎えられた。そこから3年後に、「アジア最高のリーグに挑戦するために」清水エスパルスからのオファーを承諾した。
ディフェンス面が上達した「Jリーグのレベルが高いことは知っていたけど、実際にプレーしてみて、それが本当だとわかった。選手は皆、俊敏で技術も高い。しかも、全体のレベルは年を追うごとに高まっていると感じている」
おそらく、それはリップサービスではないだろう。ウタカは正直な人に見えるし、そのあとには、日本人選手が改善すべき点もはっきりと口にした。
「日本人はどんな時でもルールを守るし、指導者の教えを仰ごうとするよね。それ自体は悪いことではないんだけど、フットボールのピッチ上で常にそうしていては、うまくいかないと思う。
とくにストライカーなら、ひらめきを感じ、即興的にプレーする必要がある。当然ながら、重要な瞬間にルールばかりを気にしたり、誰かの指示を待ったりするような暇はない。時には自分の感じたままに体を動かし、思いきり足を振ることも大事なんだ。そのためには、自分を信じ抜く強いメンタリティが必要になるね」
また技術的には、「GKを外すタイミングでシュートを打てるようになったらいいと思う。ちょっと正直すぎるタイミングのシュートが多い気がする」と指摘する。ただしウタカ自身も、Jリーグでまだまだ成長できていることを日々実感していると言う。38歳になった今もなお。
「フットボールでも人生でも、いくつになっても、成長できるものだよね」と、何ごとにもポジティブに取り組むウタカは言う。
「誰にでも、常に改善の余地があると僕は考えている。フィジカルだって、まだまだ強化できる。筋肉もつけようと思えばつけられるさ。それから近年で言えば、ディフェンス面が上達したと感じている。
おそらく日本で僕はゴールスコアラーとして知られていると思うけど、それはこれまでの監督が僕にそれを求めてきたからなんだ。でも昨年から京都(サンガF.C.)で指導を受けている者(貴裁)さんには、得点だけでなく、ハイプレスやアシストも求められている。確かにそれまでは守備が得意とは言えなかったけど、今ではかなり自信がついてきた」
モチベーションが落ちたことは一度もない就任1年目で京都をJ1昇格に導いた者監督については、「練習はすごく厳しいけど、理にかなったものだ。優れた指導者だと思う」と言う。指揮官にとっても、チームでダントツの最年長のベテランが献身的に新しいことに挑み、そのうえゴールまで重ねてくれるのだから、頼もしいはずだ。
実際、ウタカのそんな姿を見て、若手も奮起しているようだ。今の京都には、「全員が切磋琢磨しようとするいいムードがある。僕も仲間に刺激を受けているし、いいものは自分のプレーに取り入れている」とウタカは明かす。
「暑くなってきたけど、トレーニングが嫌だと感じたことはない」とウタカは両目を輝かせる。「モチベーションが落ちたことは一度もないし、だからこそ、こうして長く選手キャリアを続けていられるんだと思う」
いくつになっても新しいことに挑み、決定力に磨きをかけ続けるウタカの活躍もあり、昇格組の京都は多くのJ1の常連を差し置いて、中位に入っている。彼が称える「結束力」を維持し、暑い夏を乗りきれば、さらなる高みも見えてくるかもしれない。
(後編につづく>>)
ピーター・ウタカ
Peter Utaka/1984年2月12日生まれ。ナイジェリア・エヌグ出身。京都サンガF.C.所属のFW。2003年にマースメヘレンでデビューしたベルギーでは3チームでプレーし、その後4シーズンを過ごしたデンマークのオーデンセでは、2009−10シーズンに得点王を獲得。2012年からは中国でプレーし、2015年に清水エスパルスへ。翌2016年、サンフレッチェ広島でJ1得点王を獲得。その後FC東京、ヴェイレ(デンマーク)、徳島ヴォルティス、ヴァンフォーレ甲府、2020年から京都でプレーしている。