巨大企業アマゾンの採用面接官が、候補者を見るポイントとは(写真:takeuchi masato/PIXTA)

1995年に創業し、時価総額世界一にもなった巨大企業アマゾン。特筆すべきは、同社は今も驚異の成長を続けていることだが、その原動力は画期的なサービスや技術力ではなく、ジェフ・ベゾスたちが試行錯誤の末にたどり着いた人事制度である。優秀な人材を雇い入れ、最大限にパフォーマンスを発揮させることで、持続的な成長を可能にしている。その人事制度ができあがっていくのをアマゾン内部で体験した佐藤将之氏の新著『amazonのすごい人事戦略』から、アマゾンの採用面接官が候補者に対して聞くポイントを紹介する。

失敗をポジティブにとらえるアマゾン

アマゾンは失敗を否定しない会社です。誰もやったことのないことに初めて挑戦する人が、100%成功するなんてありえない。だから失敗は否定しない。でも上手に失敗しないと次につながらないから、どのように上手に失敗したのかを教えてもらう。そういう考え方をするので、採用面接でも「どんな失敗をしてきましたか」ということをよく尋ねます。


めでたく採用された人から面接のときの印象を聞くと、

「アマゾンって、面接のとき、失敗した経験しか聞かないんですね」

と言われたこともあります。やはり、そういうシチュエーションのときにどう行動したかに、その人の本当の力が出やすいからです。成功したときは、たまたまほかにも追い風が吹いているケースもあるから真の原因がわかりにくい。でも失敗したケースではその人の本質が出る。

応募する側からすると、

「前職では会社にこんなに損失を与えてしまいました」

なんて言えば、もう採用されないのではないかと心配になるかもしれません。でもその失敗の質や内容によっては、むしろポジティブにとらえられます。大事なのは失敗から何を学んだかです。アマゾンでは、失敗をきちんと表明することが、人から信頼を得るための資質だとも考えています。

だから失敗をちゃんと言えないようでは、逆に困るのです。そうでないと入社してからも、何か困っていることがあってもそれを言えなくなってしまう。

失敗して困るのは、私たちではなくてお客さまであることを考えれば、正直に話せる資質が求められます。

アマゾンではよく、「STAR(スター)に気を付けて面接してくださいね」といいます。STARとは、Situation、Task、Action、Resultの頭文字をとったもの。

つまり、過去にどんな状況(Situation)で、どんな責務(Task)を負って、どのような行動(Action)をとって、どのような結果(Result)を導くことができたのかを確認してもらう。この4つを確認しないと意味がありません。

たとえば候補者が人事担当者で、その実績を確認する際には、

「あなたが経験した採用のなかで、いちばん難しかった採用について教えてください。それはどのような状況でしたか?」

「あなたはその採用でどんな責務を負っていましたか?」

「その中で実際にどのように行動しましたか?」

「最終的にどんな結果でしたか?」

というように聞く。

すると相手は、

「急に事業を拡大することになって人を大量に採用しなければいけない状況でした。私はその採用のスペシャルタスクフォースのチームの1人で、短期間でより効率的に、しかも質のいい人を採用しなければならないというタスクを負っていました。私はその中でも採用のメンバーのリーダーで、それぞれの採用チームのメンバーが効率よく面接ができるように、時間の配分や候補者の割り振りを人事と一緒に決めていました」

と答える。

そこで、「最終的に、あなたはどんなアクションをしたのですか?」と聞いて、

「面接に来ていただいた方の時間をなるべく無駄にしないように、3人セットの面接の方法を提案しました。それによって、効率よく採用プロセスが進むようになりました。その結果、予定通りに採用を完了することができ、かつ、その採用したメンバーたちがその後にいい成果を出してくれたので、われわれが条件に見合った人たちを採用することができました」

というようなことを言うと、その人はパーフェクトです。

気になったところはSTARで深掘り

こんなふうに、全部深掘りしていくと、途中で、「ん?」と思うことが出てくるときもあります。そんなときはそこを集中的に深掘りします。

「それはどうしてですか?」

「どうして、そういうふうにしたのですか?」

「その結果どうなったのですか?」

そうやって深掘りをしていくことで「STAR」に沿ったストーリーを話してもらいます。

なぜこんなにしつこく深掘りするかというと、結局、再現性があるかどうかを知りたいからです。

「私はこの会社で100億売り上げました」

といっても、1兆円の売り上げのある会社であれば、100億円を売り上げたからといって、アマゾンが採用すべき人かといえば、おそらく違います。

どうやってその100億をつくったのかを詳しく聞いていくことで、

「いや、実はわれわれの会社は1兆円の売り上げがあるので、ルートセールスで週に1回、そのお客さまからニーズを聞いて、それに対応するだけで100億の売り上げが立つんです」

ということがわかるかもしれない。

候補者がアマゾンという環境の中で、同じ仕事ができるかどうかを調べるためには、この深掘りが絶対に必要です。

再現性の裏付けをとる

最後のActionとResultは特に必要です。

「いや、このときはチームが優秀だったので、私が手をかけなくてもチームが動いてくれたので数字を出すことができました」

と言われたとします。それはその候補者がマネジャーとして彼らをきちんとコントロールしていたからなのか、それともただボーッと見ていたら、みんなが一生懸命働いてくれたおかげかでは、全然違います。

「あなたはそのチームのメンバーの方々と、どのようにコミュニケーションしたのですか?」と聞いて、「特に何もしていません」という答えが返ってきたら、これはアウトです。

「一人ひとりと毎朝10分間の面談をして、今日のタスクと、やり方を確認してやってもらいました」

という回答であれば、「なるほど、そうやって管理していたのか」とわかる。そういう細かいところまで、根掘り葉掘り聞きます。

そうすると、その人がちゃんと自分の頭で考えて行動をして結果出したかどうか、同じことがアマゾンに入社してから再現できるかどうかが確認できるというわけです。

(佐藤 将之 : エバーグローイングパートナーズ代表取締役/事業成長支援アドバイザー)